ビジネススキルを生かす「実務家教員」の目指し方 人生100年時代のセカンドキャリアでも注目

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経験豊富な企業人を大学や専門職大学院などの教員として迎え入れる「実務家教員」は、近年、社会的ニーズが高まり、ビジネスパーソンのセカンドキャリアとしても注目を集めている。実務家教員を養成する実務家教員養成課程は、開講3年で30人以上を大学に輩出。その高い採用実績を支えるカリキュラムや実務家教員の意義について、川山竜二氏に聞いた。
※2022年4月に、「社会情報大学院大学」から同大学に名称を変更

利活用すべき知識は持続可能社会の重要資源

実務家教員とは、民間企業や官公庁などで培ってきた豊富で高度な実務経験を言語化する「実務能力」、それを教育可能な形に体系化するための「研究能力」、そして適切に教えて継承するための「教育指導力」によって、大学や高等教育機関などの教育現場やリカレント教育の場で活躍する教員だ。

実務家教員の意義や役割について、社会構想大学院大学 学監・実務教育研究科長で知識社会学が専門の川山竜二氏は次のように語る。

社会構想大学院大学 学監
実務教育研究科長
川山 竜二 氏

「知識社会において重要なのは知識の利活用です。いわゆる研究者教員と呼ばれる大学教員は知識の生成や発展させる能力は長けていますが、その知識を社会に役立たせる能力は実務家が得意とするところです。実際、今までも実務を行う中でさまざまな知識を無意識のうちに使って成果を出していたはずです。そういった実践的な知識を多くの大学が求めているのです。さらに講義だけでなく、就職活動をはじめ、学生の相談役としての役割も。企業などに勤務した経験を持つ実務家ならではの適切なアドバイスが期待されています」

実務家教員のニーズが急増する主な理由は次の2つが挙げられる。1つは制度的な面で、2019年に知識・理論と実践的なスキルを併せ持つ人材を養成する高等教育機関として誕生した「専門職大学」では、教員のおおむね4割以上が実務家教員でなければならないことが定められている。さらに、経済的な理由で高等教育機関への進学が難しい学生に向けた「高等教育の修学支援新制度」が2020年にスタートしたが、その対象校となるためには、修了単位の1割(4年制の大学で卒業要件が124単位の場合は13単位)以上は実務家教員が授業を行わなければならない。2003年から始まった、法科大学院やビジネススクールを対象とした「専門職大学院」でも実務家教員がおおむね3割以上必要とされていたが、よりその重要性が高まってきている。

もう1つの理由は、知識が現代社会を持続させるうえで重要な資源になっていることだ。そのため、社会経験が豊富な実務家教員に大きな期待が寄せられている。

3つの能力を醸成する実践的なカリキュラムで知識を体系化

社会構想大学院大学は、競争力も兼ね備えた実務家教員を養成するため、研究能力を身に付けられるよう、独自の教育を行ってきた。実務家教員として活躍するために重要となるのが、「知識の体系化」であると川山氏は話す。

「経験やノウハウを自分1人が保有している状態では真の知識とは呼べません。他者と共有することで初めて知識として認められるのです。

社会に蓄積された知識との関連性を考慮しながら、自身の知識を他者に理解しやすく言語化する方法を考えることが体系化の第一歩。本校の『実務家教員養成課程』では、これまでの経験やノウハウを自分の文脈で記述したうえで、それを引きはがしてほかのことにも転用させていく手法をお伝えしています。これを"知識の棚卸し"と呼んでいますが、知識を客観的に捉え、見える化することで、利活用できる状態になっていくのです」

知の体系化を専門に研究している川山氏は、自らの知識を活用した実践的なカリキュラムを構築。受講生は実務経験の棚卸しや体系的な授業のつくり方が学べるほか、養成課程修了時には公募書類の「教員個人調書」も完成した状態になる。さらに、一般大学と連携した取り組みも見逃せない。実務家教員養成課程の成績優秀者は、日本女子大学での模擬授業を行うことが可能。大学での模擬授業も教歴として認められるため、大きなアドバンテージになるだろう。

カリキュラムはさまざまな領域に対応。民間企業に勤めるビジネスパーソンのほか、公務員、医師、現役の大学教員など、さまざまな分野で活躍する実務家が受講している。

さらに、研究能力を高め、修士号取得を目指すために、2021年4月には「実務教育研究科」を新設。教育プログラムや新たな科目の開発、新しい知識体系の創造といった、ナレッジマネジメントなどについても学ぶことができる。

実務経験に基づく知識を生成し、フォロワーからリーダーへ

実務家教員養成課程では、授業は対面で行うほか、オンラインでライブ授業を配信。仕事などで時間に間に合わない場合、一部の授業を除いて録画視聴も可能だ。また、専用の質問フォームから質問ができる体制を整えている。実務家教員養成課程や実務教育研究科には、学びへの姿勢が積極的な実務家が多く、受講生数は増加傾向にあるという。

「実務の現場は知識を活用する実験室。実務家教員になっても、可能な限り実務も継続してほしいですね」(川山氏)

「本校には実務家教員を目指す方のほか、企業の後輩へ自分のノウハウを伝承したいという方も多数いらっしゃいます。これからの社会には、ネットなどを介した情報共有だけでなく、自身が学び経験したことを社会に還元し、人に伝えていく知識も必要です。受講生には本校のカリキュラムを通じて、知識のフォロワーマインドを脱却し、知識のリーダーになってほしいですね」(川山氏)

社会構想大学院大学は、全社会をフィールドとし、教育を軸に新しい社会構想を目指す。広いビジョンと無限の可能性で、今後も多くの実務家教員を輩出していくだろう。