「企業版ふるさと納税」で広がる社会貢献の形 地方創生の取り組みを企業が寄附で応援する

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内閣府特命担当大臣(地方創生 少子化対策 男女共同参画)野田聖子氏
「ふるさと納税」には、個人だけでなく、企業が寄附を行う仕組みもあることをご存じだろうか。地方公共団体の地方創生プロジェクトに対し寄附を行った場合、税制上の優遇措置が受けられる「企業版ふるさと納税(地方応援税制)」が今、社会貢献の新たな形として注目を集めている。

令和4(2022)年2月10日、「令和3年度『地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)』に係る大臣表彰」の表彰式がオンライン形式で執り行われた。その中であいさつを行った、内閣府特命担当大臣で地方創生を担当する野田聖子氏によれば、「全国的に制度の活用が進んでおり、地方公共団体や民間企業等が中心となって、寄附の意向がある企業と地方公共団体とのマッチングの機会をつくり出すなど、機運の高まりを感じています」。

内閣府では、平成30(2018)年度から毎年、企業版ふるさと納税制度の活用促進を図ることを目的として、とくに顕著な功績を上げ、他の模範となると認められる活動を行った企業や地方公共団体を表彰している。各都道府県より推薦された事例の中から、選考委員による審査を経て、令和3年度の受賞者として、地方公共団体部門で4団体、企業部門で3団体が選出された。

企業版ふるさと納税制度は、平成28(2016)年度に創設され、令和2(2020)年度には、大幅に拡充されるとともに適用期限が令和6(2024)年度末まで延長された。その目的は、地方公共団体が行う地方創生プロジェクトに志のある企業の寄附を呼び込むことで、民間資金の流れを巻き起こし、地方創生の取り組みを深化させることである。そして、制度上の大きな特徴は、国の認定を受けた地域再生計画に位置づけられる地方公共団体の地方創生プロジェクトに対して、企業が寄附を行った場合に、当該企業は税制上の優遇措置が受けられることだ。

通常、企業が地方公共団体に寄附を行った場合、寄附額の全額が損金扱いとなり、約3割の税が軽減される。一方で、企業版ふるさと納税として寄附を行った場合には、さらに寄附額の約6割について、法人関係税から税額控除を受けることができるのだ。最大で寄附額の約9割が軽減され、実質的な企業の負担は約1割にとどまることになる。

「企業版」といっても、寄附額の下限は10万円なので、気軽に寄附ができるだろう。寄附を行った企業への経済的な見返りは禁止されているが、公正なプロセスを経た契約を地方公共団体と締結すること等は問題ない。また、本社が所在する地方公共団体や東京の23区などへの寄附も本制度の対象外だ。

企業版ふるさと納税を利用する企業は徐々に増えている。令和2(2020)年度の寄附実績を見れば、寄附金額は前年比約3.3倍の約110.1億円、寄附件数は同約1.7倍の2249件となっている。

企業版ふるさと納税を活用する場合の企業のメリットについて、地域に寄附を行うことで、社会貢献に取り組む企業としてのPR効果が期待できることや、寄附を契機として地方公共団体との間で新たなパートナーシップを構築する機会を得ることができることが挙げられる。

そのほかにも、企業によっては、創業地や縁のある地への恩返しとして寄附を行うところもある。被災地の復興に役立ててほしいと願って寄附を行う企業もある。SDGs(持続可能な開発目標)やESG(環境・社会・企業統治)の取り組みにも寄与することだろう。「表彰を契機とした更なる官民連携の深化を期待しており、企業版ふるさと納税制度の健全な発展と地方創生の一層の進展を願っています」(野田氏)

企業版ふるさと納税を通じて
地域とのつながりや新しい働き方を発見

1998年に創業し、企業向けにコンピューターやデバイス を「つなぐ」ソフトウェアサービスを展開するアステリアは、持続可能な社会づくりに向けたSDGs活動の一環として、秋田県仙北市(2016年度~)と熊本県小国町(2017年度~)の2市町に継続的に寄附を行っている。

アステリア株式会社
代表取締役社長 / CEO
平野洋一郎氏

両市・町との間では、社員と自治体職員が定期的なミーティングを行うようになり、ドローンやタブレット端末・スマートフォンを活用したさまざまな実証実験やアプリ開発も実現したという。「企業版ふるさと納税の実施以前から、両市・町とのお付き合いがありました。当社のコンテンツ共有ツール『Handbook』の通算契約数が1000件を超えたのを機に、『1000』という数字に絡めてできる記念事業を探していたところ、仙北市が『千本桜』で有名なことを知りました。同市の『桜に彩られたまちづくり事業』に貢献したいと考え、企業版ふるさと納税の第1号として認定いただきました。また、当社製品『ASTERIA Warp』の導入企業が5000社を突破したのを機に、以前から小国杉5000本の保全活動のための寄附を小国町に対して実施していました。企業版ふるさと納税の開始を受けて『小国杉をもっとずっと使って計画』への寄附に切り替え、現在も継続しています」(平野氏)

「仙北市とは、観光地を多言語で案内するアプリやコロナ禍対応検温アプリなど、小国町とは、被災状況報告アプリや選挙における投票者数報告アプリなどを共同で開発しました。アステリアの持つITのノウハウを、DXの推進にお役立ていただけています」 (平野氏)

両市・町の地域特性を生かした、古民家や温泉施設でのワーケーションも実施。社員の新しい働き方や地域での交流促進にもつながったようだ。

「今後も、仙北市や小国町とは継続的に連携を深めていきたいと考えています。ただし、当社だけでは地方創生の応援にも限りがあります。日本には地方公共団体が約1700市町村、上場企業が約3800社あります。つまり、1つの地方公共団体に対して上場企業が2社ずつ企業版ふるさと納税を実施すれば、全国をカバーできます。寄附だけにとどまらない連携を行う新たな形の『地方創生』応援の取り組みが、多くの企業に広がることを期待しています」 (平野氏)