京セラ「電子部品」が子会社と挑むグローバル戦略 米国リーディング企業とシナジーを生み出す

ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小
京セラが組織再編を行い、新たに3つのセグメント体制に移行した。その1つ「電子部品」セグメントは、京セラの電子部品事業と米国子会社が融合。おのおのの強みを生かしつつシナジーを追求し、グローバルに事業拡大を狙う。電子部品セグメント担当ジョン・サービス氏と副担当の嘉野浩市(かの・こういち)氏が事業戦略と連携への思いを語った。

京セラと米国KAVXとのシナジーで、
早期に売上倍増、利益率20%を狙う

 京セラは、2021年4月、大規模な組織再編を実施。多岐にわたる事業を「コアコンポーネント」「電子部品」「ソリューション」の3つのセグメントに集約し、新体制をスタートさせた。「電子部品」セグメントは、京セラの電子部品事業と、米国の子会社AVX Corporationの統一新事業ブランド“KYOCERA AVX”を立ち上げた。AVXはその後、社名をKYOCERA AVX Components Corporation(以下、KAVX)に改め、会長、CEO兼社長のジョン・サービス氏と、京セラの電子部品事業を統括する嘉野浩市氏の2人が先頭に立ち、グローバルに事業拡大を図る方針を打ち出した。

――京セラの電子部品事業と米国子会社とを統合する狙いはどこにあるのでしょうか。

嘉野 京セラは、日本国内、アジアを中心に、主に情報通信市場向けの電子部品を製造・販売してきました。一方のKAVXは、米国、欧州に広範な販路を持つグローバル・リーディングカンパニーで、自動車、航空・宇宙など、幅広い市場に向けて電子部品とソリューションを提供しています。電子部品市場では、IoTや5G、ADAS(先進運転支援システム)の進展により、大幅な需要の増大が見込まれています。この市場の動きに対応し、グローバルにシェアを拡大するためには、KAVXの100%子会社化により、両社の強みを生かしつつ、経営資源を有効に連携させる必要があると考えました。

両社の連携の歴史は古く、1990年にKAVXが京セラグループに参画して以降、30年以上に及びます。その間、京セラフィロソフィをベースに、互いにリスペクトし、学び合いながら成長を遂げてきました。私とジョン・サービスも、90年に出会ってから今日まで共に働いてきました。これまで築いてきた揺るぎない信頼関係が、新セグメントの基盤になっています。

――どのような連携やシナジーを考えておられますか。

サービス 市場、地域、販売ルートなど、京セラとKAVXの異なる強みを生かして、クロスセル展開を図ります。KAVXは欧米のグローバル代理店を通じて、独自のITシステムを活用し、大手顧客のみならず世界中の中小企業約3万社に効率よく販売するノウハウを持っています。この強みを活用し、京セラの電子部品を欧米の航空・宇宙、医療、産業市場に投入します。一方、日本国内・アジアの情報通信市場にも、KAVXの製品を積極的に販売していきます。

さらに、セグメント外との連携による製品開発にも取り組んでいます。2021年、米国でGaN(窒化ガリウム)デバイスを手がけるSLD Laser社を京セラグループに迎えました。電子部品の技術を融合し、車載ヘッドライトをはじめとしたレーザーモジュールの開発を進めています。このようなシナジー創出の取り組みを通じて、早期に売上倍増となる5,000億円と、利益率20%の達成を目指します。

成長する製品に積極投資し業界のリーダーを目指す

――注力する事業をお聞かせください。

サービス 今後の注力製品として、積層セラミックチップコンデンサ(MLCC)水晶部品、タンタルコンデンサを中心に積極的に投資していきます。MLCCは、京セラ鹿児島国分工場の新棟建設などを通じ増産投資を継続する一方、KAVXタイにて車載向け製品の増産を進めます。また、両社のMLCCに関わる開発・製造・販売の経営資源を統合する組織を2022年4月に設立し、1つの戦略の下にグローバル展開を加速させます。

水晶部品については、独自のフォトリソ技術などで先行し、超小型振動子で業界トップシェアを確保します。また、さらなる小型・低背化要求に対応するため、19年、フィンランドに新たな開発拠点KYOCERA Tikitin Oyを設立し、Si-MEMSとWLP(ウエハーレベルパッケージ)技術を用いた新製品を開発しています。タンタルコンデンサに関しては、21年12月にタイにKAVXの新工場を設立し、ポリマータンタルの増産に力を注ぎ、業界のリーディングポジションをさらに強化します。

KYOCERA AVXのタイ新工場

――どのようなセグメントを目指すのか、ビジョンをお聞かせください。

嘉野 目指すのは、業界のリーダーです。他社と差別化した“Something Different”な製品やソリューションを提供し、お客様から最初に声をかけられる存在を目指します。また、近年の若い社員は単純に利益を追求するだけでなく、社会課題を解決し、社会に貢献することに働く価値を見いだしていると感じます。私の役割は、そのような世代の価値観を理解し、全社員が持つ力を最大限に発揮し成長できる機会をつくることです。そうすれば、必ず目標への成果もついてくると信じています。これは、当社が創業から大切にしてきた経営理念にも合致しています。

京セラとKAVXが手を組んで30年以上経ち、当時の若い世代が今やリーダーとなり、各ポジションで強固な信頼関係を構築できています。この強固な信頼関係こそが私たちの財産であり、成功への大きなカギになると思います。我々は、“unity”の精神の下、これまで以上に相互理解と信頼関係を深め、互いの強みを際立たせながら社会に新しい価値を生み出していきます。

新事業ブランドでシナジー追求
2020年のAVXの100%子会社化、21年の電子部品セグメントの設立を経て、経営アセットのさらなる効率的な活用が可能になった。新事業ブランドKYOCERA AVXとして、販売、製造、開発の3方向でいっそうのシナジーを創出していくという。まず販売面においては、21年10月に米国、欧州の営業組織を統合し、続いて22年4月にはアジアでも統合する。

製造面で進めているのが、全世界に33あるKAVXの生産拠点に京セラの自動化ラインを導入することだ。京セラはIoTやAIを活用した自動生産システムを独自開発し、「スマートファクトリー」の構築を進めている。これをKAVXにも導入することで、圧倒的な効率化を図り、原価低減を実現するという。

開発面では、コンデンサとコネクタについて両社が手がけている開発計画の「すみ分け」により効率的な投資を行うとともに、双方の技術を融合することで新製品開発を加速させる。

「シナジーを追求することで、競合他社と差別化したビジネスを展開し、特定分野のナンバーワンを目指す」と嘉野氏は力を込めた。