龍谷大学心理学部(仮称)新たな心理学への挑戦 創立400周年を見据える仏教系大学に新学部

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龍谷大学は、2023年4月、新たに心理学部の開設を予定している。2039年の創立400周年を見据え、歴史と実績を誇る大学が新学部でどのような人材を育成するのか。副学長・心理学部設置委員会委員長の安藤徹氏に、全国の大学や大学教育に詳しい大学通信の安田賢治常務取締役が聞いた。

キャリアビジョンや関心に対応する独自プログラム

安田 龍谷大学は仏教系大学として380年を超える歴史を持ち、豊富な実績のある文学部に臨床心理学科があります。なぜ新たに心理学部の設置を構想されたのでしょう。

龍谷大学 副学長
心理学部設置委員会委員長
安藤 徹

安藤 社会が激しく変化し、未来の予測が困難な現代にあって、人も社会も、そして地球もさまざまな課題を抱えています。そうした時代にこそ、臨床心理学科が培ってきた教育実績をさらに高め、社会と向き合い、心のつながりを見定めながら諸課題の解決に寄与できる人材を育成することは、本学の責務である。そう考え、これまでの臨床心理学科を発展的に解消し、新たに心理学部を開設することを構想しています。

安田 多くの大学に心理学部がある中で、龍谷大学ならではの特徴はどこにあるのか。気になるところです。

安藤 卒業後のキャリアを見据えた、社会で役立つ教育という点では、臨床心理学科の確かな実績に裏付けされた自信があります。心理学部では、卒業後に社会で心理学をどう生かしていけるか、また心理学にどのような期待が寄せられているかなどを低年次から学び、考える科目を正課授業として用意し、キャリア啓発・開発に力を入れます。企業や行政など幅広い分野で心理学の専門性を備えて活躍している人を招き、実体験を語っていただく機会をつくることも計画しています。さらに、心理学の基礎の修得とともに柱に据えるのが「データサイエンス」の学びです。心理学は人の心の動きや行動を客観的・統計的に分析し、科学的に捉える学問ですから、データサイエンスの素養が欠かせません。そこで、BYOD(Bring Your Own Device)を導入し、必修としても展開するデータサイエンス科目を通じて、心理学領域にとどまらず、広く社会で生かせる実践力を養成していきます。さらに、学修環境のいっそうの充実を図るべく、3・4年生が学ぶ大宮キャンパスには新校舎を建築予定です。

大学通信 常務取締役
安田 賢治

安田 カリキュラムの特徴についても聞かせてください。

安藤 社会のさまざまな「現場」で役立つ心理学的知識やスキルを養成するための枠組みとして、「生涯発達カウンセリングプログラム」と「関係支援とコミュニケーションプログラム」を配置します。「生涯発達カウンセリングプログラム」は、乳幼児から高齢者までの発達段階に応じた「個人の心」にアプローチします。一方「関係支援とコミュニケーションプログラム」は、多様なコミュニケーションを学び、人と人とのつながりにアプローチします。さらに、両プログラムを横断的に接続する「データ心理学」も開設します。こうしたプログラムの下に、それぞれ将来のキャリアを想定して関心のある領域を深掘りしていける9分野の科目群を設定します。開講科目は多彩で、面白いところでは、スポーツ選手のパフォーマンス向上に心理学を活用することをテーマにした科目や、マインドフルネス・トレーニングとしてのヨガを実践的にも学ぶ科目などを開講します。こうした個性的かつ魅力的な科目を開講しつつ、一人ひとりの関心やキャリアビジョンに対応できるカリキュラムと支援体制を整備します。

安田 コミュニケーションスキルの育成に力点を置くところも特徴的だと思いました。

安藤 「チーム医療」や「チーム学校」など、臨床現場では多職種連携が進み、異なる専門領域の人とコミュニケーションを取り、協働できる人材が求められています。従来、臨床心理学科では、演習などを通じて、他者との肯定的で効果的なコミュニケーションが成立するためのスキル修得に取り組むなど、実践力の育成に力を注いできました。その教育実践を基盤に、新学部でも対人支援や良好な人間関係の構築に必要なコミュニケーションスキルの養成に積極的に取り組みます。

社会のあらゆる領域で求められる心理学の専門性

安田 心理学部ではどのような人材を育成されていくのでしょうか。

安藤 大学院に進学し、臨床心理士や国家資格である公認心理師といった対人支援の高度専門職を目指す道も力強く後押ししていきます。それに加えて、心理学の専門性を生かせる現場は社会のあらゆるところに広がっています。近年、SDGsにも取り上げられている「ウェルビーイング(Well-being)」が注目され、あらゆる人が心身ともに良好で、幸福に生きることが重視されています。医療や福祉、司法はもちろん、多様な業種の企業、教育や行政といった現場においても、本学で培った心理学の知識やコミュニケーションスキルは大きな力になるでしょう。

安田 経済産業省が「健康経営」を推進し、働き方改革や従業員のメンタルヘルスに取り組む企業が増えています。そうした企業でも力を発揮できそうですね。

安藤 おっしゃるとおりです。ビジネス場面でも、対人関係のリスクが低く、気兼ねなく意見を言い合えるチームは、創造的でパフォーマンスの高い仕事ができるといわれています。いわゆる「心理的安全性」です。心理学部で学んだ成果を生かし、自分自身がよりよい人生を歩むとともに、組織や社会の中でよりよい人間関係を構築し、人や組織、ひいては社会を望ましい方向に導いていける人材を育てたいと考えています。それは龍谷大学が建学の精神とする浄土真宗の精神にも通底しています。異質なものとの関係を含め、互いの壁を乗り越えて力を合わせ、社会の発展のために貢献する。そうした人材を輩出していきます。

創立400周年を超えて心理学部に高まる期待

安田 龍谷大学は2039年で創立400周年。心理学部の新設構想はそれに向けた長期計画に位置づけられています。20年先、さらにその先を見据え、目指すところを聞かせてください。

安藤 長期計画「龍谷大学基本構想400」では、「2039年の将来ビジョン」として「『まごころ~Magokoro~』ある市民を育み、新たな知と価値の創造を図ることであらゆる『壁』や『違い』を乗り越え、世界の平和に寄与するプラットフォームとなる」ことを掲げています。「まごころ」は、相手に向かっていく心の動きであり、「自省利他」の心のありようを表現する言葉です。それは、人と人との「心のつながり」を最も重視する本学の心理学の特徴とも響き合います。その意味でも心理学部は、この将来ビジョンの実現に決定的な役割を果たしていくと考えています。

安田 仏教系大学としての特徴を明確にし、実社会を意識した教育を実践するところは非常に魅力的です。また募集人員255名と、意欲的な規模で展開されるところにも意気込みを感じます。人気学部になりそうだと期待が膨らみます。

※心理学部(仮称)については、2023年4月開設予定(設置構想中)設置計画は予定であり、内容に変更が生じる場合があります
※ご登場の安田賢治様は3/13にお亡くなりになられました。謹んでお悔やみ申し上げます。