東急不動産、66物件「22年に再エネ100%」の訳 電力の社内循環を実現、目指すは環境先進企業

拡大
縮小
東急不動産は、保有するオフィスビル・商業施設の使用電力を、2022年に全て再エネに切り替える。これによりRE100達成に向け大きく前進する。RE100とは、使用電力を100%再生可能エネルギー(再エネ)で賄うことを目指す国際イニシアチブだ。同社がRE100に加盟した2019年時点では、達成目標は「2050年」と置いていた。なぜこれほど、再エネ100%に熱を燃やすのか。その背景には環境先進企業を目指す同社の、長年の取り組みがあった。

「再生可能エネルギー100%」達成を本気で目指す理由

東急不動産がRE100に加盟したのは2019年4月。再エネ活用に課題感を持っている不動産業界の中でも、いち早い行動だった。

加盟当初、同社は再生エネ100%達成の目標を「2050年」としていたが、21年2月に達成目標を「2025年」に再設定。さらに取り組みを加速させて、22年3月、同社が単独保有するオフィスビル・商業施設66物件について、先行して「2022年中」に再エネに切り替えることを発表した。

同社はなぜ、再エネ100%にこれほど意欲を燃やすのか。同社の石井拓也氏は、経緯を次のように語る。

石井 拓也 東急不動産 都市事業ユニット 事業戦略部 環境・サステナビリティ推進グループ グループリーダー

「オフィスビルや商業施設は建設時にも、そしてお客様の入居後も、かなりの量のCO2を排出して地球環境に負荷をかけます。当社は『環境先進企業』を目指す以上、この課題に真摯に向き合っていかなくてはいけません。そこで2021年、RE100の達成目標を25年に前倒ししましたが、取り組みを進めていく中で条件が整い、オフィスビル・商業施設を先行して再エネに切り替えることに踏み切ったんです」

背景には、ビジネス上の事情もある。まずオフィスビルに関しては、とくに外資系企業の環境意識が高い。欧州などに本社をかまえグローバル展開する企業はRE100への関心が高く、日本の支店も国際基準に合わせることを求められている。日本の大企業もカーボンニュートラルの潮流に敏感で、再エネ活用へのニーズは高まる一方だ。

そして、さらに厳しい視線を向けているのが、商業施設に入居するテナントだという。

「例えばアパレル業界のお客様などは、環境問題へのコミットが、売り上げやブランディング、マーケティングにダイレクトに影響します。商品には環境にやさしい素材を使っていることを強調していても、入居するビルの環境負荷が高い場合などは、消費者に『発信に行動が伴っていない』と思われて、ブランドイメージが毀損されてしまう。入居する施設が環境問題にコミットしているかどうかは、今やテナントにとって重要な出店条件の1つとなっています。お客様から選ばれる物件になるためには、1日も早い使用電力の再エネへの切り替えは避けて通れない命題でした」

再エネ事業は、電力価格高騰のリスク逓減にも

東急不動産の事業全体では「2023年に再エネ80%、2025年に100%」を目指している

では東急不動産は、再エネ100%をいかにして達成するのか。屋根が広い物流施設ならその屋上に太陽光パネルを敷いて発電することも可能だが、都会のオフィスビルや商業施設では難しい。基本的には、再エネで発電した証しである「非化石証書」付き電力への切り替えで、RE100を達成することになる。

しかし、多くの企業がカーボンニュートラルを推進しようと非化石証書付き電力を求めれば、需給バランスが崩れてコストが上昇してしまう。ひいては、RE100そのものが持続可能でなくなる恐れがある。

