「患者と病院」つなぐ急成長AIベンチャーの正体 運命握る「受診までの患者の意思決定」を支援

「受診の手遅れで亡くなる患者を減らしたい」と考える医師と、「AI技術で医療課題を解決したい」と考えるエンジニアが創業した医療テックベンチャーUbie(以下、ユビー)は、次なる日本発ユニコーン企業とも目されている。同社は、分断されている患者と医療機関、製薬企業をつなぐ「オープンな医療データプラットフォーム」を構築することで世界中の人の健康を支えたいと、青写真を描く。医師で共同代表取締役の阿部吉倫氏に、ユビーがつくろうとする「未来の医療の世界」について聞いた。

「病院に行く時期」と「かかる診療科」が運命を分ける

――ユビーは、2017年に創業されました。医師をされていた阿部さんですが、なぜ起業することになったのでしょうか。

Ubie
共同代表取締役 (医師)
阿部 吉倫(あべ よしのり) 氏

阿部  病院で働いていたとき、「日本の医療体制は整っているはずなのに、なぜ若くして患者が亡くなってしまうのか」という疑問を抱いていました。それは、「手遅れ」だからなんです。

ある日、「背中が痛い」と訴える40代半ばの女性が救急外来にいらっしゃいました。2年前には血便もあったといいます。精密検査をすると大腸がんのステージ4にまで進行していることが判明。それは、5年後に生きている確率は約15%しかないということ。異変に気づいた2年前、ステージ1〜2時点で受診していれば生存率は約90%にもかかわらず、です。

この経験から、適切なタイミングで適切な医療にたどり着く大切さを痛感しました。「気になる症状があるが、病院に行くか」「どの診療科にかかるか」という患者の意思決定がとても重要です。例えば、心臓の病気なのに、「脇腹が痛いから」と整形外科に行くと治療が始まらない可能性が高い。

そこで、「テクノロジーで人々を適切な医療に案内する」ことを目指して起業しました。共同代表でエンジニアの久保(恒太)は、大学院で病気を予測するアルゴリズムを開発していました。「症状と病気」をひも付けるAIを作るため、私たちは5万本以上もの医学論文に目を通し、医療機関にAIを利用してもらうことで精度を高めてきました。

阿部吉倫氏(左)と共同代表取締役・エンジニア 久保恒太 氏(右)。2人は高校の同級生

――生活者向けに「ユビーAI受診相談」、医療機関向けには「ユビーAI問診」を提供しています。「ユビーAI受診相談」は2021年9月に月間利用者300万人を突破しました。

阿部 気になる症状があるときに、インターネットで検索することは今や普遍的なこと。しかし、ちまたにあふれる情報から信頼できる情報を探すことは難しいですよね。そこで、「ユビーAI受診相談」https://ubie.app/で症状に関する質問に答えることで、どういった病気と関連性があるかなどを把握できます。実際に利用した患者が受診し、緊急手術で一命を取り留めたケースもあると聞いています。

自分の症状を答えると、参考病名や近くの医療機関の情報など「受診の手がかり」がわかる。無料で誰でも利用できる

――医療機関向けの「ユビーAI問診」はどのようなサービスですか。

阿部  患者がタブレットで回答した事前問診の内容を、医療用語に翻訳表示し、診察をサポートするものです。症状の伝え漏れ防止や医師の聴取漏れ防止につながり、診察の質が上がります。

また、医師が非専門領域の最新の知見をキャッチアップするのは難しいのですが、「ユビーAI問診」は、医師監修の下、つねに新しいエビデンス情報を追加しているので、幅広い疾患の診察にも役立つでしょう。

医師の約40%は、過労死ラインといわれる月80時間を超える残業をしていますが※1、その主な原因は、診断書やカルテ記載などのコア業務ではない書類作業。そうした部分を「ユビーAI問診」が効率化します。
 

診察前、患者にはタブレットで症状に関する質問に答えてもらう(左)。それを医療用語に翻訳して医師に提供する(右)
※1 過労死ラインは厚生労働省基準、勤務医残業量は厚生労働省調査より

分断した医療データをつなぎ、適切な医療へ案内する

――医療分野でもテック系スタートアップが続々と誕生しています。その中でユビーが担う役割はどのようなものでしょうか。

阿部 ユビーはペイシェントジャーニー、つまり「発症・受診・診察・処方」というプロセス全体に価値を提供していきます。その中でも重視しているのは「医療への入り口」である受診のプロセスです。早期発見・早期治療に勝る治療はありません。問診エンジンの力で、適切な治療機会を最大化することにフォーカスしていきます。

