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国連制裁と乱獲の果てに… 急増する北朝鮮の漂着船 「近頃は魚の数より漁師のほうが多い」

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2019年1月に島根県隠岐の島町の海岸に漂着した北朝鮮の漁船(時事)

北朝鮮の「幽霊船」が日本海沿岸に頻繁に流れ着くようになった。主に乗組員が逃れた後の木造船だが、遺体や餓死寸前の漁師が乗っていることもある。

漂着が増えた理由としては、北朝鮮政府の関与が取り沙汰されることが多い。曰(いわ)く、外貨を稼ぎたい政府が漁獲量拡大のため、漁師に遠出を命じているというのだ。

しかし、現実はもっと複雑だ。北朝鮮は確かに全体主義国家だが、ここでは政府の関与は二次的なものにすぎない。むしろ政府が導入を進めた市場原理のほうが、直接の引き金になっている。

北朝鮮では漁業の民営化が進み、漁船が急増した。数カ月前に東部沿岸の元山(ウォンサン)を出港する漁船の数を実際に数えたことがあるが、驚くべき光景だった。あんなに多くの船が海に浮かんでいるのを目にしたのは初めてだ。衛星写真を見ても、北朝鮮の港が木造船であふれかえっているのがすぐにわかる。

金正恩(キムジョンウン)委員長の治世で北朝鮮の経済は大きく改善し、漁船を手に入れるのに必要な1000ドルほどの資金を工面できる国民も増えた。現代の北朝鮮は以前ほど貧しくはなく、蓄えを有望な事業に投資し、稼ぎを増やそうと考える人が増えても何ら不思議はない。

漁業は危険できつい仕事だが、確かに儲かる。実際、海沿いの小さな町で、役人とのコネを持たない家に育った人間がまずまず稼げる仕事に就こうと思ったら、漁業関係以外の選択肢はあまりない。

しかし漁船が急増したことで競争は激化している。北朝鮮の漁師がこんな冗談を言っていた。「近頃は魚の数より漁師のほうが多い」。あながち笑い話とも言えない。近海では漁獲量が確保できないので、日本海中央部にある大和堆(やまとたい)のような好漁場に向けて、貧相な船でますます遠出しなければならなくなっているからだ。

近海の水産資源は目に見えて減っている。北朝鮮の漁師10人ほどに話を聞いてみたところ、ほぼ全員が1990年代半ばから魚が減り続けていると答えた。

最大の理由は乱獲だ。基本的には北朝鮮の自業自得だが、最近では底引き網漁を行う中国漁船が現れ、漁場がさらに荒らされている。気候変動の影響も考えられる。

儲からない密輸

2017年に強化された国連制裁も影を落としている。北朝鮮の沿岸漁業は90年代以降、ほぼ完全に輸出産業と化し、水揚げされる魚介類の大半が中国に出荷されてきた。中国産を装って、日本や韓国の店に並ぶこともあった。

中国は今も輸入を続けている。国連制裁の対象になってからは密輸の形で、だ。しかし密輸には危険が伴うので、リスクに見合った利益を望む中国人業者にかなり買いたたかれることになる。かくて、北朝鮮の水産物価格は急落した。

とはいえ、漁師が船の登録料として当局に納めねばならない税金は以前と同じ。そのため、必要な税金を何とか捻出し、少しでも儲けを手元に残すには、さらに大きな危険を覚悟でもっと遠方の沖合を目指すほかなくなっている。

国連が漁業を制裁対象にしたのは、もっともなことだ。漁業は北朝鮮の重要な外貨獲得手段であり、漁師が釣ったイカの一匹一匹が、少額とはいえ大陸間弾道ミサイルの開発資金に化けている。

幽霊船の悲劇はすぐには減らせない。だが長い目で見れば一つ解決策がある。経済成長だ。北朝鮮が豊かになれば、漁師はもっとまともな船を買うようになるだろうし、別の安全な仕事に就く人も増えるだろう。国が豊かになれば、乱獲の取り締まりも強化できよう。

しかし残念ながら、経済を一夜にして成長させることはできない。いくら北朝鮮といえども、この原則からは逃れられないのだ。

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