顔認証の普及と定着を目指す、クマヒラとNEC 強い共創関係はどうやって育まれたのか

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顔で本人確認をする──。顔認証技術の利用は、もはや珍しい光景ではなくなった。先行している分野の1つがセキュリティだ。ICカードではなく顔認証でセキュリティゲートを通過するようにすれば、なりすましのリスクを低減できるし、紛失や盗難に対応しなければならない管理者の負担も軽減できる。この顔認証を採用したセキュリティゲートにおいて大きな存在感を発揮しているのがクマヒラとNECである。両社は密接なパートナーシップを構築し、「共創」と表現するにふさわしいビジネスを共に展開している。顔認証やセキュリティ分野の最新動向に加えて、理想的な企業連携の背景についても話を聞いた。

安全で便利。非接触なのも強み。普及する顔認証

これまでICカードやID/パスワードで行っていた本人確認を顔で行うという顔認証技術の活用が社会全体で進んでいる。決済、会員制サービスの受け付け、PCやスマートフォンのログインなど、用途もさまざまな分野に広がっているが、中心的な用途の1つが入退室管理である。オフィスビルのエントランスにあるセキュリティゲートや執務室のドアを顔で認証して通過する。こんな光景を見たことがある人も多いのではないだろうか。

クマヒラ
トータルサポート事業部
セキュリティ企画室 室長
這越(はえこし)克己

「ICカードは紛失したり、盗難されたりしてしまうと『なりすまし』のリスクがあります。また、管理部門は紛失・盗難に対応するためにICカードの失効や再発行の手続きを行うことが負担となっています。顔認証なら、これらの課題を解決できます。加えて同じ生体認証でも指紋などと違って非接触で認証できる。コロナ禍における非接触へのニーズも顔認証に対する注目を高めています」。こう説明するのはクマヒラの這越克己氏である。

クマヒラは120年以上の歴史を持つトータルセキュリティ企業である。書類庫、金庫の製造と販売からスタートし、現在は金融機関向け設備、セキュリティシステム、原子力設備、空間プランニング、文化財設備という5つの事業を展開。入退室管理、セキュリティゲートなど、幅広い製品の開発・製造、販売・施工・メンテナンスを手がけている。

このような事業の中で、同社は顔認証を実装したセキュリティシステムの開発にも積極的に取り組み、高まる顧客ニーズに応えている。

素早く認証して通過させる。
顔認証は精度とスピードが重要

顔認証を採用しているクマヒラ製品の1つが「GG-2」という入退室管理システムだ。

GG-2は、認証デバイスやセキュリティゲートなどのハードウェア、管理ソフトウェアなどで構成されている。オフィス、アミューズメント施設など、設置場所に合った外観のセキュリティゲートを選べたり、認証デバイスはできるだけ目立たないようにスリムなデザインに工夫されていたりするなど、デザイン性に対する評価は高く、グッドデザイン賞も何度も受賞している。

特徴はそれだけではない。管理ソフトは、各機器の設定や稼働状況、入退室履歴データなどを一元管理することが可能。さらに認証方法はICカードだけではなく、顔認証をはじめ指紋、静脈、虹彩などの各種生体認証に対応しており、「ICカードだけ」「生体認証だけ」「ICカードと生体認証の2要素認証」と求めるセキュリティレベルや運用方法によって柔軟に選択することができる。

「機器やデータを一元管理できるため、一度、生体情報を登録しておけば、エントランスのセキュリティゲート、執務室のドア、鍵管理ロッカーなど、複数の設備を横断して利用可能。安全性と利便性を高めることができます」と這越氏は言う。

