茨城県圏央道に「次世代成長産業」が集まるワケ ポスト5G、半導体、EVも引きつける源泉とは

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コロナ禍で企業の工場立地が伸び悩む中、茨城県の圏央道(首都圏中央連絡自動車道)沿線地域への企業進出が相次いでいる。2020年の工場立地動向調査では、茨城県が工場立地件数および県外企業立地件数で全国1位になったが、立地件数の8割弱を県南・県西地域が占めている※1。背景には、圏央道の県内区間4車線化などの交通アクセスの向上や※2、成長分野への支援をはじめとする充実した優遇制度などがある。なぜ選ばれるのか、その魅力を深掘りした。
※1 経済産業省「令和2年(2020年)通年工場立地動向調査結果(確報)」を基に茨城県で算出
※2 2022年度から24年度にかけて順次開通予定

4車線化が進む圏央道、交通網への高い評価

経済産業省は2021年10月、「令和2年(2020年)通年工場立地動向調査結果(確報)」を発表した。茨城県は工場立地件数(65件)および県外企業立地件数(38件)で全国1位、工場立地面積95ヘクタールも全国2位と強みを見せたが、圏央道沿線をはじめとする県南・県西地域への立地が8割弱を占める。

同地域には、自動車大手の日野自動車(古河市)や食料品大手の雪印メグミルク(阿見町)、電機資材器具の製造を行うネグロス電工(阿見町)や医薬品製造を行う日本ジェネリック(つくば市)など、近年、数多くの大手企業が立地した。

圏央道沿線地域への立地が進んでいる最大の理由は、交通網の整備が進んでいることだ。この地域は、都心への距離が40~60キロメートル圏とアクセスが良好。17年2月には圏央道の茨城県内区間が開通し、東名高速・中央道・関越道・東北道など6つの高速道路と結ばれた。これにより都心を通過せずとも全国各地へアクセスが可能になるなど、利便性が飛躍的に向上した。さらに、久喜白岡JCTー大栄JCTの区間では4車線化工事が進んでおり、22年度から24年度にかけ順次開通予定だ。 

また、鉄道網も充実している。つくばエクスプレス(TX)はつくばから秋葉原までを約45分で結び、土浦から東京までを結ぶ常磐線も特急を利用すれば約50分で到着する。 

割安な工業用地と茨城県ならではの優遇制度

アクセスのよさに加え、割安な用地も魅力だ。県内の工業地平均地価は1平方メートル当たり2万700円で、圏央道沿線の他県と比較しても安価なことがわかる(令和3年都道府県地価調査による)。つまり茨城県に進出する企業は、同じ金額でより広い面積が確保できるということだ。

充実した優遇制度に注目すると、その核となっているのが「本社機能移転強化促進補助金」だ。これは、AI、IoT、ロボット、次世代自動車といった新たな成長分野の本社機能や研究開発拠点の茨城県への移転を支援するもので、上限50億円という全国でもトップクラスの補助額が設定されている。

本社機能移転については、県内ではこれまでに計22社の企業が認定を受けている。建設機械大手の日立建機(土浦市:インタビューコラム参照)、顔料や着色剤大手の大日精化工業(坂東市)、空調設備大手の高砂熱学工業(つくばみらい市)、化学大手の積水化学工業(以下、いずれもつくば市)、自動車関連の研究開発を行うスウェーデンのオートリブ、製薬大手のエーザイなど、圏央道沿線の県南・県西地域へも多くの移転が実現している。

次世代産業集積地として海外企業からも熱視線

茨城県の圏央道沿線地域を拠点に、次世代産業を見越した新たな取り組みも始まっている。半導体の受託生産大手の台湾積体電路製造(TSMC)は、日本初の研究開発拠点としてつくば市を選んだ。同事業は経済産業省の「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業/先端半導体製造技術の開発(助成)」に採択されたものだ。県は、半導体メーカーや研究機関が集まる同市の県有地を「最先端リサーチパーク」と位置づけ、半導体関連の研究開発・生産拠点のさらなる集積形成を目指すという。

ここでいくつか注目の工業団地を紹介しよう。

「稲敷工業団地」(稲敷市)は、成田国際空港や鹿島港に近接しており、国際物流の拠点として優れている。「仁連工業団地」(古河市)は、圏央道境古河ICまで約7キロメートルという立地で、新4号国道へのアクセスも便利だ。

このほか、境町では圏央道境古河ICに直結した工業団地を造成中だ。なお同町では自治体初となる自動運転バスの公道運転が開始されるなど、先進的な取り組みが注目されている。

また、常総市では、圏央道常総IC周辺で地域農業の核となる食と農と健康の産業団地を形成するアグリサイエンスバレー事業を進めている。高まる企業進出のニーズに応えるため、県は工業団地開発を継続する方針だ。