「診察・処方」においては、製薬企業との連携も進めています。例えば、希少疾病は認知度の低さが問題ですが、関連する症状が回答された際に、医療機関や生活者に製薬企業の情報サイトへのリンクを表示させることで、早期発見へと導きます。

画像診断や遠隔診療、電子カルテなどは他社にお任せします。それらのサービスと連携してオープンな医療データプラットフォームを構築すれば、また新たな価値を生むことができます。

――具体的にはどのように価値があるのですか。

阿部 現在、患者の情報は病院間で分断されています。仮に旅先で倒れて意識不明になった場合、搬入先の病院で医師は患者の病歴やアレルギーなどの医学的背景を何も把握できないまま診療しなければなりません。

その結果、例えば「造影剤※2はアレルギーがあるかもしれないから使えない」と診療の手段が限定されてしまう。患者と病院間、病院同士が情報を共有するプラットフォームがあれば、医師が情報を得るための工数を最小にする一方で、患者の病歴に鑑みた最大の医療アウトカムを得ることができる。私たちが目指しているのはそうした世界です。

※2 造影剤:画像診断の際に画像にコントラストを付けたり、特定の臓器を強調するために患者に投与される医薬品のこと

世界78億人に健康を届けたい

――2020年にシンガポールに拠点を開設しました。なぜ、シンガポールだったのでしょうか。

阿部 もともとは向こう見ずに、インドに進出しようと思っていました。インドの平均寿命は70歳で、日本の84歳よりも14年ほど短く※3、サービスを提供することで解決できるペイン(痛み)が大きい。ただ、残念ながら日本のように医療体制が整った国と違い、患者を医療機関に案内しても、適切な医療が受けられるかどうかが不確かでした。

一方、ビジネスの機会を考えると、総医療費の対GDP比17%とOECD加盟国で1位※4の米国が魅力的です。ただ、私たちはスタートアップで、いきなり米国市場に投資するだけのリソースはありません。そこでまずは、素早く進出できて、医療体制も整っているシンガポールで展開することにしました。今ではサービスの利用者も増加し、非常に順調です。

22年内には米国への上陸を予定しています。そして、IPO(新規株式公開)で調達した資金でインド・アフリカの方々の寿命を延ばすことにチャレンジしていきたい。その先に見据えているのは、世界78億人が健康になる世界です。

※3 世界銀行「Life expectancy at birth, total (years)」いずれも2019年時点
※4 令和2年版厚生労働白書資料編 OECD加盟国の医療費の状況(2019年) より

最大の福利厚生は優秀な人材がいること

――前職がメガベンチャーやコンサル、検索プラットフォーム企業など、さまざまな分野で経験を積まれた人がユビーに集まっています。働く場としての魅力は?

阿部 まずは世界を変えるプロダクトを作る魅力です。世に検索サイトが登場したときは、生活者の行動が変わるパラダイムシフトが起きました。誰もが、まずは検索をして意思決定をするようになりました。私たちの問診エンジンも同様の可能性を秘めています。

「最大の福利厚生は優秀な同僚」と言って転職してきたメンバーもいます。ユビーはリファラル(社員の紹介)採用率が70%と高く、自分より優秀な人でなければ採用しないルールです。必然的に人材の質は高く、刺激を受けて自分を成長させる場としても魅力を感じてもらっています。

また、給与は市場の水準より高く設定し、社員全員にストックオプションも付与。優秀な方が安心して働くことができ、さらに将来には大きなリターンを得られる可能性があるといった待遇面の魅力も大きいでしょう。

――スタートアップは刺激がある一方で、仕事に追われる印象があります。

阿部 ユビーは、仕事と子育てを両立しているメンバーが多くいます。働く時間も場所も自由。お昼に子どもの学校の用事で抜けてもいい。1日の労働時間も自由。地方に住み、フルリモートで働いているメンバーもいます。唯一の制約はアウトプットを出すことです。

――事業拡大に合わせ、採用に力を入れているそうですね。どのような人と働きたいですか。

阿部 私たちが挑戦しているマーケットは未知の領域です。そこに非連続なサービスを提供することにワクワクできる人なら大歓迎です。社内には、医療のバックグラウンドがなかったメンバーも少なくありません。自身のスペシャリティを武器にして未知の領域に風穴を開けてやろうという意欲のある方と、ぜひ一緒に働きたいですね。

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