三菱重工「2040年カーボンニュートラル」の現実味 取締役社長 CEOが自ら語る、脱炭素への道筋

重工業は脱炭素のハードルが高い産業の1つといわれている。しかし、三菱重工グループは2021年10月に「MISSION NET ZERO」を宣言。2040年に同社に加えて顧客の直接・間接排出まで含めたCO2排出ネットゼロを目指す意欲的な目標を掲げた。政府が掲げる2050年カーボンニュートラルを10年前倒しした意図はどこにあるのか。泉澤清次取締役社長 CEOに、カーボンニュートラルにかける思いを聞いた。

「エネルギーと地球環境」この2軸の両立こそが三菱重工の存在意義である

発電プラントから、産業機械、航空・宇宙分野に至るまで、社会を支えるさまざまな製品を手がけている三菱重工グループ。化石燃料を使う製品が多いだけに、カーボンニュートラルに及び腰だと先入観を持っている人がいるかもしれない。

しかし、その認識は誤りだ。今のように地球環境保護や気候変動問題が大きく取り沙汰されるよりずっと前から、三菱重工グループはエネルギーと環境のリーディングカンパニーとして化石燃料の問題に取り組んできた。泉澤氏は、自社の歴史を次のように振り返る。

三菱重工業
取締役社長 CEO
泉澤 清次

「日本は燃料を輸入に頼らざるをえず、『エネルギーをいかに効率的に使うか』が長年の課題でした。また、高度成長期には公害問題も発生しました。そうした社会的な課題に対して、当社グループは高効率ガスタービン、排ガス処理、ヒートポンプなどの省エネなど、その時代ごとの先端技術を開発・推進することで貢献してきました。エネルギーを安定的・経済的かつ、地球環境にやさしい形でつくりだして世界を支えていくことは、私たちの変わらぬ責務であり、存在意義です」

「顧客のCO2排出ゼロ」まで視野に入れている

同社の社会的責任への思いが端的に表れているのが、2021年10月に発表した「MISSION NET ZERO」だ。

この宣言で同社は、30年にCO2排出量を14年比で50%削減、40年には自社の排出に加え、バリューチェーン全体で「ネットゼロ」を目指すことを表明。グループの工場などにおける燃料の燃焼などのCO2直接排出を対象とする「Scope1」、電気などの使用に伴うCO2間接排出を対象とする「Scope2」、そしてグループの事業に関連する顧客やサプライヤーなどのCO2排出すべてを対象とする「Scope3」と、すべてのアプローチでカーボンニュートラルを実現する考えだ。

注目したいのは、ネットゼロ達成のゴールを、政府目標の2050年ではなく、40年に設定した点だ。なぜ10年も前倒ししたのか。泉澤社長は次のように解説する。

「例えば、当社グループの機器を使うお客様が50年までにカーボンニュートラルを実現する場合、逆算して45年には工場にそのための機器を設置、40年にはその受注が完了せねばなりません。技術が社会実装されるまでのリードタイムを考え、当社グループの取り組みのターゲットを『2040年』に設定しました」

同社グループの社是の1つに、「顧客第一の信念に徹し、社業を通じて社会の進歩に貢献する」がある。顧客がカーボンニュートラルを実現するまでの道のりを織り込んだ意欲的な目標設定は、まさにこの社是にのっとったものといえる。

ただ、どんなにすばらしい目標も、掛け声倒れに終わってしまうと意味がない。泉澤社長は、こう語る。

「各工場では、すでにScope1と2に当たる省エネや脱炭素の施策を進めてきました。ここからさらにネットゼロにするためには、もう一段違ったアプローチが必要になります。水素やアンモニア、再エネ、蓄エネ、省エネなどさまざまな技術を持つ私たちは、それらを統合するエネルギーマネジメントを組み合わせて、エネルギーの需給一体となった解決方法を追求していきます」

いちばんの懸念は、顧客のCO2排出をゼロにするScope3かもしれない。顧客側の取り組みは市場環境に大きく左右され、不確定要素も多い。しかし、これに関しても泉澤氏は自信を見せる。

