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崩れつつある中央銀行の業務の垣根 政策のあり方に大きな影響を与える変化

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柳川範之 東京大学大学院教授(やながわ・のりゆき)1963年生まれ。慶応大学通信教育課程卒業。93年東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。経済学博士(東京大学)。東京大学助教授などを経て2011年から現職。主著に『法と企業行動の経済分析』『独学という道もある』など。(撮影:今井康一)

近年の構造変化の特徴の1つは、産業の垣根が崩れていることだ。例えば、ネット配信によって放送と通信の垣根は低くなり、フィンテックに象徴されるように、金融業とIT産業とのつながりも密接になっている。

その原因は、当然技術革新である。人工知能の発達やIoT(モノのインターネット)の進展などによって今後、それまでの技術では難しかった情報やデータが得られるようになるだろう。そうすれば、よりいっそう異分野・他産業への進出が容易になったり、新しい分野との連携に今までにはないシナジーが生じたりする。結果的に、ますます既存の産業の垣根は低くなっていくことだろう。

このような産業構造の変化は、政策のあり方にも大きな影響を与える。なぜならば、多くの政策は、業法などがベースになっており、その業法は、既存の産業の分類を基に作られているからだ。業界をまたぐようなビジネスや既存の業法に当てはまらないような業務が出てくると、場合によっては既存の業法がそのビジネスを邪魔することになりかねない。

したがって、産業の垣根を壊すようなビジネスが多く出てくる時代には、法律や規制を工夫することが重要になる。そのため、例えば金融行政においては、業種別の縦割り構造から機能横断的な法律体系に移行させるべく検討が続けられている。

このような議論において、通常見過ごされがちなのは、貨幣発行量の調整を中心とした金融政策を行う中央銀行の活動に関する垣根である。

中央銀行の業務は通常、それ自体が1つの産業として定義されているとは言えない。しかし、技術革新によって中央銀行の業務と、他産業の民間が行う業務との垣根は、かなり低くなってきている。

この点を結果的に明らかにしたのが、米フェイスブックがサービスを計画するデジタル通貨のリブラだろう。リブラにはさまざまな論点があるが、マネーロンダリング対策をきちんとやろうとすると、規制を強めざるをえなくなったり、コストがかかりすぎたりする。これは、リブラのメリットをかなり低下させかねず、現実的には大きな課題であろう。

しかし、中央銀行の行っている貨幣発行にかなり近いことを、あるいは場合によっては、それをより利便性の高い形で少なくとも技術的には行うことができることを示したという点では、大きなインパクトがあるものだ。

もちろん、現状では、法定通貨を民間経済主体が勝手に発行することは制度的にできず、中央銀行の役割と、貨幣的なサービスを行う民間企業とを同列に扱うことはまったくできない。しかし、今後もさまざまな形のデジタル通貨やデジタル金融サービスが開発される中で、より利便性の高いサービスも現れてくると考えられる。

そうなった場合、中央銀行の業務と民間企業のビジネスとの垣根が実質的になくなり、マネーサプライの実質的なコントロールパワーを中央銀行が失うのではないか。それが中央銀行に生じた危機感だろう。

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