人的資本の「見える化」がつくる企業価値の新潮流 企業の価値は「ヒト・ヒト・ヒト」で評価する時代

今、企業の成長戦略において重要な視点は何か。非財務の側面に注目が集まり、「人的資本経営」もその1つだといわれ始めている。その理由について、世界最先端の経営のトレンドに詳しい慶應義塾大学の岩本隆特任教授と、データを活用したタレントマネジメントシステム「タレントパレット」を開発するプラスアルファ・コンサルティングの鈴村賢治取締役副社長が対談。アカデミアとビジネスの観点から考察する。 

成長企業の共通点から見える「人的資本」のインパクト

企業にとって「人的資本」は
重要な成長要素の1つ

慶應義塾大学
大学院経営管理研究科/ビジネス・スクール
特任教授
岩本 隆 氏

――​近年、「人的資本」が経営やビジネスにおいて注目されるようになってきました。その背景にはどのようなビジネス環境の変化があるのでしょうか。

岩本 そもそも「人的資本」というのは、「付加価値を生み出しうる資本としての従業員」を指します。企業が成長していくうえで「モノづくり」をしていればよかった時代から、「コトづくり」を重視しなければならなくなってきました。米国において1980年代以降、製造業が落ち込み、90年代にテクノロジー関連の企業が世界経済を牽引してから、日本でも同様の流れになってきましたよね。

鈴村 確かに、企業は「ヒト・モノ・カネ」から「ヒト・ヒト・ヒト」になりつつあるといわれています。とくにITやサービスといった事業における提供価値は従業員のスキルが生み出しますから、「人材」こそが企業の成長源と見なされます。

また、投資家目線では、企業価値の見極めに「人材」という尺度を取り入れるニーズが高まりました。そうした中で注目されているのが「ISO 30414」です。

岩本 おっしゃるとおりです。財務諸表を分析したところで、人的資本は見えてきません。「ISO 30414」は人的資本の国際基準として、2018年、ダイバーシティや生産性など11領域58項目で明確にしたもので、企業が人的資本を開示するためのガイドラインとしての役目があります。

実際に、21年6月には内閣官房が成長戦略として人的資本開示を掲げています。人的資本の開示が十分でないと、企業としての成長性が見えないという理由で投資の回避や格付けを低く見積もられる可能性も高まっていくのではないでしょうか。

「経験と勘が当たり前」の通用しない人事が変化すべき局面に突入

――では、日本企業の実情をどう見ていますか。

データを活用して
「科学的人事」を実践する

プラスアルファ・コンサルティング
取締役副社長
鈴村 賢治 氏

鈴村 「人的資本の見える化」の取り組みは始まったばかりです。現状、ほとんどの企業ではデータが散在しているなどの理由から人材の見える化ができていません。そのため思ったような人材活用ができていない企業も多いのではないのでしょうか。

岩本 グローバルで日本企業の競争力が弱くなったといわれていますが、実は企業が人材を使いこなせていないことに根本的な理由があるといわれています。

鈴村 一方で「企業成長に向けて人事が変わらなくてはならない」と考える先進企業が増えていることも肌で感じています。人材マネジメントはどのように変わっていくべきだと岩本先生はお考えですか。

岩本 モノやカネと同様に、ヒトについても定量的なデータを用いて可視化する必要が生じつつあると考えています。「企業は人なり」という経営の格言がありますが、日本では今、その「人なり」の意味するところが変わってきています。大量生産時代のように皆が一様に働くだけでは世界市場では戦えない。

人的資本を見える化した先には、会社は社員一人ひとりを「プロスポーツ選手」のように捉えて人材の能力やスキルを正しく把握し、それぞれのポテンシャルを存分に発揮できる人材マネジメントを実践していく必要があるんです。

鈴村 日本企業ではジョブ型主流の欧米企業と異なり、ある特定のスキルを持った人材が必要だからといって外部登用していくのではなく、社内にいる人材を育成したり抜擢するという考え方も必要だと考えているのですが、いかがでしょうか。

岩本 社内人材を育成するほうが性に合っている企業も少なくないはずです。日本企業に特徴的なカルチャーとして、自律的に行動し、課題を見つけて改善しようとするメンバーシップ精神を持つ傾向があります。実は、これがイノベーションのプロセスそのものなんです。企業の成長にはイノベーションが欠かせませんから、これからの日本企業は社内人材をいかに育てるかが、ますます重要になっていきます。

