「競争から共創」独立系投資会社が描く逆転劇 苦境を乗り越え、収益確保を図る構造改革とは

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創業154年、東証に上場してから73年の歴史を刻んできた独立系投資会社・Oakキャピタル。しかし近年は業績が伸び悩み、直近では3期連続赤字となっている。この苦境から脱却するため、同社は「逆転劇」に向けて着実に動き出している。2021年6月の経営体制刷新に伴い、代表取締役社長に就任した稲葉秀二氏に話を聞いた。

苦境に陥った原因は「狩猟型ビジネス」への依存か

Oakキャピタルの始まりは、古く明治にまでさかのぼる。1868(明治元)年、三重県で創業された「平田漁網商店」から、その歴史が始まった。後に平田紡績へと名称を変え、漁網生産高日本一を誇った。1949年には東京証券取引所に上場し、グローバル展開を果たしている。

2001年に投資事業へと転換し、06年には現社名に改称。独立系投資銀行としてエクイティーファイナンスの引き受けや成長支援投資、会社再生投資などを実施。カトラリーで知られるフランスのクリストフルや宮内庁御用達漆器メーカーの山田平安堂など、国内外のブランドへの投資も手がけてきた。

そんな同社が3期連続の赤字となった原因を、代表取締役社長の稲葉秀二氏は次のように分析する。

Oakキャピタル
代表取締役社長 稲葉 秀二
立教大学法学部卒。1985年リクルート入社。2004年リクルートビジュアルコミュニケーションズ(現ジュピタービジュアルコミュニケーションズ)取締役。06年に米国でUNIVA CAPITAL Group, Inc.を設立。会長兼グループCEOとして世界16カ国・地域で15事業61社にわたる連邦型企業グループを形成。21年6月より現職

「上場していても大企業ではありませんから、決して資金が潤沢とはいえません。必然的に分散投資には限界があります。投資銀行事業での借り入れは基本的にしていないため、倒産のリスクはほとんどありませんが、安定したリターンを生み出し続けるのが難しい収益構造だったのです」

そこで、従来の“一発当てれば大きいが、当たらなければ赤字”に陥る「狩猟型ビジネス」のみに依存するビジネスモデルからの脱却を決断した。

「長年ノウハウを蓄積してきたハイリターンのキャピタルゲインを狙う投資銀行業務にも、引き続き取り組みます。ただ、それだけでは投資家の皆様にとってOakキャピタルは不安定な投資対象となってしまいます。

ですので、インカムゲインとして安定収益を生み出す『農耕型ビジネス』、事業会社の株式を中長期的に保有しながら成長を支援して収益を確保する『開発型ビジネス』を加えた3つを支えるホールディングスとして持ち株会社に移行し、グループの経営戦略を担っていきます」

その経営戦略の軸となるのが「価値共創企業 つなぐ。一緒に創る。 」と銘打ったコーポレートスローガン。事業会社と、グループ全体の「価値」を「共」に「創」り上げていくのが新たなOakキャピタルの姿だと稲葉氏は力を込める。

「社会全体を見ても、“競争”による成長が限界を迎えていることは明らかです。一直線に幸せになっていく人たちがいる反面、成長を阻害されている人たちも増えている二極化の構造が残念ながら存在します。

そうではなく、Oakキャピタルはすべてのステークホルダーが幸せになる仕組みを目指したい。取り組む事業の社会的な価値をステークホルダーの皆様と“共創”することで、グループ全体の企業価値を向上し、収益拡大を目指していきます」

クリーンエネルギー事業とデジタル化に注力

具体的にはどのような事業を展開して「価値共創」を図っていくのか。稲葉氏は「現在の社会でなくてはならないもの」という観点を重視して新たな事業ポートフォリオを構築するという。

「SDGs(持続可能な開発目標)」が世界共通の目標となっている現在、社会的に価値がある事業を行う必要があります。とりわけ脱炭素化によるエネルギー転換は非常に大切ですので、まずグループ企業のノースエナジーが展開してきたクリーンエネルギー事業にはより力を注いでいきます」

ノースエナジーは、北海道を中心に小規模太陽光発電設備の企画・販売などを手がける。堅調に売り上げており、すでにさまざまな新電力事業者から電力小売りの打診を受けているという。再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)は2019年11月以降順次終了しており、今後の戦略を模索している中小事業者と連携していきたいと稲葉氏は明かす。

「デジタル化」も、テコ入れを進めている。21年12月、稲葉氏が率いているUNIVA CAPITALグループの中の事業会社であるフィンテック企業のユニヴァ・ペイキャストを完全子会社化する基本合意締結を公表した。

キャッシュレス決済ビジネスを展開するユニヴァ・ペイキャストは、越境決済に強みを持ち、高度なセキュリティーを保つ決済システムを有する。さらに傘下には、2万以上のウェブサイトにデジタルマーケティングツールを提供してきたユニヴァ・ジャイロンが入っている。

つまり、Oakキャピタルは、今後さらに加速するキャッシュレス決済ソリューションと、あらゆる事業展開に欠かせないデジタルマーケティングを一気に手中へ収めたことになる。

「ほかには、どれだけ時代が変わってもニーズが尽きない美容・健康などライフスタイル領域への拡充も検討しています」と稲葉氏は付け加える。時代の流れを読み、安定した収益確保が望める構造改革を着々と進めていることがわかる。

精力的な動画配信でコミュニケーションを強化

これらをオープンに進めていくのも、“稲葉改革”の大きな特徴だ。象徴的なのが、2021年11月からスタートした動画配信メディア「Koh-EN TV」。稲葉氏自ら出演し、Oakキャピタルの「今とこれから」を赤裸々に伝えていこうという取り組みだ。

「私自身、高校・大学を通じて映画を自主制作していたほか、前職のリクルート時代はデジタル衛星放送事業で番組プロデュースにも携わった経験があり、動画の力を信じています。

稲葉氏は米国在住。取材はオンラインで実施した

株主をはじめとするステークホルダーの皆様と双方向のコミュニケーションを行うことが持ち株会社として最も重要な役割だと考えていますので、業績など定量的な現状報告はもちろん、定性的な事業進捗や今後の計画、そして私の思いを直接お伝えしていきます」

コミュニケーションに積極的な姿勢の背景には、現在の金融の世界が不公平だとする課題意識がある。

「リターンの期待度が高い投資機会は、機関投資家のようなプロフェッショナルのところに集まる傾向があります。一般の投資家にとっては不公平ですし、富の二極化を助長しかねません。私たちOakキャピタルが投資機会を小口化してリスクヘッジすることによって、『金融機会の民主化』を実現していきたいのです」

この熱い思いを基に、Oakキャピタルグループの過去最高実績を上回る、連結売上高250億円、連結純利益20億円、時価総額600億円という“25・2・60”の実現を目指すと宣言する稲葉氏。

現況から逆算すれば容易な道のりではないが、社会の枠組みが大きく変わり、金融ビジネスのパラダイムシフトも進みつつある今、その数字は単なる夢物語とは決していえない。

Oakキャピタルの動画配信メディア「Koh-EN TV」はこちら