気鋭のインシュアテック企業が保険業界を革新 社員たちが語るアドバンスクリエイトの挑戦
好業績が物語るインシュアテックの躍進
保険業界では近年、インシュアテックへの注目が高まっている。世界では巨額の資金調達によって急成長するインシュアテック企業が増加しているが、日本においてはまだ大きな市場を獲得しているとはいえない。そうした中、国内屈指のインシュアテック企業としてひときわ存在感を放っているのが、アドバンスクリエイト〈東一・8798〉だ。
同社は、「人とテクノロジーを深化させ進化する会社」を標榜し、保険選びサイト「保険市場」を運営するとともにシステムやアプリケーションを自社開発。保険に関するあらゆる情報・サービスの提供を主業としている。専業保険代理店で唯一の東証1部上場企業で、「プライム市場」の上場基準をすべて満たしており、2022年4月には専業保険代理店で唯一のプライム市場上場企業となる見込みだ。足元の業績も好調で、21年9月期通期は経常利益19.2億円と、今年6月に上方修正した業績予想をさらに上回り、売り上げ・利益ともに過去最高を更新した。
また、中期的な目標として、ROE20%以上、売上高経常利益率20%以上、配当性向50%以上、自己資本比率80%以上を掲げている。とくにROEについては前期、過去最高の21.0%に達し、12期連続で10%を超えた。
次期以降、主軸の生命保険代理店業の収益向上に取り組むことに加えて、ストックビジネスの振興を図ることで、飛躍的な成長をもくろむ。
高収益を実現するシステムの自社開発
「インシュアテックのマネタイズでは、大きな成功を収めています」と自信を見せるのは、専務取締役の櫛引健氏だ。同社の圧倒的なアドバンテージは、保険選びサイト「保険市場」をゲートウェイとして、保険に関心の高い顕在顧客を集められるところにある。見込み客の発掘から始まる従来の保険販売スタイルとは、この時点で大きな違いがある。加えて、顧客管理システムをはじめとした自社開発のさまざまなシステムによって、顧客サービス向上と業務効率化を実現することにも大きな役割を果たしている。これにより全社で顧客情報を共有し、スピード感を持って顧客ニーズに合った保険商品を提案することで、契約率を高めている。
足元の高収益の一因も、オンライン面談システム「Dynamic OMO」や保険証券管理アプリ「folder」の活用により、生産性を飛躍的に高めたことにあるという。「『保険市場』や『folder』を介してお客様の情報をご登録いただけば、AIによる自動分析も活用して既契約の保障内容をスピーディーに分析でき、お客様にお申し込みいただくまでの平均面談時間や回数の減少につながります。またオンライン面談によって商談時間や訪問にかかる移動時間も短縮でき、場合によっては1日7件以上の商談も可能になりました。当社計算で、1時間当たりの生産性は平均10%以上も向上しました」と、総合企画本部長の岩井暁氏は語る。
同社のもう1つの強みは、社内に約110名のエンジニアを擁し、自社で使用するシステムを自ら開発しているところにある。しかもその開発体制は、まさにアジャイル開発そのものだ。代表取締役の濱田佳治氏自ら毎朝、IT開発部門で直接開発に携わるエンジニアたちとミーティングを実施。新しい開発のアイデアや既存システムの改善案を直接、開発部門に伝える。「いわば顧客からのオーダーはもちろん、開発の意義も直接聞けるわけですから、納得感を持って、かつ圧倒的なスピードで開発できます。さらに開発したシステムはすぐに使用され、改善点や要望が開発部門にフィードバックされます」と、IT統括本部長の横山欣二氏は説明する。
オンライン面談システム「Dynamic OMO」も、わずか半年で開発し、20年10月から運用を開始。その後も使用する営業担当者からの要望を日々聴き取り、ブラッシュアップし続けている。「最近、営業担当者の要望に応え、新たに美顔モード機能が追加されました」と明かした横山氏。こうした細かいニーズに応えられるのも、経営トップと開発部門、そして営業現場が密にコミュニケーションを取る開発環境だからこそといえる。