坂東市の新工場を事業拡大のフラッグシップに

正栄食品工業 専務取締役 生産本部長 中島豊海
坂東工場
正栄食品工業は1904年、東京府下荏原郡(現・大田区)で、牧場を併営する「成光舎牛乳店」として創業しました。現在は、製パン・製菓用材料などの輸入および卸販売を行い、取扱品目は1万種類以上に及びます。また、グループ生産子会社10工場(国内4社7工場、海外3社3工場)を擁し、食品メーカーとしての事業も行っています。
グループ会社の1社である株式会社京まろんは、2021年4月、茨城県坂東市の坂東インター工業団地内に建設していた新工場の操業を開始しました。ナッツおよびドライフルーツのご家庭向け製品と食品メーカー向けの業務用製品の製造を担っています。同事業は、以前は茨城県常総市の水海道工場にて行っていましたが、事業の拡大に伴い、既存の製造ラインでは対応が難しくなっていました。新たな立地先は全国数カ所を検討しましたが、その中で坂東市を選んだ理由はいくつかあります。まず、ICに近く、使用する輸入原材料の輸送が便利なこと。そして、当初の計画よりも広い土地を確保できるよう、坂東市には柔軟に対応していただいたことに加え、リーズナブルな土地価格であったことが挙げられます。何よりも坂東市の担当の方にワンストップで対応していただいたので、スムーズに進めることができました。
坂東工場では、最新の選別機や大型ロースターなどを導入し、ゾーニングによるアレルゲン対策を行っています。このほか、伝票のデジタル化なども進めており、省力・省人化、働きやすい環境づくりにも努めています。まだ改善を進めている途上ではありますが、坂東工場を当社グループのモデル工場とし、この知見をほかの工場に水平展開していく予定です。用地にもまだ余裕があることから、今後いっそうの事業拡大も視野に入れています。坂東工場を当社の成長の柱に育てたいと考えています。

茨城県内での一貫した生産・開発でシナジー創出を目指す

日立建機 執行役副社長 モノづくり責任者 田淵道文
エンジニアリング棟完成予想図
日立建機は、油圧ショベルなどの建設機械の開発・製造・販売・レンタル・アフターサービスをグローバルで展開しています。海外売り上げの割合は75%ですが、茨城県内で一貫して生産・開発を行っており、高品質な製品や部品を世界各地に供給しています。マザー工場である土浦工場のほか、霞ヶ浦工場、常陸那珂臨港工場、常陸那珂工場、龍ケ崎工場の4カ所でも、製品ラインナップに合わせて生産・開発を行っています。
新設にあたり茨城県から補助金の認定を受けた土浦工場「エンジニアリング棟」は製品ごとに分散していた開発・生産関連部門を集約し、互いの知見を共有することで、開発シナジーを創出します。また、土浦工場では、生産現場をサポートする間接部門の働く環境を整備するために「事務管理棟」を新設しました。龍ケ崎工場では、福利厚生設備の充実のほか、さらなるコミュニケーションの活性化のため、生産部門・間接部門と両部門の従業員が働く「総合棟」を建設中です。
リアルなコミュニケーションを通じて、建設機械の電動化や自律運転、ICTやIoTに対応した高度な製品開発力と、省力化や自動化など人にやさしく革新的なモノづくり力を融合することで、お客様にソリューションをご提供できる製品の競争力を強化します。
建設機械業界は、生産性の向上や現場の安全性の向上、電動化などカーボンニュートラルに向けた取り組みが求められています。次世代を担う建設機械は、開発方針やつくり方のベースから新しいものになると考えています。異なる製品を担当してきた開発担当者の知見が共有されることで、新たなイノベーションが起こることを期待しています。
今後も地域の皆様、地元サプライヤー企業の皆様のご協力を得ながら、茨城県の発展とともに当社も成長したいと考えています。
※2020年度実績

茨城県圏央道沿線のおすすめスポット

❶土浦市 つくば霞ヶ浦りんりんロード
ナショナルサイクルルートに指定された、県南・県西地域の魅力的な観光資源
❷つくば市 筑波山梅まつり
茨城県二大梅まつりの1つで、例年、2月中旬から3月中旬に実施する、春の筑波山を代表するイベント
❸境町 隈研吾氏デザインの6施設・自動運転バス
現在境町には、隈研吾氏が設計した建築物が全国の市町村で最多の6施設ある。レストラン、ギャラリー、研究施設など用途はさまざまで、それらをつなぐのが自治体初の自動運転バス。バスのラッピングは境町出身の美術家・内海聖史氏のデザインを採用
❹五霞町 Street Sports park GOKA
スケートボードや3×3(スリーエックススリー)をはじめ、スラックライン、子どもの遊びエリア等を配置。また、道の駅ごかに隣接しているため、遊びに来た人々が道の駅で買い物もできる
❺稲敷市 大杉神社
日本で唯一の「夢むすび大明神」であり、全国に670社ほどある大杉神社の総本宮。豪華絢爛な境内はあんば日光とも呼ばれている
❻常総市 水海道あすなろの里「RECAMP常総」
キャンプ場が2022年4月にリニューアルオープン。利用者ニーズを考えた、おしゃれで誰でも楽しめるキャンプ場に生まれ変わる。施設内にはアルパカもいる
❼坂東市 八坂公園
ソメイヨシノなど400本の桜が植えられ、花見の名所となっている。6月にはアジサイ、6月下旬から7月にかけてはハスの花が見ごろ
❽龍ケ崎市 龍ヶ岡公園・たつのこやま
龍ヶ岡地区のシンボルたつのこやま(標高41m)を囲む緑豊かな公園で、全長30mの滑り台もある大型遊具があり、連日多くの利用者でにぎわっている
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茨城県圏央道沿線地域産業・交流活性化協議会
事務局/茨城県立地推進部立地推進課