"組織のReborn"と"CXの進化" CXフォーラム2021
主催 | 東洋経済新報社、ラーニングイット |
協賛 | NTTマーケティングアクト、セールスフォース・ドットコム、TMJ、富士通コミュニケーションサービス |
後援 | 日本コールセンター協会、日本ダイレクトマーケティング学会、 日本マーケティング協会 (50音順) |
ナビゲート
「顧客の声に耳を傾けよ」という1970年代のCX1.0、CRM(顧客情報管理)導入や顧客業務集約化による90年代のCX2.0を経て、CX3.0Ⓡで顧客サービスのデジタル化が成長戦略となった。さらにCXは次世代に向けた進化が始まっている。ラーニングイットの畑中伸介氏は「本フォーラムがコロナ禍を乗り越えて、新しい未来を探る場になれば」と語った。
基調講演❶
CX3.0®の進化と挑戦
実証的なCXマネジメントモデル、CX3.0Ⓡを基にコンサルティングを行うCCMCのジョン・グッドマン氏はCXの最新情勢を紹介した。
コロナ禍やデジタル化でカスタマーサービスのオンライン化、顧客セグメントに応じたサービス提供を求める傾向は強まった。クレーム申し立て後の企業の対応に満足した顧客のロイヤルティと推奨意向は、トラブルを経験しない顧客よりも高くなる「グッドマンの法則」は、重要性を増すネット上のクチコミ拡散にも当てはまる。「カスタマーサービスは、そのコストより、優れたサービスを提供できないことによる逸失利益に注目すべき」と、影響の定量測定を訴えた。最新トレンドでは、オンボーディングの顧客教育充実、顧客を満足させるにとどまらず期待を超えて感動させる顧客ディライトへのシフト、社内コミュニケーションやナレッジ統合による社内連携の強化、従業員に自己判断で柔軟な問題解決を促すエンパワーメントの取り組みなどを解説した。
基調講演❷
CXを可能にする組織とは:データが明かす新たな人と組織のマネジメント
「幸せはあいまいなものではなく、今日からつくれる」と日立製作所フェローの矢野和男氏は語り始めた。この20年で幸せの科学的解明が進み、仕事がうまくいくと幸せという、一般的にいわれる説とは逆の因果関係もわかってきた。幸せは結果ではなく、幸せになるにはスキルがあるという。
幸せは前向きさと不可分だ。「幸せの本質は、前向きな一日を周囲と応援し合ってつくること」として、そのための心の動きと行動を構成する要素を紹介。一日の始まりに前向きな目標を決め、周囲と共有することは幸せに効果があるという検証結果も示した。さらに、幸せの測定を目指す矢野氏は、ウェアラブルセンサーで計測した身体運動データのシークエンス(配列)の特徴から周囲を元気にする行動の指標「ハピネス関係度」が、組織の仕事の生産性と相関することも検証した。「測定できれば、幸せは管理できる」と、2020年にはハピネスプラネット社を設立。企業と協力して、人の心にも目を向けた、よりよい組織・社会づくりを進めている。
特別講演❶
JCB CXの浸透に向けて~推進チームの奮闘記~
カード会社、JCBの竹中英一氏は、CS(顧客満足度)活動をCX価値追求へ転換する取り組みを語った。同社は、顧客に対するホスピタリティーを軸に約10年前からCSに取り組んできたが、顧客接点がない部署もあり、「意識はあるが、自発的行動につながらない」という課題があった。デジタルの普及で、顧客が電話などで問い合わせることをストレスと感じるようになり、自己による解決を求める傾向も強まっている。こうした変化を背景に、19年度からCX価値追求に舵を切った。
まず、顧客のストレスをなくすため、透明性、公平性、柔軟性、自己解決というCXの4つの観点を社内に浸透させるポスターを作成。部門や役職を超えてCXを議論する研修を開催し、顧客の痛点を探して改善策を考え、行動イメージを把握した。今年度は、CX活動の実践として、カードの入会促進策を検討、ウェブサイト改善などにつなげた。今後は「CXを損益やリスクと同等に扱う仕組みづくりに取り組む」と語った。