鈴村 企業からの相談でも、あえて外部から人材を登用するのではなく、中長期で社員のポテンシャルを生かし、自律的なキャリア形成やリスキリング(学び直し)を含めた育成計画を真剣に進めていきたい、といった内容をいただくことがあります。それに付随して経験と勘に依存しない、データに基づいた科学的な人材マネジメントをしていくニーズも少しずつ高まってきているようです。

そうした意味で、これまでも多くの企業では所属や経歴などの「静的な」データは管理されてきましたが、今後はそれだけでは不十分だといえます。

岩本 そうですね。仕事の適性やキャリアに対する本人の考え、モチベーションなどに焦点を当てた「動的な」データを組み合わせて意思決定することが重要だと考えています。

ただ、そうすると膨大なデータ量になるので、手作業では無理があります。経営者や人事部はスーパーマンではありませんから、すべての従業員の能力を把握するのは難しい。だからこそ「HRテクノロジー」が重要なんです。

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これらのデータを一元管理することで、経営・人事戦略の意思決定の高度化、次世代人材の育成、最適配置、離職防止、採用強化などの科学的人事戦略を実現できる

可視化した人的資本を活用して企業の成長を左右する「科学的人事」

――これからの企業に必要な人材マネジメントを実践していくために、どのように「HRテクノロジー」を活用していけばいいでしょうか?

鈴村 さまざまな人事データを管理、把握、分析するシステムが必要です。そして蓄積されたデータを活用して、「科学的人事」を実践することが重要になっていくでしょう。

岩本 科学的人事を実践するためには、具体的で定量的な目標を設定する必要があります。「タレントパレット」では具体的にどんなことが実現できますか。

鈴村 入社から現時点の活躍状況まで、従業員のデータを一気通貫して時系列で把握、分析することができます。人材の管理のみならず活用をアシストするさまざまな機能を搭載し、経歴や適性、評価などのあらゆる人事データをワンクリックで確認できるほか、テキストマイニング技術で社員から集めた意見や要望を収集・分析できる人事に必要な機能がオールインワンのタレントマネジメントシステムです。

22年4月には、コンサルティングを通じて「ISO 30414」を基に、企業の人的資本を見える化するダッシュボードの構築が可能になりました。「ISO 30414」の規定項目だけでなく、当社のこれまでの知見を生かして、"人材育成に向けたスキルの可視化"や"最適配置に向けた必要人材の可視化"など、企業の人事戦略に重要な意思決定や人材活用を支援します。

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タレントパレットでは、所属する人材のダイバーシティ、従業員満足度や社員の声、モチベーションなど詳細までモニタリングできる
人的資本を可視化するタレントパレットを詳しく知りたい

岩本 データを活用した科学的な人材マネジメントの実践に役立ちますね。とくに「ISO 30414」に基づいた指標がそろっている点は魅力的だと感じました。

「科学的人事」をどのように実践するか、そして成果を出していくかが、グローバル市場で企業が生き残れるかどうかに大きく関わってくると予想しています。そうした中で、世界的な「人的資本」の評価軸で自社を把握できれば、適切な人事戦略を立てることができるでしょう。

鈴村 まさに当社が狙いとしているところです。実際、われわれの提供するタレントパレットは、人材のポテンシャルを経営層、人事担当者が理解できるプラットフォームとして、業界を問わず多くの企業に導入されています。

岩本 業界にかかわらず、あらゆる企業にとって「人的資本」は重要な成長要素の1つですからね。

それに、科学的な人材マネジメントは、優秀な若手人材の獲得にも好影響を及ぼします。新卒も以前とは異なり、給与や待遇よりも、「この企業で成長できるのか」「この企業で自分は幸福な人生を送れるのか」という観点で進路を選ぶ傾向にありますから、科学的人事による人材マネジメントを採用しているというメッセージは新卒にも響くでしょう。

「タレントパレット」は人的資本経営の土台となる人材の確保にも功を奏するかもしれません。

鈴村 「経験と勘」だけでなく人事データを活用して科学的な人事戦略を打ち出すことで、多くの社員が活躍できるようになり、会社全体の組織力の向上や企業成長につながっていくはずです。

岩本 投資家や人材など、あらゆるステークホルダーから選ばれる会社であってこそ、持続的な成長を見据えることができるでしょう。HRテクノロジーが、事業成長にとって不可欠なシステムだという認識が広まってきました。

データを基に評価から抜擢までトータルで行えるタレントパレットの魅力は、さらに注目されていきそうですね。

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