グローバルな企業価値向上を実現する
金融機関のITガバナンスとは
グローバル視点では「COBIT5」の導入も選択肢の一つ
日本企業の経営を取り巻く環境が急速に変化している。特に金融業界においては、規制の撤廃や自由化が進み、競争も激化している。最近では、流通業者など金融機関以外を本業とする企業の参入も加速している。金融機関の海外進出も活発である。グローバルの潮流も見据えたITガバナンスを構築する際の留意点は何だろうか。
「日本の金融機関の場合、ITマネジメントについては、日本国内の管理の手法を、そのまま海外拠点に適用しようとする傾向があります。それでは、海外の人にとっては納得感が薄く、共通認識が得られないということになりがちです。そこで、やはりグローバルで認知されている基準ということで、『COBIT』を採用する企業が増えています」と鵫巣氏は紹介する。
「COBIT」は、米国ISACAが提唱する事業体のITガバナンスのためのフレームワークである。「COBIT」の原則は、ITマネジメントと、ITガバナンスの区別である。
「ただし、米国でつくられたフレームワークなので、やはり、欧米型の企業の組織形態や統治方法を念頭に置かれているところがあります。そのまますべて日本の会社に当てはめようとしてもうまくいかない部分もあります。ITガバナンスの定義と同様に、自社でどのようにCOBITを使っていくのか、さらにその成果をどのように判断するのかを検討したうえで導入すべきです」
ITガバナンスに取り組み
国際競争力のある企業に変わってほしい
ITガバナンスをどのように活かしていくのだろうか。「ITガバナンスの活かし方は、企業によってまちまちです。たとえば、先ほど図で示したITマネジメントのプロセスもまだ十分にできていない企業も少なくなく、まずはITマネジメントの強化に活かそうという試みです」。
一方で、これから海外進出を本格的に進めていこうとする企業、あるいは、すでに海外進出を活発に進めている企業は、グローバルでみたときにも、ITが収益を生んでいるのか否かが統一した手法で評価ができるよう、ITガバナンスを活用していこうとしているという。
「日本企業の多くで、システムがガラパゴス化している例を見かけます。ほとんど収益を生み出していないシステムを保有しているにもかかわらず、そのようなシステムがどのくらい存在するのかを十分に把握できていないのが現状です」と鵫巣氏は指摘する。収益性を継続的に評価することによって、本来あるべき姿に改めていくのも、ITガバナンスの取り組みの一つだ。「国内では、地銀の再編なども進んでいくと考えられます。地銀に限らず合併などは、ITガバナンスを見直す絶好の機会です」。
再編のメリットの一つがITの共通化によるコスト削減だが、この際に議論になりがちなのが、基幹系のシステムについて、どちらの会社のシステムを残すかということだ。これに対して鵫巣氏は、「システムは経営戦略を実現するためのものです。システムが先にあるわけではありません。再編後のビジネスを成功させるためには、どちらのシステムを使った方がより有効かという観点で選択すべきです。どちらも不十分ということであれば新しいものをつくるという考え方もあります」と話す。
ITはまさに企業の価値を生み出すものであるということだろう。経営戦略を実現するためには、欠かせないことは言うまでもない。「重要な経営課題として、経営者が率先してITガバナンスに取り組んでいただき、国際競争力のある企業に変わってほしいと願っています」と鵫巣氏は期待を込める。