特別講演❷
企業理念をベースに顧客満足度を高めていく従業員エンゲージメント向上への取り組み
前半は、マンション関連事業を展開する長谷工グループで新規業態開発、既存事業の競争力確保に取り組む、長谷工アネシスの常岡麻智子氏が「CXの社内啓発活動の中で、忙しい現場のモチベーションの課題に直面した」と、EX向上への取り組みの経緯を説明。VOC(顧客の声)とともにVOE(従業員の声)に向き合う重要性を訴えた。
後半は、長谷工リフォームの渋谷貴雄氏が活動内容を紹介。マンション専有部のインテリア事業では、「都市と人間の最適な生活環境を創造し社会に貢献する」という企業理念を自身とつなぐ「ジブンゴト化」、安心感のある社内コミュニケーション、発達志向型チームワークに重点を置いたEX向上に取り組み、店長を集めた会議などを開催する。
大規模修繕事業では、従業員アンケートによるVOE収集や、経営層・中間層ごとの対話により、EXの課題を把握。「組織の壁や世代間ギャップなど、見えてきた課題を克服し、共創関係を築いていきたい」と語った。
特別講演❸
サービスは受け身から能動的なものへ 〜金融サービスにおけるCX3.0®の実現〜
米メリーランド州で税務対策、ファイナンシャルプランニングを提供するSPCファイナンシャルのジェフリー・セラ氏は、15年から取り組んできたCCMC社とのCXプロジェクトを紹介した。
まず、CXの現状診断調査を実施。41%の顧客が疑問や不満を抱えていても、そのうち78%は不満を申し出ないことや、離反リスクを可視化した。また、不満がサービスへの理解が不十分な契約期間5年未満の顧客に多いと分析。新規顧客向けに契約後の流れや、つまずきやすいポイントを説明するオンボーディングパッケージを作成し、さらに若年層顧客を中心に積極的にコミュニケーションを取るようにした。コロナ禍では、オンラインの定期セミナーなどを通じ、顧客の疑問点に回答。不満を申し出ない顧客の割合も7%まで減少した。セラ氏は「事前に対応すれば問題解決は容易になる。顧客は日常のネット通販などで高いCXを形成しているため、同業他社との比較や競争は意味がない。継続的な自社のモニタリングが重要だ」と語った。
特別講演❹
3800万人の会員の多様なニーズを捉えたデジタル改革プロジェクト
グッドマン氏のCX3.0Ⓡモデルのポイントの解説に続き、シニア向け情報やサービスを提供する全米最大規模の高齢者団体AARPのマシュー・チン氏は、カスタマーサービスの取り組みをそのポイントに沿って説明した。会員からの問い合わせはタイプごとに分類。基本的手続きなど単純な問いはセルフサービス、そこで解決が難しい場合は有人サポートか、コミュニティーサイトを利用する。ヘルプサイトには電話、チャットなどの全チャネルを掲載。回答の情報源を一元管理するナレッジマネジメントシステムの必要性を訴えた。
コンタクトセンターのエージェント育成を担当するブライアン・クランシー氏は、エージェントを顧客と見なして学習体験を提供し、その学びを顧客教育に活用してもらう取り組みを紹介。また、定型的サービスの品質管理はエージェントに適さないとして、クオリティーインテリジェンス(品質知性)やコンピテンシー(高い成果につながる行動特性)の考え方を採用した管理法を説明した。
セッション❶
CX、DX、EXを一挙に実現する戦略と戦術~ProCXとしてのVOC活用と事業成長を牽引するコンタクトセンターの価値転換~
CXのプロ集団「ProCX(プロクス)」として、VOCによるデータドリブンな組織変革を支援するNTTマーケティングアクトの米林敏幸氏は「CX活動は、カスタマーサービス部門を中心(CoE)として、全社横断で取り組むべき」と強調。VOCから得た顧客インサイトで価値を創造。投資対効果の高い既存顧客のロイヤルティ向上などをKPI(プロセス指標)に設定し、収益や利益などのKGI(経営目標達成指標)をカスタマーサービスのミッションに再定義するよう提案。カスタマーサービス戦略は「究極的には、申し出の促進と、サービス向上の2点」だと語った。