顔認証のエンジンとして採用しているのはNECの技術だ。

「NECの顔認証の精度やスピードを高く評価して、GG-2の標準技術として採用しています。まず精度については外部機関の評価によって、その高さが証明されています。また、デモなどを通じてスピード面でも優位性があることを確認できました。セキュリティゲートは、とくにラッシュ時間帯には連続して多くの人が通過するため、認証に手間取って渋滞を起こすわけにはいきませんからスピードは必須の条件となります。もともとNECは長い歴史と実績を持つ顔認証のパイオニア的存在であり、最近ではマスクをしていても認証できるマスク対応も話題になっています。そうしたこともあって『顔認証といえばNEC』と認識しておられるお客様も多く、実際『GG-2の顔認証はNECです』とご紹介すると、それだけで安心していただけます」と這越氏は語る。
※2009年以来、米国国立標準技術研究所(NIST)による顔認証ベンチマークテストで第1位を獲得

「共創」によって完成度の高いシステムを開発

クマヒラとNECは、単に部品の調達と提供といった一般的な取引ではなく、2017年にクマヒラがNECの「NEC 共創コミュニティfor Partner」の中の顔認証コミュニティに加入して以来、密接なパートナーシップを結んでいる。双方の技術・製品情報を開示したり、互いに意見をぶつけ合ったりしながら、GG-2の顔認証の実装に取り組み、それがGG-2のシステムとしての完成度の高さにつながっている。また、システム完成後も共同で展示会に出展するなど、マーケティング活動を共に行い、まさにパートナーと呼ぶにふさわしい関係を継続している。
※参考ページ「クマヒラの物理セキュリティと顔認証が連携し、セキュリティ強化・効率化を両立!

「精度やスピードなど技術面の優位性だけでなく、共に製品開発に取り組んでくれる。例えば管理ソフトからNECの顔認証デバイスも一元管理できるようになっているのは、その大きな成果です。また顔認証以外の生体認証技術も保有しており、それらを活用していける可能性もある。当初、NECの顔認証技術を採用する際に、期待した強固なパートナーシップが実現しています」(這越氏)

このようなパートナーシップのもと、顔認証仕様のGG-2は、すでに金融機関や製造業の工場、エネルギープラントなどに導入されている。また、それ以外にも、多くの引き合いがあるという。

「NECが掲げる『共創』を、まさに2社で実践してきました。現在はとくに高度なセキュリティを求めるお客様の導入が先行していますが、安全性と利便性を高めたいという思いは多くのお客様に共通しています。今後、幅広いお客様に積極的に提案していきます」(這越氏)

提案はクマヒラが中心に行っているが、導入フェーズではクマヒラとNECが相互に強みを持ち寄り、適切な体制で顧客を支援している。とくに顔認証の最適化についてはNECが持つノウハウが不可欠だという。

「カメラ型のデバイスにするか、タブレット型のデバイスにするか。設置する高さはどれくらいがよいか。屋外に設置することは可能か。強い西日など、認証精度に影響を与えそうな条件はないか。顔認証技術にしっかりと性能を発揮させるには専門的なノウハウがあります。NECは、長年の実績を通じて、そのノウハウを豊富に蓄積しています。現場に足を運び、実際の場所を見ながら、そのノウハウを生かした設計を提案し、適切なシステムを提供しています」と這越氏は強調する。

今後も両社は、双方の技術や製品、そしてパートナーシップに磨きをかけながら、顔認証によるセキュリティシステムの高度化を図っていく。

「すでにICカード仕様のGG-2を導入しているお客様に、顔認証の追加による安全性と利便性の向上、感染リスクの低減を提案するなど、さまざまな展開を考えています。イベント会場の設置に適した簡単設置・簡単撤収が可能なシステム、中小規模のオフィスに向けてさらなる省スペースを図ったシステムなど、製品ラインナップの拡充にも取り組んでいきます」と這越氏は強調する。

近年、製造業の間では、モノからコトへのシフトが大きなテーマとなっているが、両社が提供するのは安全・安心、そして便利。どのように顔認証の社会実装をリードし、その価値を提供していくのか。クマヒラとNECの共創の今後に注目したい。