「東急不動産は、再エネ事業として太陽光発電施設や風力発電施設を展開しています。さらに再エネ専業会社である株式会社リエネを設立し、よりいっそう再エネ事業に注力しています。2022年1月末時点で、全国79事業所を有していることから、安定的に自社の発電所に紐づいた非化石証書を利用することができます。これらの施設でつくり出せる電力は、全部で1306メガワット。約52万8000世帯分の電力に相当します(※1)。また、当社の発電所による再エネ電気そのものを利用するスキームを構築したことで、電力供給の社内循環ができあがりました。これは非化石証書の購入時の価格変動に対するリスク逓減にもなります。当社のオフィスビル入居者は、通常の電気料金のままで、再エネ由来の電力をお使いいただけます」

再エネ事業は、電力逼迫の問題に貢献するだけではない。地域との共生においても大きな役割を果たしている。例えば、東急不動産は北海道松前町に大規模な風力発電所を持っており、2019年、同町と地域活性化に関する協定を締結した。

リエネ松前風力発電所。風車が立ち並ぶ、北海道初の蓄電池併設型風力発電所として誕生した

「発電施設を通して地域に雇用を生み出し、税収面でも貢献できます。さらに、BCP(事業継続計画)の観点からも地域の支えになります。例えば2018年に北海道全域で起きたようなブラックアウトが再度発生しても、地域に十分な電力を供給できるだけの発電能力を持っていて、災害時対応の準備を進めているところです」※緊急時の電力供給協定を結ぶのは22年度予定

注目すべきは、同社が、カーボンニュートラルが今ほど大きな潮流になっていなかった2014年から再エネ事業をスタートしていたことだろう。当時は東日本大震災後で、全国的に、電力供給に対する不安が大きかった。異業種への参入だったが、「東急不動産の創業の精神は『挑戦するDNA』。社会課題解決のために、総合デベロッパーとしてのノウハウを生かして、果敢に挑戦すべきだと決断しました」(石井氏)。

※1 世帯当たりの電力使用量4,573kWh/年を目安に、東急不動産算出(太陽光発電協会「表示ガイドライン2021年度」より)

今後開発するビルで「ZEB水準」の環境性能へ

「RE100」達成間近の東急不動産だが、ほかにも地球環境を考慮した新しい取り組みを進めている。その1つが、今後の新築ビルで原則「ZEB水準」の環境性能を目指すというものだ。

ZEBとは「ネット・ゼロ・エネルギー・ビル」の略称で、省エネ・創エネ技術によって、年間の「一次エネルギー消費ゼロ」を実現した建物を指す。都会のオフィスビルや商業施設で発電を行うのは難しいため、建物の環境性能を向上させてZEB化を図ることになる。

「例えば都内の大規模オフィスビルは、照度が750ルクスほど。これは一般的な業務を行うには明るい水準で、やや過剰スペックかもしれません。500ルクスなど適正な明るさにダウンサイジングすれば、ZEB化に近づくとともに、コスト削減になります。そのほか、外皮負荷の軽減や空調のエネルギーの削減など、さまざまなやり方が考えられます。まず手始めに、2023年竣工予定の(仮称)札幌すすきの駅前複合開発計画で、商業・ホテル系複合用途の建築物全体での取得として全国最大規模となる『ZEBReady』の認証を取得しました」

東急不動産ホールディングスは、2021年に長期ビジョンスローガンとして「WE ARE GREEN」を打ち出した。これは、多様なグリーンの力で、2030年にありたい姿を実現していく会社の姿勢を表している。グリーンは、環境やサステナビリティの象徴であり、グループが目指す「誰もが自分らしく、いきいきと輝ける未来」の象徴でもある。今回の「RE100」達成に向けた施策は、まさにグリーンの中心的な取り組みの1つだ。最後に石井氏は思いをこう語ってくれた。

「東急不動産は都心に多くのオフィスビルや商業施設を有する一方、全国各地に多くの再エネ発電所を持つ希有なデベロッパー。電気をつくる側と使う側のシナジーを存分に生かして、グリーンを実現していきます。それにご賛同してくださるお客様にご入居いただき、サステナブルな街づくりに貢献していきたいですね」

>東急不動産が本気で取り組む、再生可能エネルギー事業

お問い合わせ
東急不動産