ジュエリー会社の「式場予約サイト」急成長の理由 「広告費ゼロ」を実現した独自のビジネスモデル

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コロナショックにより大きな打撃を受けたブライダル業界。2020年の婚姻件数は前年比で7万3500組減少し、その影響を受けてか、業界大手企業の上場廃止や事業縮小、中小結婚式場の事業撤退も目立つようになった。以前から少子高齢化や晩婚化によって市場が縮小傾向にあり、事業者は生き残りを懸けて集客に力を注ぐ中、その集客を支援するブライダルメディアとして近年、結婚式場掲載数を伸ばすなど大きく躍進しているサイトがある。それが『結婚スタイルマガジン』だ。

※出所:厚生労働省「令和2年(2020)人口動態統計(確定数)」

ジュエリーブランドが運営するブライダルメディア

『結婚スタイルマガジン』は、結婚準備に関する情報や式場を紹介するWebメディアだ。2014年のローンチで、大手メディアに比べると後発になるが、21年2月に日本マーケティングリサーチ機構が実施した結婚式場予約サイトの掲載式場数比較調査で、1位を獲得した(2,000件超を掲載)。

ブライダルメディア『結婚スタイルマガジン』

運営するのは、1979年創業、国内16店舗を展開する「俄(NIWAKA)」という京都のジュエリーブランドだ。一般的にブライダルメディアの運営元企業は、メディア事業やITサービスを本業にしているケースがほとんどであることを考えると、珍しいパターンといえる。同社自身、婚約・結婚指輪も手がけており、他のブライダルメディアに広告を出稿する“クライアント”でもある。

そんな俄が運営する『結婚スタイルマガジン』が、ブライダルメディアの中で大きく躍進しているのはなぜなのか。その理由は大きく3つ、「ブライダル業界が抱える問題」と「『結婚スタイルマガジン』の戦略力」、そして「コロナショック」にある。

独自のビジネスモデルで「無料掲載」を実現

「ブライダル業界が抱える問題」とは、結婚式場情報の掲載にかかる高額な広告費負担のことだ。結婚式場にとって、集客のためにはブライダルメディアに情報を掲載することが欠かせない一方、その広告費の捻出に苦労する事業者も少なくなかった。

俄(NIWAKA)
メディア開発課
宮本亮太朗

「結婚式において、カップル1組あたりの売り上げは平均360万円といわれていますが、そのうちブライダルメディアに支払う広告費は10%以上に上ることもあります。1組あたり30万円~40万円を広告費に充てる計算です」。そう説明するのは、『結婚スタイルマガジン』PR担当の宮本亮太朗氏だ。

結婚式場が手にできる利益を考えると広告費は割高になるが、出稿を取りやめれば集客が途絶える。このジレンマを解消するべく俄が立ち上げたのが、『結婚スタイルマガジン』だった。ビジネスモデルの特徴について、宮本氏は次のように説明する。

「『結婚スタイルマガジン』は、当社の本業であるジュエリーブランドのコンテンツマーケティングの一環として位置づけています。サイトのコンテンツ内に、NIWAKAジュエリーの広告を表示し、結婚が近いカップルにNIWAKAを認知してもらえる機会を作っています。

NIWAKAジュエリーの売り上げでサイト運営費を賄っているため、結婚式場から広告費や紹介料などは頂いておりません。婚姻件数の減少に伴う売り上げの減少が進む中、広告費に割く予算を抑えたいという思いは、ほとんどの式場に共通していたことではないでしょうか。そうした課題があるのならば、当社が無料で掲載できる媒体を立ち上げようと考えました」

『結婚スタイルマガジン』の運営モデル。結婚式場は広告費を支払う必要がない代わりに、カップルへ「ご祝儀」として、最大20万円分の割引などを提供する

無料で掲載し、集客できるというのは、事業者にとって何よりもメリットになる。ここに『結婚スタイルマガジン』躍進の2つ目の理由である「戦略力」が見て取れる。

折しも『結婚スタイルマガジン』をローンチした2014年は、Webメディアが勢いを増していた時期。俄はコンテンツマーケティングが主流になる前から、ネット戦略に目をつけ、Webメディアの質に磨きをかけていった。

