骨太な組織に変わるコミュニケーションのDXとは Executive Deep Diveレポート

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コロナ禍にリモートワークが普及する中で、組織力強化、生産性向上を支える核としてコミュニケーションのDX(デジタルトランスフォーメーション)への期待が高まっている。メッセージプラットフォームを提供するセールスフォース・ジャパン(Slack)が主催したウェビナー「Executive Deep Dive」では、行政のDXをリードする経済産業省情報プロジェクト室長の吉田泰己氏、働き方改革のコンサルティングをしてきたワーク・ライフバランス代表取締役社長の小室淑恵氏、積極的なDXの取り組みで注目されているコープさっぽろCIO(最高情報責任者)の長谷川秀樹氏の3氏が登壇。社会学者の古市憲寿氏がモデレーターを務め、座談会形式でDX、組織改革について実践例や知見を語り合った。
主催 セールスフォース・ジャパン(Slack)

第1章:人財の確保
採用枠2人に応募者約600人
経産省のデジタル人材確保のポイント

モデレーター
社会学者
古市 憲寿 氏

最初のテーマは人材確保。不足するIT人材の確保・定着には効率的なコミュニケーションがカギだが、「省庁は今も非効率なメールで膨大なやり取りをしている」と古市憲寿氏は指摘。国のDXの取り組みを聞いた。

経済産業省の吉田泰己氏は、DXに関する行政のリテラシーを補うため、民間IT人材を採用する取り組みを説明した。2018年の採用では、募集枠2人に対して約600人の応募があり、「優秀なIT人材を確保できる理由」として、①行政のデジタル化というミッションを明確にして、行政に不便さを感じている人の“共感”を呼んだ、②コミュニケーション、タスク管理ツールなどを導入し、IT人材が働きやすいリモートワーク環境を整備、③キャリアプランへの貢献を明らかにするため、業務内容やスキルをジョブディスクリプションで明示――の3点を挙げた。

経済産業省
情報プロジェクト室長
兼 デジタル庁企画官
吉田 泰己 氏

また、情報プロジェクト室全体が、リモートワーク中心の働き方に移行したことで「子どもがいる女性にとって働きやすくなり、女性がリードするプロジェクトも増えている」と手応えを語った。

ワーク・ライフバランスの小室淑恵氏は「霞が関に人材が集まらないと、国の危機になる。すべての省庁において横展開を強く希望する」とコメント。「子どもを保育園に迎えに行くために午後4時半に退社していた人が、在宅で午後6時まで働けるようになれば、年換算では3カ月分の労働時間のプラス。ほかの社員の残業や、派遣社員で補う必要がなくなる」と意義を強調した。

複数企業でCIOを務める生活協同組合コープさっぽろの長谷川秀樹氏は「業務委託をしている社外の人が意思決定に参画することへの社内の抵抗を乗り越える必要があるが、正規雇用、フルタイムでなくても、能力次第で適正なポジションに就ける会社が増えてほしい」と、働き方の多様化を求めた。

第2章:組織力強化
昭和な上司の本音がリモートワークを阻害
未来の労働力も大切にできる働き方を

2番目のテーマは組織力強化。古市氏は「DXは、デジタル化に組織変革が加わって初めて機能する」と述べた。これを受け、小室氏は、働き方のデジタル化、リモート化が進まない理由を解説した。

ワーク・ライフバランス
代表取締役社長
小室 淑恵 氏

管理職が挙げるリモートワークの課題は、①マネジメント、育成がしづらい、②評価がしづらい、③コミュニケーションが希薄になる――の3点だ。ところが、小室氏は、①口頭での指示、指導を文章にしたくない、②遅くまで大変そうな様子を評価の参考にできなくなる、③帰りに飲みながら部下と話ができなくなる――が「上司の本音だ」と喝破する。

一方、若い部下は、①文章の指示のほうが明確で助かる、②遅くまで苦労しているように装いたくない、③話は業務時間中に聞いてほしい、と考えていると指摘。組織のDXのためには「昭和レジェンドの管理職の発想を変える必要がある」と語り、働く時間を自律的に決められる仕組み、オンラインで活発に議論できるスキルも重要とした。

働き方改革のコンサルティングに取り組んできた小室氏は3社の事例を紹介。魚の買い付けにオンライン会議システムを導入し、育児・介護中の人も買い付けができるようにして、コロナ禍でも過去最高益を出した回転寿司チェーン。社長が店舗スタッフのオンライン会議に参加し、トップダウン型から、フラットで心理的安全性の高い組織に転換を図り、社員の自発性を高めることで、残業時間65%削減を実現し、オンラインショップの売り上げを3倍にしたアパレル大手。研修のオンライン化などデジタルツールの徹底活用で生産性を高め、女性管理職数3倍、男性の育児休業取得率94%を達成した大手パンメーカー。そこから「日本は時間をかけただけ成果が上がると信じて長時間労働が日常化し少子化傾向が高まる要因になった。短時間で生産性高く働き、子どもと一緒に過ごし、現在と未来、どちらの労働力も大切にするサステイナブルな社会になるべき」と訴えた。

吉田氏は「メールに代わってチャットツール、オンライン会議を導入することで、コミュニケーション速度を上げられる。さらに上下関係もフラットにできれば、より生産性の高いワーキングカルチャーにつながる」と、デジタル化による役所の組織変革に期待。

長谷川氏は「チャットも、クローズドにすると『プロジェクトがうまくいかないのは、あの部のせいだ』といった悪口になりやすい。健全で前向きな議論のために、オープンにすることが大事」と指摘。また、オンライン会議では「上司が部下を黙らせるような発言はすべきではない」などの注意点に触れた。

第3章:DXの要諦
ホワイトカラーの仕事の大半を占める
コミュニケーションを高速化するDX

最後は、コミュニケーションツールを使った仕事の進め方について長谷川氏がコープさっぽろでのDX事例を紹介した。これまでCドライブ(PCのストレージ)上で行っていた仕事は、オンライン上でファイルを共有しながら進める形になった。これにより「ホワイトカラーの仕事で、最も多くの時間を費やす会議、資料作成などのコミュニケーションをデジタル化でき、生産性が飛躍的に高まる」と意義を訴えた。

生活協同組合コープさっぽろ
デジタル推進本部 CIO
長谷川 秀樹 氏

会議資料を作成する部下と上司が原稿をオンラインで共有すれば、上司は作成途中にチェックして修正を指示できる。これにより、出来上がった資料を「全然違う」と差し戻す無駄がなくなる。会議はオンライン上で共有された議案書に、出席者が質問やコメント、議事録を書き込みながら進める。質問のたびに説明を中断することなく進行でき、効率的だ。また、会議中にチャットで外部ともやり取りできる。「会議中のコミュニケーションが3相並列で進行できるので効率的だ」と説明した。

しょうゆの量を間違えて黒っぽくなった唐揚げの情報を、Slackで複数店舗で同時共有し、瞬時に総菜売り場から回収した同組織の「からあげ事件」を例に「ホワイトカラーだけでなく、エッセンシャルワーカーの仕事においてもコミュニケーションツールは有効」とした。

最後に古市氏は「人々の求めるスピードに組織を合わせるには、デジタルツールが有効だが、幸せに、心地よく働ける環境にするために組織のマインドセットを変えることも大事だ」とまとめた。