原点の奈良へ、大和ハウスの新しい人財育成の場 地域に開かれた研修施設・コトクリエの誕生秘話

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敷地に囲いはなく、散策路や庭は地域に開かれている。建設地は平城京の跡地であったため、建設前に発掘調査が行われた
昨年10月、古都・奈良県の奈良市に「大和ハウスグループ みらい価値共創センター(愛称:コトクリエ)」が開所した。「森の会所」をコンセプトにしたこの施設は、「共創共生」という同グループの理念を伝承していきながら、新しい価値を生み出す人財を育てていくためのものである。人が集い、共に学び、共に創り出し、共に生きていくことを目指すこのセンターは、これからの人財育成のあり方をも指し示している。

大和ハウス工業の社名の由来であり、創業者の生まれ故郷・大和の地に建てられた「みらい価値共創センター」。開設の経緯や今後の取り組みについて、大和ハウス工業 人財・組織開発部長の池田秀司氏に話を聞いた。

――いつ頃から、どういった経緯でこの計画は始まったのでしょうか。

当社は社是の最初に「事業を通じて人を育てること」と掲げています。2015年頃、当時の樋口武男会長(現・最高顧問)がそうした社是にふさわしい施設が必要ではないかと考えたことがきっかけでした。

大和ハウス工業
人財・組織開発部
部長 池田 秀司氏

もちろん当時も研修施設はありましたが、施設の老朽化や、場所が分散していることによる使い勝手などの課題がありました。そこで「共に創る。共に生きる。」という当社の理念を継承しながら、人財育成をしていくための新たな施設をつくることになりました。

――建物づくりは貴社の事業そのものですね。

当初はグループ内の力を結集して完結させるつもりで計画を進めました。しかしそうすると、どうしても発想が限られますし、自分たちの資源だけでやろうとするのは時代にもそぐわないと考え直し、途中から建築家の小堀哲夫さんに参画していただきました。

するとまず小堀さんは、当社グループ社員約150名が参加するワークショップを実施されました。日頃は建物をつくる仕事に直接関わっていない職種の社員も参加し、ユーザー目線で意見を交わしました。

エントランス周辺:緩やかなカーブを描く外壁には、発掘調査で採れた土を使用している

私たちだけでつくろうとすると「四角い」建物になりがちですが、完成したのは緩やかな曲線が印象的で独創的な建築。それまでのプランからガラッと変わっていきました。今思うと、こうした過程そのものがまさに共創の取り組みでした。

――「森の会所」というのが一つのコンセプトになっているそうですが。

会所というのは室町時代に広まったもので、身分に関係なく人々が集い、車座になって(輪になって)話し合ったり連歌を詠んだりして楽しんだそうです。

「太陽のホール」:奈良県産の吉野杉がふんだんに使用され、森の木々を連想させる

そうした集いの場である会所と、当社の創業者である石橋信夫の生誕地である奈良県の吉野地方の豊かな森のイメージを重ねたのが「森の会所」というコンセプトです。

今後は当社グループの社員や関係者に限らず、地域の皆さんやほかの企業・団体にも開かれたものにしていきます。

――オープンな施設なのですね。そうした考え方は設計にも取り入れられているのでしょうか。

ここにはホールや複数の研修室がありますが、そのほとんどに間仕切りがありません。用途によって仕切ることもできますが、ホールでのイベントをはじめ、研修室で行われていることは外からも見られるようにしています。

「この施設に関わる誰もが学べる場所としてつくってほしい。外から来てくれた方が研修中の様子を立ち止まって見て、聞いてもいいじゃないか」という強いオファーが芳井敬一社長からもありました。

「Biophilic STUDIO」:植物やアロマ、自然環境音で満たされた研修室はリラックスしながら集中できる
ダイニング:栄養価が計算された健康的な食事が提供される

自由に議論を交わせる「シカケ」があちこちに

――地域との連携も重視されているそうですが、実際そうした活動はすでに行われているのですか。

今はコロナ禍で難しい面もありますが、奈良女子大学附属中等教育学校の高校生の皆さんとは授業の一環として「共育活動」をしています。「夢のある住まい」といったテーマで当社グループの社員や協力いただける社外の方々が講師を務め、建築や住宅についての授業を行っています。

この2月には、高校生の皆さんの発表会がここで開かれました。皆さんからは思いもよらぬ発想が出てくることもあり、社員たちも刺激を受けているようです。

これはまさに「共育」の一つのあり方だと思います。いずれは「ジュニアコトクリエDAY」を設けて、小学生を中心とした学びの体験会を実施することも計画しています。

ここで学びや遊びを体験した子どもたちが将来、大人になったとき、「コトクリエに行って楽しかったね」と思い出す、あるいはグループ社員が何か迷ったときなどにここに立ち戻り、新しい学びのきっかけをつかむ、そういう場所にしたいと考えています。

「風のパティオ」:吹き抜け構造の中庭は、地域の人も気軽に立ち寄れる

――人財教育の場としては、どのようなプログラムを計画されていますか。

21年度はコロナ禍で実現できませんでしたが、経営幹部候補者育成の取り組み「D-Succeed」の中の次々世代候補者向けの施策として、社会課題の解決やリーダーシップ強化といったテーマでこの拠点を活用したいと考えています。

また、海外拠点の幹部とその候補者を対象にした「海外コア人財研修」なども計画しています。 もちろん、すでにさまざまな教育研修でこの施設が活用されています。

マスターリビング:宿泊研修者が集い、くつろぎながら議論ができる

――22年度が実質的な初年度になると思いますが、その目標は。

まずはこの「コトクリエ」が、グループの社員や関係者以外の方でも入れる場所だということを、少しでも多くの方に知っていただくことが大事だと考えています。

ここで教育研修や共育・共創活動に参加する当社グループの社員も、地域や他の企業あるいは団体の方々とここで集い、共に学び、新しい価値を共に創り、生み出す経験を通じて、より誠実に社会と向き合い、社会とともに生きていくことができるようになると私たちは確信しています。

1300年の年月に大和ハウスの歴史を重ねる

「丹生庵(たんしょうあん)」:来賓をもてなすラウンジ。東大寺や薬師寺、若草山など奈良の景観を一望できる
「丹生庵」で展示されている平城京跡地の出土品
「水のサロン」:発掘調査で出土した約1300年前の井戸を保存し、展示している
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「みらい価値共創センター」1F フロアマップ (一部を省略して掲載)
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