ソフトバンクが「通信以外」で社会課題を解く訳 新規事業を次々生み出す400名チームに迫る
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「ユーザー中心」のスマートシティ計画にひかれて転職
旧芝離宮恩賜庭園を一望する東京ポートシティ竹芝(ソフトバンク本社オフィスが入居)に足を踏み入れると、警備ロボットがロビーをゆったりと横切っていた。
館内に点在するデジタルサイネージには、飲食店の空席情報や海側のテラスの混雑状況が表示されている。オフィスタワーで働く人は顔認証でゲートを通過し、到着したエレベーターがその人の働くフロアに自動で止まる。
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ここでは1400以上のセンサーデバイスが収集したデータを利活用することで、より快適な空間を実現しているのだ。
東京ポートシティ竹芝は、ソフトバンクが東急不動産と共に取り組む「Smart City Takeshiba」プロジェクトの出発点だ。先端のテクノロジーを街全体で活用することで、回遊性の向上や混雑の緩和、防災の強化などを目指すという。
「このプロジェクトには3つのステップがあります。ステップ1が東京ポートシティ竹芝のスマート化、ステップ2が竹芝エリアのスマート化、ステップ3がほかの都市と連携したスマート化として進行中です。ステップ1はすでに完了し、現在はほかのビルや道路など、竹芝エリアへのスマート化を進めているところです」
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第三ビジネスエンジニアリング統括部 スマートシティ事業推進部
スマートシティプロジェクト
坪内 優 氏
そう話すのは、ソフトバンク デジタルトランスフォーメーション(以下、DX)本部の坪内優氏だ。
2020年4月に入社する前は大手ゼネコンに勤め、中国やインドネシアに4年間ほど赴任し、工事現場の財務管理などを担当。国内でのスマートシティの立ち上げにも携わっていたという。なぜ、転職を決めたのか。
「『ユーザー中心』で描かれたソフトバンクのスマートシティ計画には、以前から一ファンとして注目していました。また、海外生活の中で私自身が便利さを実感した最先端のスマートなサービスに対し、ソフトバンクグループが投資をしている点も大きかったですね。
『ここでなら、ユーザー目線で“人々がより快適な生活を送れるように”ということを軸にスマートシティに携われるのでは』と思い、転職を決めました」
入社時から「ユーザーとの接点」がサービスのカギだと考えていた坪内氏は、ソフトバンクならではの魅力をこう語る。
「LINEやPayPayなど、グループ企業を含めて、圧倒的なユーザー数を持つ※1事業を手がけていることが強み。それを生かして、もっと幅広いユーザーにスマートシティのサービスを届け、ユーザーとつながることに注力できればと思っています。やりがいを感じるのは、チームみんなでシステムを作って、ユーザーの反響を得られるときですね」
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ところで、畑違い、しかもコロナ禍での転職に不安はなかったのか。
「ITのことはいっさいわからず、IT用語を携帯にメモし、単語リストを作ることから始めました。社内制度を使ってITの知識や事業開発に関する研修をオンライン受講できたのも、中途入社の私にはありがたかったですね。
今はリモートワーク中心で、チーム外の人と話す機会がなかなかありませんが、女性向けのメンタリング制度があり、そこではキャリアプランから業務に直接関係のないことまで話すことができます」
知識を補う研修や、気軽に相談ができる場が整備されていることで、中途入社者が安心して働ける環境が用意されている。
※1 LINEの国内月間利用者数は8600万人(2020年9月時点、LINE調べ)、PayPayの登録者数は4500万人を超えた(2022年1月時点、PayPay調べ)
新規事業によるDXで、日本の社会課題を解決
DX本部ではスマートシティのほかにも、医師や看護師に24時間365日チャットで健康に関する相談などができるヘルスケアアプリ「HELPO」、水道管の要らない水インフラの「WOTA」、「MeeTruck」が提供する運送会社向けの物流支援サービスなどさまざまな新規事業を立ち上げている。
その共通点は、「通信事業を基盤としたDX」と「他社との共創」により、社会課題を解決する新事業であること。DX本部本部長の河西慎太郎氏は、2017年にDX本部が設立された背景をこう話す。
