EVが軸の「地域脱炭素」、多治見市で本気の挑戦 地元企業主導で収益化可能な「社会実装」実現へ
ソーラーガレージを軸に再エネの地域循環へ
美濃焼など陶磁器の生産地として有名な岐阜県多治見市で、2021年12月からソーラーガレージを活用した新たなマルチモビリティサービスがスタートした。
多治見駅前に設置されたソーラーガレージから、電動アシスト自転車と小型EV(トヨタ自動車の「C+pod」)を利用できるシェアリングサービスだ。今年10月に市内14カ所90ラック分のシェアサイクルを設置したのを皮切りに、11月には多治見駅前にシェアサイクル10台、シェアEV2台を配備してプレサービスを開始。12月からは同駅北口・南口の2カ所に計4台のシェアEVをそろえ、本格的に運用を始めた。今後も順次拡大していく予定だ。
シェアEVは専用アプリをダウンロード後、簡単な登録手続きを経てすぐに利用することができる。駅前の設置であるため、地元住民を中心に子どもや高齢者の送迎やショッピングなど短時間の使用目的にも手軽に利用できるというメリットがある。
ソーラーガレージには、多治見市の電気工事会社・エネファントが提供する次世代型充電インフラ「E-Cube」を採用した。需給一体管理をしながら最適な形で基礎充電を実施し、電動モビリティとインフラを簡易に実装することができる。設置は建築確認申請を必要とせず運んで置くだけで済み、配線などの工事も不要。その場でエネルギーをつくることができるため、自然災害時などでも電力拠点としてスマートフォンの充電やWi-Fi通信にも力を発揮することができる。エネファント代表取締役の磯﨑顕三氏は次のように語る。
「私たちはエネルギーの『創る』『配る』『蓄える』を地域内で最短でつなぎ合わせ、脱炭素化に向けた再生可能エネルギーの最大化、および地域循環共生圏の構築を目指しています。今回の多治見市での取り組みは、そこに向けた大きな一歩になると考えています」
「コンバージョンEV」で地域脱炭素化を目指す
そして、今回の脱炭素プロジェクトで最も特徴的なのは、ソーラーガレージの取り組みと併せて、ガソリン車をEV車に転換する「コンバージョンEV」の取り組みも始めたことだ。多治見市の自動車整備会社である米田モータースが改造、名古屋市のEVベンチャー企業のAZAPA(アザパ)がシステム開発などを担当し、ガソリン車をEV車に転換していくことで、将来的にEVの導入コストを下げ、地域の脱炭素化を加速させる狙いがある。
つまり、この多治見市におけるプロジェクトでは、ソーラーガレージとコンバージョンEVを組み合わせて、脱炭素化と地域循環を進めていくことを目指しているのだ。AZAPA代表取締役社長の近藤康弘氏はこう意気込みを語る。
「EVの普及において、バッテリーなど主要な電動ユニットのコスト低減は大きな課題となっています。こうした中で、私たちは自動車産業におけるインテグレーションメーカーとして、コンバージョンEVを進めていくことで一般家庭へのEV普及につなげていきたいと考えています。将来的には地域の再エネ導入と並行して、新たなビジネスを獲得していくことで地域の経済価値を高めていきたいと思っています」
地元企業の主導で社会実装を見据える
今回の多治見市における取り組みは、利益を生まない実証実験ではなく、将来的にビジネスへとつなげていく実装、しかも地元の担い手を中核とした民間主導で行っていることがユニークな点だ。プロジェクトとしては、地元の電気工事会社であるエネファントが全体をコーディネート。パナソニックが住宅設備機器やエネルギー端末を供給し、ソフトバンクグループのSBテクノロジーがシェアリングシステムなどを提供。パナソニックが出資するAZAPAがコンバージョンEVの主要部分の設計やEV化に向けた教育を担っている。
パナソニックでは今回のソーラーガレージの基となる汎用性の高いソーラーカーポートを開発・提供している。パナソニック エレクトリックワークス社スマートエネルギー営業部主任技師の西川弘記氏は、「当社が開発したソーラーガレージをキーデバイスに活用していただくことで、環境にやさしく賢い電気の利用と、カーボンフリーで自由に移動する喜びを同時に実現させていきたい。こうした動きを基に、地域循環の流れをつくっていきたいと考えています」と説明する。
SBテクノロジーは今回の取り組みの中で、シェアリングサービスとともにCO2の削減量を見える化するシステムも提供している。同社の児玉崇執行役員は「多治見市の取り組みでは移動需要の創出を目指し、アプリで便利・簡単・楽に使っていただける、スマホをキーにしたシェアリングサービスを展開します。また、走行情報やバッテリーデータを取り込み、CO2削減量をリアルタイムで見える化していくことで、脱炭素化と地域循環の実現をサポートしていきたいと思っています」と話す。
地域脱炭素化の“モデルケース”となるか
政府は今、脱炭素社会の実現に向けて「2050年カーボンニュートラル」の目標を掲げ、ゼロカーボンシティを目指す地域を後押ししている。とりわけ地域の脱炭素化は地方創生にもつながることが見込まれており、多くの地域では50年を待たずに脱炭素化を達成すると同時に、強靭で活力あるライフスタイルを持った地域社会の実現を目指している。
現在、各地域の行政・金融機関、または中核企業などが主体的に参画した体制を構築し、脱炭素化と地域課題を同時に解決する事業や施策を実行に移している。中でも今回の多治見市での取り組みは、政府が進める太陽光などの再生可能エネルギーの活用によるゼロカーボンライフ・ワークスタイル先行導入モデル、そして、バッテリー交換式EVとバッテリーステーション活用による地域貢献型脱炭素物流等構築事業に当てはまるものとなっている。
今後、多治見市のプロジェクトでは、自治体などと協力して、公用車として利用されているEVを休日など業務で使わない日に市民とシェアリングしたり、EVの取り組みを観光資源として観光客を誘致して自治体の収益に貢献したりすることを目指している。また、通勤・通学向けとして地域の移動需要に対応するほか、電力需要が高まる夏季の日中にEVを使ったワーケーションができることを発信することで企業の誘致を促進。さらに、公園などでEVによる移動とEV電源を利用して働く“EVコト体験”を創出することで、脱炭素化と地域循環への動きを加速させていく方針だ。
パナソニック エレクトリックワークス社の西川氏は「今回のプロジェクトを通して、国内の各地域で脱炭素化と地域循環の動きをさらに進めていきたい。そのためにも私たちは地域のビジネスの担い手の皆様と連携し、最新のテクノロジーを提供していくことで、地域の発展に貢献していきたいと考えています」と力を込める。今回の多治見市での取り組みについては「自治体からの問い合わせも数多くいただいている」(同氏)と言い、地域の脱炭素化の先行事例として注目を集めそうだ。