「立ち上げ当初は、まず検索で優位に立つために、サイト内に質の高い情報をそろえることに注力しました。例えば、結婚に関する疑問を解消する記事コンテンツ『結婚ラジオ』は、プロポーズや結婚式の準備、新婚旅行まで基礎知識を網羅しています。現在までに約1,900本もの記事を配信しており、多くの読者から支持されています」(宮本氏)

他社に先駆けてコンテンツマーケティングを展開し、地道に検証と改善を繰り返した結果、ブライダルメディアとしての地位を確立。月間300万を超えるアクセス数を稼ぎ出せるまでに成長した。

とはいえローンチから約5年経っても、大手のサイトパワーに追いつくことはできなかった。だが、コロナ禍で風向きが大きく変わる。ブライダル業界全体がコロナショックで大打撃を受ける中、広告費見直しの動きが加速。無料掲載ができ、かつ安定した集客基盤を持つ『結婚スタイルマガジン』が評価され、式場の掲載数が一気に増加した。

「無料掲載だからといって、集客力がなければ掲載する意味がありません。その点については、カップルの方からの口コミを分析し、式場に関して知りたい情報を厳選してコンテンツを充実させたり、ジュエリーブランドならではのデザイン力を反映させてサイトを作り込んだりと工夫しました。読者にとって知りたい情報が手に入り、かつわかりやすいサイトとして評価を得ています」(宮本氏)

集客の領域を超え、システム開発でDX支援も

『結婚スタイルマガジン』の強みは、集客への導線も綿密に構築されているところにある。これまでの地道なコンテンツマーケティングの成果が実を結び、コロナショックで落ち込む結婚式場の期待を一身に背負うことになったというわけだ。

また、『結婚スタイルマガジン』では、結婚式場に対し、無料掲載できることで浮いた広告費をカップルに還元することを推奨している。現在、全国約1,450式場が「ご祝儀」を提供中だ。

カップルは『結婚スタイルマガジン』経由で式場を予約した場合、「ご祝儀」として結婚式費用から最大20万円分の割引や料理・飲み物料金を最大20%オフする割引特典を利用できる。これにより、さらなるサイト訪問者の流入が促進され、サイトパワーを増強、ひいては式場の集客力につながるという好循環を生み出している。

さらに、俄の取り組みは結婚式場とカップルのマッチングだけにとどまらない。近年増加している“ナシ婚”、つまり挙式をしない層にもアプローチするため、2021年9月からはフォトスタジオの紹介も開始した。

「挙式はしなくても結婚の記念は残したい」というフォトウェディング希望者のニーズに応える。もちろんフォトスタジオの広告掲載費は無料で、浮いた広告費は「ご祝儀」としてカップルに還元する仕組みになっている。

また、結婚式場が抱える業務負担にも目を向け、クラウド型の労働生産性改善システム「コレモネ」を開発した。

式場の多くは集客の一環としてブライダルフェアを開催しているが、複数の媒体に日程や情報を入力するとなると、かなりの手間が発生する。「コレモネ」を導入すると、1度の入力で複数媒体に情報を一括で反映させることができ、担当者の作業を削減できる。現在までに数百を超える式場に導入されているという。

ジュエリーに軸足を置きながらも、その枠を超えて、新たな事業開発に取り組む俄。宮本氏は「結婚式の多様化はますます加速すると予想されます。今後も式場やフォトスタジオ、カップル、すべてのステークホルダーに貢献できるコンテンツやサービスを手がけていきたいです」と語る。

ユニークなビジネスモデルとアイデアで、式場とカップルに寄り添ってきた『結婚スタイルマガジン』。今後もメディアを起点に、ブライダル業界へインパクトを与え続けるはずだ。

>『結婚スタイルマガジン』サイトはこちら

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株式会社 俄(NIWAKA)