さらに同社は、これら自社開発したシステムを他の保険代理店に販売することでも収益を上げている。とりわけ今、保険業界でも大きな潮流になりつつあるのが、オンライン面談だ。「21年3月からオンライン面談システムの販売を開始しました。半年間で30社以上にご採用いただき、引き合いも増え続けています。驚いたのは保険代理店だけでなく、他業種の企業からも引き合いをいただいていること。当初想定していたよりもマーケットは大きく広がっています」と櫛引氏は手応えを語る。
業界の価値向上を牽引
「保険販売ビジネスは、訪問販売の数で売り上げを伸ばす労働集約型のモデルが主流です。しかし当社は1997年からポスティングによる通信販売を実施。代表の濱田が目指した『お客様に買いに来ていただく』ビジネススタイルは、インシュアテックという言葉もなかった当時からまったく変わっていません」と櫛引氏。濱田氏が徹底したのは、「顧客を第一」に考えることだった。「お客様にとってより便利に、より機能的に保険を提案するにはどうしたらいいかを考え、テクノロジーを活用してきたにすぎない」と言う。
業界の常識にとらわれず、独自の方法で道を切り開いてきた背景には、「業界のイメージを一新し、誰もが認める産業として保険代理店業の地位を高めたい」という濱田氏の強い思いがあった。2016年、東証1部に上場を果たしたのには、社会的な信用度を高める狙いもあったという。「当社だけが成長しても業界を変えることは難しい。自社開発のシステムを他の保険代理店に提供するのは、業界全体の底上げに寄与したいという理由もあります」と櫛引氏は濱田氏の思いを代弁する。
経営基盤を強固にして企業価値を高め、業界全体の信頼性向上を牽引するために、ガバナンスの強化も重視する。「6人の取締役のうち、保険業界、金融業界などを経験した3人の社外取締役、および3人の社外監査役を配置し、リスク管理を徹底しています。21年12月の株主総会においてさらに社内取締役1名、社外取締役1名、社内監査役1名を増員予定です。また内部監査室とコンプライアンス部、さらに各部門で実効性の高いチェック体制を構築、実施しています」と岩井氏。21年度には統合報告書を初めて発行するなど、情報開示にも力を入れる。
先進のIT企業の成長を支える「人」
インシュアテックの先頭を走りながら、その成長を支える根幹として「人」を最重視するところにこそアドバンスクリエイトの強さはある。「社員の幸せこそが企業存続の意味」と考える濱田氏は、社員が最大限力を発揮できる職場環境づくりと社員教育に情熱を注ぐ。土日祝日の完全休業や営業担当者の固定給制といった取り組みが顕著な例だ。また、女性や若手を積極的に管理職に登用するなど、多様な人材が活躍できる環境が、社員のモチベーション向上、ひいては業績に好影響を及ぼしている。
大澤あかり氏は、入社8年目の若さで営業推進部の部長を任されている。これまで支店長を歴任、産休・育休を経て復帰後、昇進を果たした。「復帰後も、時短勤務やリモート勤務など柔軟な働き方が可能です。社内に託児所もあり、子育てしながらキャリアアップできます」と語る。現部署では、全支店の営業担当者の支援・教育を担う。「失敗も前向きに受け止め粘り強く取り組むことや、自分自身で考え主体的に行動することなど、私自身が濱田社長から学んだことを伝えています」と大澤氏。「何より『会社が好き』という気持ちが原動力」だと笑顔を見せる。
「年次に関係なく、挑戦する社員を後押ししてくれる」社風を実感しているのは、大阪支店営業課の慈幸映里氏だ。部署横断的に組織される海外事業プロジェクトに立候補。意欲を買われ、1年目にしてメンバーに抜擢された。「入社後3カ月間、毎日濱田社長から研修を受け、夢を持って挑戦することの大切さを教わりました。先輩や上司も、私のような経験の浅い社員の挑戦を前向きに評価し、サポートしてくれます」と言う。
進化を止めることなく、未踏の領域に挑み続ける。濱田氏と同じ志と発想力を持った後進を育成することで、50年先、100年先を見据えた持続的成長を目指していく。
パートナーとして、保険業界のDX化を共に推進
辻之内 智章氏