ダイキン「アフリカでサブスク開始」真の狙いは 「快適性と環境負荷低減は、両立できる」の根拠
エアコンのサブスクで「環境負荷の低減にも貢献する」
国際エネルギー機関(IEA)によると、冷房に起因する世界の電力需要は、2015年から50年までの35年間で約3倍に増加する見込みだという。しかし、開発途上国ではどうしても安さが重視されることから、現地で普及しているエアコンは、インバーター機能が搭載されておらず省エネ性能が低い「ノンインバーターエアコン」がほとんどだ。このまま予測どおりに需要が拡大していけば、地球環境へ大きな影響を与えることが懸念される。
こうした中でダイキンは人々がより快適に生活できる環境を低コストで提供すべく、アフリカ・タンザニアを舞台に、エアコンのサブスク事業に進出。ユーザーの利用コストを大幅に抑えつつ、ダイキンの高性能なエアコンを普及させることで、人々の生活の質向上や電気代の節約はもちろんのこと、環境負荷の低減にも貢献する狙いだ。
同事業を行うBaridi BaridiのCEO、朝田浩暉氏はこう話す。
「日本の方がタンザニアに来られたら、きっと驚くと思います。それはエアコンの普及率がまだ1%と決して高くないのに、せっかく設置されたエアコンの70%ほどが使われていないからです。タンザニアは人口5500万人ほど。とくに中心都市・ダルエスサラームのある沿岸部は1年を通して気温と湿度が高く、気温が30度近くになる日もありエアコンが必要な環境です。
しかし、エアコンはまだまだ高価な商品なので多くの人にとっては購入すること自体が難しく、購入できる人であっても安いエアコンしか買えないのが現実。そのためタンザニアで普及しているエアコンは、日本では販売できないような、省エネ性能が低く電気代がかかるエアコンばかりです。しかも故障したエアコンを修理できる技術力を持ったスタッフが現地に少ないため、壊れて路上にほったらかしにされる『ゾンビエアコン』になってしまっているんです」
エアコンを買わず利用料だけでOK、のサブスクモデル
これまでは、ある程度の所得がないとエアコンの購入層にはなりえなかったが、一般的にユーザーの負担となる最初のエアコン購入費が必要ないサブスクモデルなら、エアコンを使うことのハードルがぐっと下がる。「購入する場合に比べ、費用は10分の1ほどに抑えられます」(朝田氏)。低所得層も日常的にエアコンを使い、より快適な環境で生活することができるようになる。
「サブスクですから、エアコンの本体代金はかかりません。初期費用として必要なのは、取り付け工事代と保証料のみ。しかも、省エネ性能が高いダイキンのエアコンなら電気代を約半分ほどに下げられ、故障した際の修理にもスピーディーかつ確実に対応できます」
客がエアコンを使うときは、スマホアプリを通して使用料を前払いする。料金プランは1日、1週間、30日の3種類から選択でき、1日の場合の料金は150円ほどだという。
小規模店舗では、エアコンの有無が売り上げに直結
タンザニアにおけるエアコンのサブスクは、着実に普及してきている。ダイキンは2020年6月、東京大学関連ベンチャーのWASSHA(ワッシャ)と合弁で「Baridi Baridi(バリディバリディ)」を設立。CEOには、ダイキン工業グローバル戦略本部 営業企画部から朝田氏が就き、すでに現地の飲食店やドラッグストアなどを中心に導入実績を伸ばしている。
「今後、24年までに5万台の導入を目指したいと考えています。なお、『Baridi』は『冷える』という意味。『Baridi Baridi』で『冷え冷え』となります」(朝田氏)
タンザニアの店舗では、店内に空調が効いていることが集客に直接つながる。エアコンのサブスクは、店舗の売り上げにも貢献するというメリットも含めて高く評価されている。
実際にタンザニアで「Baridi Baridi」のサービスを利用しているドラッグストアの店主、ジョナサン・ルリンガさんはこう話す。
「『Baridi Baridi』には、エアコンに詳しい専門家がいるから安心できる。初期費用も抑えられたし、設置費用は十分手を出せる金額だった。タンザニアの人々は、もっと利用したらいいよ」
さらに、環境インパクトの大きい「冷媒」を確実に回収可能
開発途上国の人々が、エアコンを日常的に使えるような環境を整える。それ自体で大きな価値を持つこの事業だが、もう1つ大きな意義がある。環境負荷低減への貢献だ。
エアコンのサブスク事業では、ダイキンの高性能なインバーターエアコンを使っている。インバーターエアコンは、現在タンザニアで使われているエアコンの95%を占めるノンインバーターエアコンに比べて、消費電力を約60%削減できる(ダイキン調べ)。タンザニアにダイキンのインバーターエアコンを導入すれば、消費電力が抑えられ、電気代の削減につながるというわけだ。
加えて、エアコンに使われている「冷媒」を確実に回収できることによる、環境負荷低減への貢献も大きなポイントだ。
「エアコン内部に含まれる冷媒は、CO2と比べて600~2000倍もの温室効果があるとされています。日本では冷媒の回収や再利用も行われていますが、タンザニアのような開発途上国では、冷媒の回収率はほとんど0%。基本的に大気に放出されてしまっているんです」
本事業では、使用後のエアコンはBaridi Baridiが回収する仕組み。確実に冷媒を回収できるため、使用後のエアコンから冷媒が大気に放出される懸念がなくなるというわけだ。
サブスクモデルで「ビジネスと社会貢献」の両立へ
ダイキンは、このサブスクモデルをグローバルに拡大することを検討している。
「例えば2100年、どういう世界になっているだろうと考えると、僕自身はたぶんもう生きていない。でも、僕の子どもは生きています。やはり子どもたちのために、できる限りいい地球環境を残したいですよね。現地の人々の暮らしに貢献することは当然として、環境負荷低減もダイキンの使命。すべての事業は、ビジネスと社会の価値の両方に貢献できる仕組みで行う必要があります。当社のようなグローバルメーカーが環境を整備することで、開発途上国の人々も快適な空気を手に入れられます。そして冷媒回収にもつなげられ、冷媒の大気への排出をゼロにできる。これこそ当社が果たすべき仕事だと思って、やりがいを持って取り組んでいます」 と、朝田氏は胸を張る。
若き30代のCEOがタンザニアを舞台に牽引する、エアコンのサブスク事業。世界中のすべての場所を、快適かつ地球環境にやさしい空気で満たすその日まで、ダイキンの挑戦は続く。