「データドリブン経営」支援するコミュニティとは 三菱マテリアルCDO「変革のポイント」を語る

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デジタル化が加速する今、企業においてデータを収集・分析し、それを基にビジネスの意思決定を行う「データドリブン経営」の重要性が増している。しかし、組織の中でデータを適切に分析して最大限に利活用していく文化を醸成するのは簡単ではない。そうした背景から、セールスフォース・ドットコム傘下のTableau(タブロー)は、BIプラットフォームを提供するだけでなく、データドリブンな組織を構築するためのリーダー層向け実践型プログラムを実施して、企業の変革を支援している。今回、2021年10月~12月にかけて行われたプログラムについて取材し、見えてきたのは、データドリブンな組織への移行には経営層の積極的関与が欠かせないということだ。

 データドリブン変革を支援する“実践型”プログラム

Tableauは、データの分析・可視化に活用できる先進的な分析プラットフォームを提供している。そのベストプラクティスと数千の顧客から得たノウハウを基に、データドリブンな組織を構築するためのガイドラインとしてまとめたのが「Tableau Blueprint(タブロー・ブループリント)」だ。データ活用の文化を組織に定着させるために必要なステップについて、約300ページに及ぶ文書で解説されており、同社のWebサイトで無料公開されている。

Tableau Blueprintのイメージ図

ただ、変革へのステップを知ることはできても、これを読むだけで実践に移すのはなかなか難しい。そこで同社では、Tableau Blueprintに基づいてデータドリブン組織への変革を目指す実践型の短期プログラムを開催している。それが「Blueprint Committee(ブループリント・コミッティ)」である。現在、1ターム(3カ月間)4回のセッションを年に2回実施していると、Tableau カントリーマネージャーの佐藤豊氏は話す。

「Blueprint Committeeは、Tableau Blueprintの内容を理解し、自社での活動計画を立てていただくワークショップ形式で行っています。CoEのご担当者およびCoEの立ち上げを検討されている方を対象にオンラインで開催しており、第1回は事例を交えてTableau Blueprintの概要をご説明し、第2・3回では社内のユーザー育成やコミュニティ活動の進め方について深掘りするとともに、お客様企業に登壇いただいて実践事例を紹介してもらっています。各回には宿題もご用意し、効率的に振り返りができるよう工夫しています」(佐藤氏)

各回にディスカッションの時間を用意しているのも特徴だ。事前に回収した調査シートを基に、できるだけ近い課題を持つ参加者がグループを組むようにして、それぞれが解決策とネクストアクションを棚卸ししやすくしている。そして最後の第4回には成果発表会を実施し、自社改革のための計画をスムーズに作成できる立て付けとなっている。

参加者にとっては、利害関係にとらわれることなく、同じ目線で課題に取り組めるコミュニティであるのも大きなメリットだ。また、複数回にわたってディスカッションを展開し意見交換ができるため、まるで“同期”のようなつながりが生まれることも期待できる。

※CoE(Center of Excellence):特定の領域に関する人材やノウハウを集めた横断組織のこと

三菱マテリアルCDO「何のためにやるか」が肝

さらに、2021年10~12月にかけて実施したBlueprint Committeeでは、4回にわたる定例プログラムに加えて、エグゼクティブ層向けの特別プログラム「Executive Day」も開催した。

「経営の舵取りを担う方に、変革のヒントを持ち帰っていただきたい」(前出・佐藤氏)との思いから、エグゼクティブにデータドリブン組織へのコミットメントを促す内容を展開。当日は、三菱マテリアルのCDO(最高デジタル責任者)である亀山満氏が自社の取り組みについて講演した。今回は日産自動車、横河電機、大日本住友製薬をはじめとする製造業を中心とした幅広い業種から、18社22名の企業のデータ活用を推進する経営幹部や幹部候補者が集まった。

2021年に創業150周年を迎えた国内トップクラスの総合素材メーカー・三菱マテリアルでは、2020年2月、「いま変わらなくてはならない」という経営トップの強烈な危機感から、デジタル化戦略に思い切って力を注ぐことを決断。自動車メーカーや化粧品メーカーでIT戦略を統括してきた亀山氏を初のCDOとして招聘し、抜本的な経営改革のための取り組みの1つとして、2020年度から25年度まで400億円超を投資する「MMDX(三菱マテリアル デジタル・ビジネストランスフォーメーション)」と銘打ったデジタル化戦略の推進を加速させている。

