「生きているうちに終わらない」DX担当者の悲痛 「ピュアな理想」に軸足を置けば解決策は見える
「私が生きているうちにこの会社のDXは終わりそうにありません。オペレーションの自動化、ツールを用いた生産性向上や働き方改革による従業員満足度の向上、WebやSNSによるマーケティング……あまりにもやることが多すぎる」
ビジネスの現場では、食傷気味になるほどDXが連呼されるようになって久しい。しかし、このように途方に暮れて結局「何も決まらないし、何も進まない」という悩みを抱える企業は少なくない。さらに、「DXに取り組み始めたのはいいが、売り上げに貢献できるロードマップが見えない」というフェーズの企業もあるだろう。
そうした課題の背景について、世界的なデジタルカンパニーであるアドビで企業のDX支援を担当する田口恭平氏は、こう指摘する。
「手段であるはずのDXがいつの間にか目的化してしまい、『われわれも何かデジタル化しなければいけない』といった、本来の目的を見失って迷走しているケースが多く目につきます。それは往々にして、軸足が定まっていないからなんです」
実際に製薬大手のアステラス製薬では、医療関係者向け情報提供Webサイト「アステラスメディカルネット」の運営に課題を持っていた。専門的な情報を取り扱うため、読者である医療従事者に向けて、薬剤や医療に関する情報の発信を迅速化・高度化する必要があった。これらを短期間で、効率よく、いかに実現するのかが課題となった。
またカシオ計算機では、時計や電卓、電子辞書、電子楽器など幅広い製品を世界中で提供しているが、国や製品のブランドごとに情報発信が行われてきた。それゆえ、ユーザーを中心に据えたコミュニケーションができていないことが課題だった。また、新型コロナウイルス感染症の拡大に対応するため、直接ユーザーと関係を深められるWebサイトやECサイトの強化が必要だった。
だが、この有名企業2社はアドビコンサルティングのサポートを受け、解決の糸口を見いだしている。「アステラスメディカルネット」におけるコンテンツ配信の最適化やそれに伴う顧客体験の向上に成功し、カシオ計算機は厳しい市場環境の中で、同社の好調な業績に貢献するOne to Oneマーケティングを実現。
まったく異なる課題の解決に結び付いた2社はどこに軸足を定めたのか。それは「顧客に何を提供したいのか」というピュアな理想に基づいた提供価値だという。本編では、これらの課題を解決したアステラス製薬、カシオ計算機の軌跡を紹介する。