「日本の食に合うオリーブオイル」おいしさの秘密 目指すはマヨネーズのような「食生活の必需品」

徹底して守られる、収穫後のおいしさ
健康志向の高まりとともに日本の食卓に浸透し、その市場規模は2020年時点で約426億円(※1)ともいわれるオリーブオイル。パスタやサラダ、目玉焼きやオムレツなどの卵料理に使われることが多いが、納豆や魚料理といった和風メニューにかけて使われる例も増えている。また、酸味との相性のよさからトマト料理への使用、最近ではオリーブオイルを使ったフルーツのカプレーゼも人気だ。

「香りがよく、特有の風味が味わえるオリーブオイルには、ほかの植物油にはない特徴があります。植物油の多くが種子から油を採っているのに対し、オリーブオイルは果実から搾油します。これが、オリーブオイルが『オリーブのジュース』と呼ばれるゆえんです」
そう話すのは、J-オイルミルズの古川光有氏だ。

J-オイルミルズ 執行役員 油脂事業本部副本部長
手元中央2商品は、紙パックを採用した2022年春の新商品
「果物同様オリーブの実も、品質劣化を防ぐため、収穫後、果実の鮮度がいいうちに搾ることが重要です。オリーブオイルの酸度を測ると、収穫後にいい状態で搾られたものかどうかがわかります。IOC(国際オリーブ協会)の基準では、エクストラバージンオリーブオイルは『酸度0.8%以下』と定められていますが、JOYL『AJINOMOTOオリーブオイルエクストラバージン』ではそれよりも厳しい『酸度0.3%以下』という独自の基準を設けて、原料のオイルを輸入しています」
厳格な基準をクリアしたオリーブオイルは、酸素に触れないよう密閉容器に窒素を充填して産地のスペインから日本へと運ばれる。そして、日本国内で充填・包装の過程を経て、商品となる。
「果実の風味をそのまま楽しめるのがオリーブオイルの魅力。例えば、その年の天候や、果実の収穫タイミング、輸送保管方法などがそのまま商品の味に反映されます。そのためJOYL『AJINOMOTOオリーブオイルエクストラバージン』では、栽培・収穫・搾油を担うサプライヤーには、実際の作業内容を細かく質問し、その生産技術と共にオリーブオイルの品質に対する姿勢を確認しています」
チェック項目は、なんと100を超える。同社では各サプライヤーを厳選し、現地を訪れて信頼関係を築きながら、オリーブオイルの質を守ってきたのだ。
※1 SCIデータを基にJ-オイルミルズ推定
「たち香・あと香」「苦味・辛味」を正確に感知するプロ
オリーブオイルの品質を保つための秘密はほかにもある。それが、同社のオリーブオイル官能評価チームだ。官能評価チームの鑑定士は国際オリーブ協会(IOC)が規定する手法に準拠した独自の識別能力試験に合格し、つねに訓練・モニタリングされているエキスパート。具体的には、濃度を少しずつ変えた12種類のサンプルをテイスティングし、その濃度の差を識別するというテストに合格したプロたちだ。
J-オイルミルズの水野勢技世氏は、その狙いをこう説明する。

J-オイルミルズ 油脂事業部 家庭用部研究開発Kグループ マネージャー
「日本で最初のオリーブオイルブームが巻き起こった1996年、日本のオリーブオイル輸入量は前年比200%を記録しました。しかし、急激に需要が高まる一方で、その年はスペインで大干ばつが起こり、雨が少なかった影響でオリーブオイルの苦味・辛味が強くなっていました。スペインから送られてくる先行サンプルの多くが当社の風味基準をクリアできず、ひと月に30回断ることもありました」
翌年は打って変わって雨が続き、今度は苦味・辛味がほとんどなく、まったりしすぎたオリーブオイルが届いてしまった。スペイン現地とやり取りする中で、水野氏はあることに気づいた。
「それは、『日本とスペインには意識や感覚の違いが驚くほどたくさんあるため、現地の評価用語や慣習などを把握したうえで、味や品質管理方法を地道にすり合わせなければ、欲しいオイルは手に入らない』ということ。そこで、私自身がスペインに行き、当時、ヨーロッパを中心に運用されていた、IOCが規定するテイスティング技法を学ぶことにしました」

水野氏は、日本とスペインを行き来して習得した鑑定技能を、工場の品質管理担当者に伝授。2000年からは工場の品質管理担当者を、IOCの規定に準拠したオリーブオイル官能評価チームの鑑定士として育成し、鑑定士が商品の風味を確認する同社独自の体制を確立した。
現在は工場の鑑定士と研究所の鑑定士で合計約30名が在籍。鑑定では、グラスに規定量のオイルを入れ、規定の温度に温めてから香りを嗅ぐ。このときの「たち香」でフルーティさや欠陥風味を見極める。次にオイルを口に含み、口腔内全体に広げながら、鼻の奥で「あと香」を、舌の奥で「苦味」を、また「辛味」は口腔内全体に加え、喉への強い刺激から確認するという。
「苦味も辛味もオリーブオイルの魅力ですが、日本では一般的に、苦味や辛味があまり強くないものが比較的好まれるようです。そこで、当社のJOYL『AJINOMOTOオリーブオイルエクストラバージン』は、甘いフルーツの香りを楽しめ、苦味・辛味が抑えられた風味を採用しています」

同社のオリーブオイル官能評価チームは、アメリカ油化学会(AOCS)の技能評価試験において、4年連続で「オリーブオイル官能評価パネル」に認定され、2021年の試験では世界1位に輝いた。
「弊社の鑑定士が世界で通用すると確認できたことがうれしいです。この結果は、えりすぐったものをお客様にお届けできていることの裏付けになると思います。私たちの使命は、手頃な価格帯でいちばんおいしいものを届けること。これからも、お客様に喜んでいただける商品を提供していきたいですね」
目標は、マヨネーズのような日本の食卓に欠かせない存在
質の高いオリーブオイルを手頃な価格で日本の家庭に安定供給し続けてきたJ-オイルミルズ。さらに2022年3月には、オリーブオイルをよりおいしく届けるための新たな取り組みを始めた。それが、紙パック製品の発売だ。

「オリーブオイルの大敵は、光と酸素。紙パックは光を遮断しますが、酸素を遮断するために内側に金属箔をラミネートした仕様が一般的に使用されており、廃棄しにくいというデメリットがありました。そこで、金属箔に代わるガラス質の酸素バリア層を持った紙パックを採用し
環境への負荷が低い紙パック製品は、2021年4月に同社が導入したコミュニケーションブランド「JOYL」の理念にも合致する。

「油滴をイメージしたOの3色には、本質を究め、お客様や社会にJoyを創り、いい循環につなげていこうという想いを込めました。健康志向の高まりも後押しして、オリーブオイルの需要は拡大していますが、まだまだ伸びしろはあります。オリーブオイルを、マヨネーズやケチャップのような、日本の食卓に欠かせない存在に押し上げていきたいと思います」
バイオ燃料向けなども含め、世界的に旺盛な植物油脂需要に加え、生産国の作況悪化による原料価格の高騰、コロナ禍後の需要回復による船舶輸送のコスト増など、製油業界を取り巻く状況は厳しい。それでも私たちは、安定した品質のオリーブオイルを、手頃な価格で味わうことができる。その背景には、大手メーカーの知られざる努力があるのだ。