売り手市場が続くエンジニア、勝ち組の条件は? 熾烈な競争を「生き残る人材」、その中身を解説
エンジニアにとっては「より取り見取り」の現状
コロナ禍でも衰えることがなかった企業のIT投資。旺盛な投資意欲の背景には、DXという大きな潮流がある。売り手市場は変わらぬトレンドで、エンジニアにとってはいわば「より取り見取り」の状況だ。ただ、転職を検討するなら、目の前に提示された条件だけでなく、中長期的な視野を持って会社を選ばなければならない。JSOL常務執行役員の江田哲也氏は、SI業界を次のように展望する。
「今後数年、需要が高いまま推移することは間違いありません。しかしそう遠くない将来、おそらくSIerの選別が始まります。お客様にとって真のDXパートナーとなれるSIerか、工程分担を請け負う立場のSIerか。どちらにおいても頭数は必要ですが、前者では、人材の質も厳しく求められます。エンジニアは自分がどちらの立場で活躍したいのか、まずは検討する必要があります」
理化学研究所と共同出資、新事業領域にも意欲
JSOLが目指し、確立しつつあるのは前者、つまり顧客の「真のDXパートナー」となれるSIerだ。同社は2006年の設立以来、幅広い業界において、顧客と直接契約する元請けとして日本企業のIT化を支え続けてきた。
とくに製薬業界、自動車業界、金融業界の企業にとっては、なくてはならないパートナーとなっている。江田氏は、同社の歴史を踏まえてこう解説する。
「当社は、日本総合研究所のSI部門が分社化して誕生しました。日本総合研究所は三井住友フィナンシャルグループの一員であり、メガバンク直系で培われた金融系のノウハウは当社にも引き継がれています。国内大手自動車メーカーの設計や性能分析システムにも独自の強みを持っていますし、製薬業界との関わりも深く、国内製薬企業の情報系基幹システムの多くを手がけています」
注目したいのは、同社が実績に頼るだけでなく、新しい事業領域にも積極的な点だ。2020年10月、国立研究開発法人理化学研究所(以下、理研)、理研鼎業との共同出資で理研数理を立ち上げたのは、その象徴といえよう。公的な研究機関のイメージが強い理研だが、戦前にはさまざまな事業を自ら展開していた。法改正によって民間事業会社への出資が可能になり、JSOLをパートナーに新会社を設立したというわけだ。理研数理の社長を兼務する江田氏は、同社設立の狙いをこう語る。
「理研はデータサイエンスやシミュレーションの分野で、世界トップクラスの研究者や研究施設を擁しています。一般にもよく知られているのは、スーパーコンピューター『富岳』。こうした資産を活用して、新しい価値を提案していきます。世界への貢献はもちろん、社内にも刺激が生まれています。現在すでに理研のサイエンティストが理研数理のメンバーと一緒に新しいアルゴリズムやモデルの開発に従事しており、人材育成面でも期待は大きいです」
今後活躍するのは「ネットワーク型リーダー」
もともと持っている得意領域を持続的に成長させつつ、新領域にも力を入れる。JSOLのこの戦略を支えているのが、風通しのいい組織風土だ。一般論として、複数の業種を得意領域にする企業は組織のサイロ化が起きやすい。従業員数約1200人のJSOLでサイロ化が起きると、リソースが分散してしまい、各担当がパワー不足に陥るおそれがある。
しかし、「当社は、横のつながりが非常に強い。それぞれに専門性がありつつも、担当を超えて柔軟に新しい事業検討ができる体制になっている」(江田氏)という。
そしてもう一つ見逃せないのが、意思決定のスピードだ。理研、理研鼎業との共同出資が発表されたとき、「なぜ理研は超大手企業ではなく、JSOLを選んだのか?」と驚いた業界関係者は多かった。理研がJSOLを選んだ理由は複合的だが、その1つに「スピード」が挙げられる。
「当社は、とにかく意思決定やビジネスプロセスがスピーディーな企業文化。理研との共同出資も、社内での会議検討は最小限とし、現場で即断推進した。このスピード感は、当社の揺るぎない強みです」
こうした組織で活躍できるのは、どのような人材なのか。江田氏はこう明かす。
「ヒエラルキーの中に組み込まれて、安定的に仕事を処理するだけのエンジニアでは難しいでしょう。当社が求めているのは、自分の専門分野をリードしつつ、社内外の他者と結び付いて価値を増幅させることができる、ネットワーク型の人材です。例えばプロジェクトマネジャーやリーダークラスであれば、単に組織を率いるだけでなく、自らマーケットを開拓してほかのメンバーに機会を提供できる人が活躍しています」
マーケット開拓と聞いて、及び腰になるエンジニアもいるかもしれない。JSOLはラインマネジメントと別に、技術のスペシャリティーを評価してキャリアアップする「プロフェッショナル制度」を設けている。設立当初からあった制度だが、2021年に最上位の職階として、役員相当の「フェロー」を追加。技術志向の強いエンジニアが、その強みを生かしてキャリアアップできる可能性が広がった。
「専門職も、必ずビジネスとひも付けながら事業貢献してほしい。この姿勢は、どの職種でも大切です」と江田氏は断言する。
自分のやりたい仕事に挑戦できる環境を用意
働きやすさや働き甲斐も気になるところだ。JSOLは休暇取得を奨励するなど、かねて社員のワーク・ライフ・バランスに熱心に取り組んできた。
では、働きがいはどうか。江田氏は「メンバーに、自分のやりたい仕事に取り組んでもらうことがいちばん」と言い切る。「気持ちが入らない仕事に日々向き合っていては、心身が不調になり、生産性の低下や離職につながってしまいかねませんから」。
実際JSOLには、社員が自分のやりたいことにチャレンジできる環境が用意されている。例えば新規ビジネスを検討する場として、2019年に「ビジネス戦略協議会」を設置。一般には、社員が新規事業を提案しても、意思決定プロセスに時間がかかり途中で息切れしてしまうケースが少なくないが、この会議では社長が「面白そうだから、やってみなよ」と即決することもあり、スピードが段違いなのだという。
もちろんJSOLが求めているのは、必ずしも新規の提案をする人材だけではない。自分が個人軸、組織軸、社会軸のそれぞれで何を実現したいのか、また3つの軸のバランスをどうしていきたいのか、ビジョンを明確に持つ人材だ。まだまだ売り手市場が続くエンジニア。JSOLなら、やりたいことに思う存分取り組める環境が整っている。