「2018年の上場を前に、『通信以外』の新しい事業をつくることがわれわれのミッションでした。各部門から集まった120名のメンバーと、半年かけてさまざまなアイデアを出し合いましたが、どれも事業化には至りませんでした」
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河西 慎太郎 氏
事業開発の経験者がほぼいないため、当初は厳しいスタートを切っていたDX本部だが、考え続けるうち、河西氏はあることに思い至った。
「当社は通信事業で会社を成長させてきました。そこで得た十分なリソースを活用して、ダイナミックに『社会課題に向き合おう』と、組織の方向性を変えました。
私たちは天才集団ではありませんし、『0→1』ではなく、『1→100』で価値を生み出すことに舵を切ったのです。さまざまな領域で活躍するリーディグカンパニーや、強い思いを持っている企業とお互いのアセットを共有し、社会課題の解決を目指すことを軸に据えました」
軸が定まると、前述のHELPOやWOTA、MeeTruck、Smart City Takeshibaといった新規事業が次々と生まれた。
「当初は利益が出ない苦しい時期もありましたが、経営層がしっかりコミットし、人も資金もしっかり支援してくれたことがありがたかったですね。新規事業というと、一般的には兼務で担当することも多いでしょう。ですが、『地図』もないのに兼務でやるのはしんどい。これ一本で、と覚悟を持って取り組むべきだと私は思いますね」
DX本部では企画をした人が開発からサービスローンチ、顧客獲得、運用まで手がけるため、幅広い知識が必要だ。しかし、立ち上げ当初に集まったのは、事業計画を書いたこともないというメンバーがほとんどだったという。
「今は5年目に突入し、メンバーは最初から最後まで全フェーズに携わることができる能力がついてきています。とはいえ、どれもが完璧である必要はなく、自分の得意なところを“武器”にしてもらえればと思います」
DX本部には現在約400名が在籍し、新会社の立ち上げを含め、数多くの新規事業を創出。1月末には19例目となる、小売り・飲食業界向けのAI需要予測サービス「サキミル」がローンチした。
「日本気象協会の気象データと、当社の人流統計データ※2を掛け合わせたAIによる来店客数の予測を、小売店や飲食店向けにお届けします。ゆくゆくは、需要予測とともに、在庫発注やシフト作成などの機能も視野に入れています」
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例えば、雪が降るという予報をもとにした来店客数予測があれば、それに基づいて従業員のシフトを組み、商品や食材の発注も抑えることができる。
ドラッグストアチェーンで実証実験を行ったところ、平均予測精度約93%という高い精度を確認でき、フードロスや欠品回数が減少したことで、利益につながったという結果が出ているという。
今後は食材の発注だけではなく、総菜や弁当などの製造量の最適化への活用も検討しているとのことで、来店客数を予測することでフードロスを削減できれば、脱炭素にもつながるだろう。
「日本は少子高齢化によりさまざまな課題を抱えています。ITやデジタルの力を存分に活用して、DX本部が生み出す新規事業により、日本が抱える社会課題の解決に貢献できればと思います」
※2 人流統計データは、個人のプライバシーに最大限配慮し、
異業種からの転職組が多いDX本部
新規事業をさらに広げていくため、DX本部では多種多様な経験を積んだ人材を求めている。
「新規事業には正解も教科書もありません。でも、コロンブスも『こう進めば必ず新大陸にたどり着ける』という確信があって航海に出たわけではないはず。不安定なものだからこそ、前向きに明るく進んでいける人、当事者意識を持ち、リーダーシップを取れる人にぜひ加わってほしいですね」
新規事業を開拓するDX本部には社内の各部門から集まったメンバーに加え、中途採用のメンバーが百数十名在籍する。
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「DX本部には不動産や小売業界、地方自治体など、さまざまな領域の出身者が集まっているほか、新規事業の内容によっては官公庁や他業種に出向することも。多様な人の中で働けるのもこのチームの面白さです。
私たちの使命は既存産業のDXを推進し、人々の生活をよりよいものへ変革すること。日本を変えたい、社会課題を解決したいという思いを持つ方とぜひ一緒に推進していきたいです」
DXを通じた他社との共創で新規事業を次々と生み出し、社会課題を解決するソフトバンクのDX本部。次世代のために働きたいという情熱を持った人々が、世界に変革を起こしていくだろう。