次に同社の井上雅博氏がVOCの分析・活用法や、申し出を促進するチャネル最適化、応対品質向上による顧客エンゲージメント強化など具体的な戦術を事例に交えて解説。「コンタクトリーズン分類に基づくDX推進が不可欠。蓄積データを分析して、その結果を社内にフィードバックすることが副次的にスタッフのEX向上をもたらす」とした。
セッション❷
CXを進化させるEX環境改善〜新しいワークスタイルにおけるEX向上がもたらすCX効果〜
セールスフォース・ドットコムで人材育成を担当する安田大佑氏は、コロナ禍のリモートワークで社員が互いに見えない不安を抱える中、人材定着や生産性に影響する「従業員エンゲージメントは経営に大きなインパクトを持つ」と指摘。「社員活動の質の低下で顧客対応にシワ寄せがくることが最大の懸念」として、一元管理したデータに基づく一貫した採用、育成、定着施策を訴えた。
同社は、自社製品の学習プラットフォーム「myTrailhead(マイトレイルヘッド)」を使い、会社側も受講状況を確認できるセルフ学習環境を整備。マーケティングオートメーションの手法も駆使してメールなどでフォローする。サポート担当の在宅勤務化では、適性などのデータを基に、個々に即した問い合わせを割り振り、自社製品「Service Cloud(サービスクラウド)」の問い合わせに関連するコンテンツを自動表示する機能で支援。「データに基づくやさしさのあるコミュニケーション」と「テクノロジーによる支援」の大切さを強調した。
セッション❸
CXが実現するEX〜組織風土の進化はCXから始まる!〜
ビジネスの競争力を高めるために、企業はCXとEX双方の向上が求められている。では、CXとEX改善は、どちらから着手すべきか。富士通コミュニケーションサービスの横田喜子氏は、同社が調査したコンタクトセンターの従業員満足度調査からCXとEXの関係性を考察した。
調査は、EXのキーファクターとしてキャリアプラン、能力開発、報奨制度に加え、「顧客志向の組織風土」を確認。CX、つまり顧客志向が原点となり、顧客に最高のサービスを提供することが従業員のモチベーションややりがいなどのEXに大きく影響すると強調。このような組織風土に変革するためには、自社にとっての顧客志向型KPIを設計し、業務プロセスを変えていくこと。その結果が顧客ロイヤルティを醸成し、LTV(顧客生涯価値)を高め企業の成長性・収益性向上につながると訴えた。
最後に、顧客接点運営で培ったノウハウも生かし、CXの向上やEXの可視化を支援するソリューション「Design for CX」と、その事例を紹介した。
セッション❹
"CX×EX"アウトソーサーが推進する変革の歩みと未来~顧客接点の現場、その最前線で取り組むクライアント・従業員との共創と挑戦~
CXデザイン、コンタクトセンター運営などBPO事業を展開するTMJの岡本広明氏は、顧客期待の多様化、顧客接点のデジタル化を受け、コンタクトセンターが変革を迫られている現状を指摘。伴走型支援でクライアントとの共創により、デジタルチャネルの顧客活用率低迷、チャネル間の顧客評価のばらつき、顧客視点での接点リデザインなどの課題を解決した事例を紹介した。解決策として、個別管理していた各チャネルを、ナレッジを軸に連結管理へと転換、NPS(推奨意向度)の詳細分析や、カスタマージャーニーでマップを使った痛点分析などデータによる課題を特定。そして丁寧さから顧客満足度を指標にした応対品質評価への転換と、各事業部門とコンタクトセンターとの相互理解のためのCX専任組織設置などの取り組みを紹介。「顧客起点のチャネルのナレッジによるマネジメント、社内横断的連携による持続的な推進体制、CXを実現する主体であるセンター現場のエンゲージメントとEX強化が推進のカギ」と訴えた。