リコー・ドコモ・北海道庁の先進事例に学ぶ 「攻め」と「守り」の最新デジタル戦略を読み解く
「DX」をいかに理解し推進したか??リコーの事例
2021年4月1日にカンパニー制を導入して経営基盤を強化し、7月には全く新しいサービス「仕事のAI:RICOH品質分析サービス Standard for 食品業」の提供を開始するなど、まさに変革を推し進めているリコー。登場したのは、その変革をITの立場から支援する小林一則氏だ。
「リコーが創業100周年を迎える2036年にありたい姿として、『"はたらく"に歓びを』というビジョンを掲げました。これを実現するための提供価値として『EMPOWERING DIGITAL WORKPLACES 人々の"はたらく"をよりスマートに』というメッセージのもと、事業活動を行っています」(小林氏)
2019年ごろは「DXとは何か」の理解に社内が混乱していたが、小林氏はそういった議論に時間を使うのは無駄であると考え、EMPOWERING DIGITAL WORKPLACES(以下、EDW)がリコーのDXそのものではないかと社長に提案し、現在取り組みを推進している。人と人、そしてオフィスや現場をデジタルでつなぐことで、人々の"はたらく"を変革し、持続可能な社会の実現に貢献しようというものだ。
「ただし、DXは自分たちも実践しないとハッピーになれません。それでなければお客様に価値を届けることはできないでしょう。そこで、EDWの顧客提供と社内実践の2つに注力しました」と小林氏。
デジタル戦略としては「企業風土・人材」「デジタル基盤」「データ利活用」「社内プロセス変革」「顧客価値創造」を設定している。「既存事業を深掘りしていく部分と、新しい事業をつくっていく部分を両方見ながら、高度にバランスを取ってマネジメントしていくことが求められています。難しい反面、楽しくもあります」と小林氏は言う。
DXをわかりやすく進めていくために、小林氏は4段階のステップを定めた。さらに将来的な目標として「Vision 2030」を設定した。今後はこれに向けてビジネスプロセス、基幹システム、データガバナンス、インフラセキュリティーを充実させていく。
VMwareに対しては、社内システムのクラウド化の一部分について「VMware Cloud on AWS」を活用している。小林氏は「私たちの企業変革やユーザーエクスペリエンスの変革を支える、ジャーニーを共に歩くストラテジックパートナーとして、これからもぜひご一緒させていただきたいと思います」と述べた。
5GとMECが開く新しい未来の姿 NTTドコモ
NTTドコモは、2020年3月25日に5G(第5世代移動通信システム)の商用サービスを開始している。契約者は6月時点で500万件を超え増加中、5Gには新しい基地局が必要であるが、すでに1万2000局を超え、年度末には人口カバー率で55%に達する計画だ。大企業向けでは、5Gオープンパートナーの取り組みが3年を経過するが、パートナーの数は4000社を超え、協創案件も300を超えている。
また5Gではユーザー端末の近くにサーバー(エッジ)を分散配置するMEC(マルチアクセス・エッジ・コンピューティング)のソリューションが注目されているが、この事例も100件となっており、順調に展開している。地方創生に取り組んでいることも特徴だ。
「地方創生では雇用や産業を生み出す必要があるため、出会いの拠点として『ドコモ 5G DX スクエア』を展開しています。年度末には50拠点を開設する予定で、都道府県ごとに1つは展開することが目標です。大企業向けのドコモショップという観点で、交流の場を広げていきたいと考えています」(坪谷氏)
MECについては、高精細映像の伝送が5G普及の前半を牽引すると坪谷氏はみている。これまで無線で4K、8Kレベルの伝送はほとんどなかった。また、XR(クロスリアリティー)やAR(拡張現実)といった、映像にリアルタイムに情報を表示する技術も進んでいる。「すでに遠隔医療や医療関係者間での情報共有といった医療業界での活用や、スマートグラスによる作業の効率化、現場の進捗管理といった建設業界で活用されています。MECの閉域性により、高いセキュリティーに守られることも特長です」(坪谷氏)。
今後については、「ドコモだけでなくNTTグループ全体で、MECの活用機会を生かしていきたい。そしてハイパースケーラーのようにグローバルに展開していく、これにしっかりと取り組み、高速・低遅延のワールドをつくっていきたいと考えています」と坪谷氏は言う。また、VMwareに対しては両社の培った技術がMECで最大に生かされるとして、VMwareとの協創によるポテンシャルの高さに期待しているとした。
デジタルの力で課題を強みに変える 北海道
北海道は日本の国土の22%という大変広い面積を持ち、広域分散と積雪寒冷といった地理的な特徴がある。「北海道では、人口減少とそれに伴う過疎化、そして少子高齢化が全国よりも早く進んでいます。また北海道は農林水産業に大きな強みがありますが、それらの産業の担い手も減少しています。さらに、医療、教育、交通、物流などの維持にもさまざまな課題があります」と話すのは、北海道知事の鈴木直道氏。
一方で、北海道は広大で豊かな自然に恵まれており、世界に通用する優れた食や観光資源、国を支える農林水産業がある。また再生可能エネルギーでポテンシャルを持つという強みもある。「このポテンシャルをデジタルと掛け合わせることで、課題を新たな強みに転換して、活力ある北海道の未来社会を実現したい」と鈴木氏は力を込める。
北海道ではすでに、多くの実証実験が行われている。例えば、スマート農業の取り組みは広く知られている。また、無人トラクター、ドローンを活用した肥料や農薬の散布、さらには人工衛星のデータなどを活用した作業の最適化といった実証実験が行われている。
北海道庁自身も、道民へのサービスの向上、そして業務の効率化を目的に、「Smart道庁」に取り組んでいる。「ここでもデジタル技術を活用して、行政手続きのオンライン化、業務の自動化、さらには全職員がテレワーク可能な環境の実現に取り組んでいます。その際のセキュリティー対策においては、VMwareに多大な協力をいただきました」(鈴木氏)。
今後はデジタル化の推進に加え、グリーンへの取り組みをよりいっそう進めていく考えだ。「北海道は再生可能エネルギーのポテンシャルが高く、例えば積雪寒冷の気候を利用したデータセンターの誘致を行っており、すでに建設の計画が進んでいます。このような北海道の強みをもっと生かしていきたい。デジタル人材の育成や、地域のデジタル化を推進するため、引き続きVMwareにも協力していただきたいと思います」と鈴木氏はまとめた。