社会課題解決へ「ソリューション」が挑む事業創出 プリンターから工具まで手がける多彩な事業

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京セラは、組織再編によって3事業セグメント体制で新たなスタートを切った。その一つ「ソリューション」セグメントでは、多様なプロダクトラインを集結し、縦・横の連携によって事業領域の拡大に取り組む。セグメント担当の伊奈憲彦(いな・のりひこ)氏に、目指すべきビジョンと、その達成に向けた戦略と施策を聞いた。

縦・横の連携により相乗効果を最大化

多様な分野に事業を展開する京セラが、2021年4月、大規模な組織再編を実行した。新たに「コアコンポーネント」「電子部品」「ソリューション」の3セグメント体制を確立。さらなる成長ステージへと踏み出した。中でも「ソリューション」セグメントは、情報機器、通信機器、情報通信サービスのほか、機械工具ディスプレイ、プリンティングデバイス、スマートエナジーの7つのプロダクトラインを集約。最大の売上比率を占めるセグメントとなった。

――幅広い事業領域を網羅するセグメントになりました。

伊奈 情報機器やソリューションを扱う京セラドキュメントソリューションズや、京セラグループの情報通信サービスを手掛ける京セラコミュニケーションシステムを含め、組織文化もビジネス形態も異なる多様なプロダクトラインが集結しました。この多様性こそが強みになると考えています。それぞれの強みやリソースをほかの事業に生かすことで、さまざまな相乗効果を発揮できると期待しています。

――具体的にはどのようなシナジーを考えているのでしょうか。

伊奈 3つの施策で相乗効果を最大化し、成長を図っていきます。1つ目の施策は、各プロダクトライン間の横連携です。ビジネスモデルや機能を共有することで、既存プロダクトラインのビジネスを強化します。

通信機器においては、国内市場に向けた戦略として"JAPAN MADE"を掲げ、企画・設計から製造、販売、アフターサポートまですべてのプロセスを日本国内で完結させるビジネスモデルを構築。海外メーカーにはまねできない日本ならではのソリューションを提供しています。

情報機器では"Put knowledge to work=知識を仕事に活かす"というコンセプトの下、お客様が情報を知識に変え、その知識を効果的に利用できるようサポートするビジネスで、事業領域の拡大を図っています。こうしたビジネスモデルをほかの事業と共有することにより、シナジーの創出を図っていきます。

さらに、開発や生産、マーケティング、販売の手法といった機能の共有も進めています。伝統的なウォーターフォール型開発を行っている事業に、先進的なアジャイル開発の手法を導入すれば、開発スピードを速めることも可能になるでしょう。またデジタルマーケティング手法を共有する、遠隔でのリモートサービスの手法を他事業に展開するといったことも考えています。

多様な事業領域を網羅する「ソリューション」セグメント

2つ目の施策として、各プロダクトラインのビジネスを組み合わせ、新しいソリューションを提供することに力を注ぎます。プリンティングデバイスと情報機器のプロダクトラインの連携によって、アパレル業界向けに開発中のデジタル捺染機も、その一例です。アパレル業界では、生地のプリント工程に用いられる大量の水や排水が環境負荷を与えていること、染色工場のリードタイムの長さが大量廃棄を生む原因になっていることなどの課題を抱えています。

われわれは両プロダクトラインが持つヘッド技術やインク技術を組み合わせ、先に挙げた課題を解決する、コンパクトな顔料インクジェット機の開発に成功しました。このほかにも横連携によってビジネスを組み合わせ、社会課題の解決に寄与する新たな事業を創出していきます。

3つ目の取り組みは、セグメント内の横連携だけでなく、グループのマーケティング部門や研究開発部門との縦連携によってまったく新しい事業を創出していくというものです。マーケティングアプローチでは、エネルギー市場やモビリティー市場の開拓を進める一方、テクニカルアプローチでは、次世代通信などの研究開発を行っており、これらとの連携によって新事業を模索していきます。一例として、現在、AIを使って多様な生産現場に適用できる自律型協働ロボット・システムを開発し、事業化を進めています。

事業を通じて目指すのは一人でも多くの幸せ

――事業間の壁を乗り越え、相乗効果を出すためには何が必要だとお考えですか。

伊奈 まず部門間のコミュニケーションを活性化させる必要があると考えています。そのために社内ネットワークを整備し、部門を越えて交流できる仕組みをつくっています。一方、生産や開発の現場では、人と人との対面での関係づくりも重視します。私自身、これまでの職場で、お客様の課題に対し、社内のリソースを組み合わせることで解決策を導き出す経験を積んできました。その経験が新セグメントで成長戦略を実行するうえでも糧になっています。

――「ソリューション」セグメントが目指すビジョンとは何ですか。

伊奈 「一人でも多くの幸せを そして社会をよりよいものに」というビジョンを掲げています。先に挙げた3つの取り組みを通じて、既存の枠にとらわれずに社会そしてお客様の課題を解決するソリューションを提供していきます。当然ながら、利益を追求するだけでは持続的な発展は望めません。われわれが価値を置くのは、社会課題を解決し、社会に貢献できるかどうか。これを価値判断の基準として重点事業を見極めていく必要があります。

自分の仕事が社会の役に立つことは、社員にとってもモチベーションの源泉となります。社員一人ひとりにそれを実感してもらえるような事業運営を行っていきます。

5Gサービスで地方創生を支援
「ソリューション」セグメントでは、プロダクトライン間の「横連携」とともに、マーケティングアプローチやテクニカルアプローチを既存ビジネスと融合させる「縦連携」によってイノベーションを創出することに取り組んでいる。
事業化に向けた取り組みの1つとして現在進めているのが、5Gミリ波バックホールシステムの開発だ。5Gサービスは、都市部で本格化する一方、地方や郊外で普及が遅れているという課題がある。
これに対し京セラは、2021年11月にJMA Wireless社と5Gミリ波バックホールシステムを共同開発する契約を締結。京セラが保有するミリ波技術を活用し、5Gサービスが普及しにくい地域に、ミリ波で接続するシステムを共同で開発。迅速かつ安価に5Gネットワークを構築する技術を提供しようとしている。
「マーケティングアプローチから5G関連のお客様のお困り事や社会課題を探り、一方でテクニカルアプローチからは独自の無線技術に磨きをかけてきた。これらの京セラのリソースを生かせる適切なパートナーを開拓したことで、事業化が見えてきた」と語る伊奈氏。
京セラ独自の技術とアライアンスの協業によるインフラ構築を通じ、地方創生などの社会課題を解決していく。