「2020年10月に中期経営計画(2021事業計画)を発表しました。この計画の中では、多くの事業がカーボンニュートラル社会への貢献を意識した製品開発、事業展開を目指しています。そのロードマップが実現できた暁には、顧客のCO2排出を限りなくネットゼロに近づけ、さらにCCUS事業を組み合わせるとネットゼロが実現できると判断したからこそ、今回の『MISSION NET ZERO』を発表できた。『2040年ネットゼロ』も、十分、手の届くターゲットだと考えています」

実際、三菱重工グループは、CO2回収の技術・実績ですでに世界をリードする立場にあり、排ガスからのCO2回収ベースで世界トップシェアを誇る。

エネルギーの転換に向けた黎明期
地に足のついたアプローチを提供

では、具体的にどうやってカーボンニュートラルを実現していくのか。三菱重工グループは中期経営計画で、「エナジートランジション」と「モビリティなどの新領域」を成長領域として位置づけた。「エナジートランジション」はエネルギー供給側、「モビリティなどの新領域」はエネルギー需要(使用・利用)側に当たる。同社は主にこれらの領域で事業を加速させ、カーボンニュートラルを目指す考えだ。

なお、この2つの成長領域に対して、同経営計画中に1,800億円の投資を決定した。泉澤氏は、「エネルギーの供給側と需要側の両方のソリューションを同時に提供できるのが、当社グループの特徴であり、強みです」と語る。

来年度以降は、研究開発、設備投資などを含めた投資総額のうち、この2つの成長領域を含めたカーボンニュートラル関連事業への比率を40%から80%レベルへ増やし、今後10年間で総額約2兆円の投資を予定している。この額からも、本気度がうかがい知れる。

カーボンニュートラルを実現する道は一つではない

「エナジートランジション」においては世界各国の地域特性を考慮して適切な手段を選択する必要がある。

「例えば再生可能エネルギーが利用しやすいヨーロッパなら良いが、再生可能エネルギーの好条件に恵まれないアジア地域で同じことをすると、コストが跳ね上がってしまう。そこで、火力発電の燃料をアンモニアや水素へ転換し脱炭素化する、または、原子力発電の再稼働に貢献するなど既存のインフラを生かす。このように、複数の手段を組み合わせる道を探るべきでしょう」

ただ、エナジートランジションを進めるために乗り越えなくてはいけない壁が1つある。エコシステムの構築だ。「これまでエネルギーのバリューチェーンの中で当社グループはプラント設置という部分的な役割を果たしてきました。しかし、エネルギーの転換期を迎えた今、当社グループはお客様、エネルギー事業者、政府などといった、国内外のさまざまなステークホルダーとの協業を通じて、エネルギーの上流から下流のバリューチェーン構築、すなわちエコシステムを構築していく必要があります。これは、当社グループにとって次の100年を方向づける大きな挑戦になると捉えています」

「共生(ともいき)」の考え方でカーボンニュートラルを実現

「2040年ネットゼロ」。この大きな目標達成に向けて、泉澤氏に改めて決意を語ってもらった。

「地球環境の保全が重要なのは当然のこと。それと同じく、経済性も無視できません。どちらかを選ぶのではなく、2つを両立させる解を見つけるために、当社グループが持つすべての力を発揮していきます。

私が大切にしている言葉の1つに『共生(ともいき)』があります。これは、今の時間における地域との共生、自然との共生という横軸と、先人、自分たち、次世代という縦の時間軸の両方を包摂したものです。カーボンニュートラルで目指す世界はまさにこれだと思います」

泉澤氏は、「20年後に三菱重工グループにいないあなたが、その未来にどうやってコミットするのか」と聞かれたことがあるという。そのとき浮かんだ言葉が「共生」だったと振り返る。

「確かに20年後、私は会社にいないが、道筋を立て、戦略を実行し、志を次世代に引き継ぐことができる。そのような人材も育ってきており、そうやってバトンをつないでいった先に、カーボンニュートラルという新しい未来が見えてくるはずです」

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