三菱マテリアル
最高デジタル責任者(CDO)
亀山 満

「当社は金属やセメントを中核事業としてきましたが、現在は銅加工製品、電子材料、超硬工具などのプロダクト事業、環境リサイクル事業やエネルギー事業にも力を入れています。2020年には食品廃棄物のバイオガス発電事業を開始し、水力発電や地熱発電などのクリーンエネルギーも手がけるなど、『人と社会と地球のために』という企業理念の下、循環型社会や脱炭素社会の実現に貢献するため大きく変わろうとしています。その実現に向けて、デジタルを活用しビジネスを変革していこうとしています」(亀山氏)

ドラスティックな変革となるだけに、投資やリソースをどうするかを見極めなければならない。計画が先行しがちな状況だが、亀山氏は決して慌てず「目指す姿をよりリアルにする」ことを重視し、経営層の深い理解を得るために時間を費やした。

「まずは社内カンパニーの各部門や、取引先・顧客企業、他社デジタル責任者、IT企業トップなど数百名以上にインタビューを行い、徹底して現状把握を行いました。そして、毎週の役員会議や年2回の役員合宿を通じ、各役員にデジタル化への理解を深めてもらいながら、徹底的に議論を重ねていきました」(亀山氏)

結果、経営層の間で取り組むテーマが明確化されるとともに、データドリブン経営へシフトしていくこと、データドリブンな組織風土の醸成に向けてDX人材の育成およびDXリテラシーの強化に取り組む意思を明確にした。一方、同社はものづくりの会社であり至る所にデータはあるが、意思決定に役立てられるよう十分に整備されてはいなかった。

そこで、MMDXの1つのテーマとして、データドリブン経営の実現に向けた「4つの層」の取り組みを同時並行で進めている。4つの層とは、社内のデータ活用方針やルールを定義し、データを扱うリテラシーを引き上げる第4層、既存のデータを実際に活用できるように集め・整える第3層、整えたデータを蓄積・分析できる基盤・ツールを用意する第2層、それを使いこなすことで成果・効果を出し、その取り組みを通して人材を育成する第1層のこと。この4つの層の取り組みは「Tableau Blueprintとも一致する」と亀山氏は言う。

データドリブン組織を実現するために、4つの層の取り組みを推進している

DX人材の育成においては、データサイエンティストのようなスペシャリストの育成はもちろん、全従業員がデータを使いこなせるよう社長を含む役員全員のリスキリングにも取り組む。さらに、若手社員をメンターに起用し、助言や指導を行う「リバースメンタリング」を実践し、DXリテラシー向上と組織内のフランクなコミュニケーションも実現させようとしたのだ。また、メンバーが元の所属先に軸足を置きながらDX推進を担うバーチャル(仮想的)組織の「DX推進本部」も設置。DXリーダーの輩出を促すなど、組織が変革をスムーズに受け入れられる素地をつくっていった。

こうした取り組みを通じて、着実にデータドリブン組織への転換を進めている三菱マテリアル。亀山氏は「ポイントは、『何のためにやるか』ということです。DX推進が目的ではなく、こういう仕事をしたいからデータを使うのだという意識を徹底的に浸透させることが重要です。また、経営改革である以上、リーダーがオーナーシップをもって推進していくことも大切です」と語った。

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亀山氏が説く、MMDXの4つのポイント。目的を明確化し浸透させるとともに、リーダー層が積極的に関与することが大事だという。同時に、現場の活躍の幅を広げること、皆がデータを徹底的に使いこなせるように取り組んでいるという

「自分事」として解決策に向き合える時間に

亀山氏の講演の後には、参加者によるディスカッションを行った。

とりわけ、DX推進本部がバーチャルな組織であることに刺激を受けた人は多かったようだ。「DX組織はつくらず、IT主導でDXに取り組んできた」というエグゼクティブは、「自社でも検討してみたい」と発言。「データドリブン組織への変革は現場最適を重視してきたが、トップ層を動かすことも重要だと気づいた」「DXは事業側がオーナーシップを持たないと絶対に成功しない」という意見も出た。

また、DX人材育成に当たっては、「人材の選定でどこに気を使うべきか」「事業部門に所属しながらDX推進本部に参画している人材の人事評価はどちらに軸足を置くのか。業務量の調整や給与面の配慮はどうするのか」「DXを通じてデータドリブンな仕事の進め方や働き方のマインドはどう変わったか」といった具体的な部分まで議論が展開された。

三菱マテリアルの亀山氏が経営層に「自分事としての理解」を迫ったのと同じように、それぞれが自社の課題と向き合って解決策を導き出そうとしていたのが印象的だったExecutive Day。他社の取り組みや姿勢、熱量に接する貴重な機会であるとともに、自社の取り組みを見直して次のアクションへの示唆を得られる好機であることは間違いない。データドリブンの重要性を組織に浸透させたい企業は、TableauのBlueprint Committeeへの参加を検討してみてはいかがだろうか。

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