ニチバン、知られざるスポーツ界との協働史

「スポーツテーピング」だけではない役割とは

普段、スポーツをしない読者でも、スポーツシーンでアスリートのひざや腕に巻かれたテープを見ることは多いだろう。このテープを通してアスリートやスポーツ界に対し、長年にわたり寄与してきた企業がある。スポーツ用テーピングテープ「バトルウィン」ブランドを手がける、ニチバンだ。企業の貢献というと、「スポンサード」が思い浮かぶが、ニチバンは、40年にわたりスポーツ界に資してきた。そして近年、その活動は大きく進化を遂げ、新たな局面に突入している。

1981年に"国産テーピングテープ"を発売

スポーツ用テーピング製品の開発・販売事業を通して長年スポーツ業界に寄与してきたニチバンだが、決して「高品質のスポーツテープ製品を提供してきた」という話だけにとどまらない。そこには、将来の実りのために"土壌の開墾"から行うような、長期的視座の活動がある。

トップアスリートの活躍は、アスリート本人の資質や努力はもちろんだが、彼らを支えるさまざまな要素に支えられている。その大きな1つが、コーチやトレーナーなど、さまざまなプロフェッショナルの存在だ。彼らのサポートがあるからこそ、トップレベルの激しい競争を勝ち抜けるのだろう。

また、トップアスリートを輩出するための「裾野の広さ」も重要だ。プロからアマチュア、年代もキッズからシニアにいたるまで多彩な層が競技に参加し、裾野が広がれば広がるほど、"頂(いただき)"たるトップアスリートのレベルも高くなるのではないだろうか。そしてもう1つ忘れてはならないのが、「時間」だ。その競技が積み重ね、共有してきた知識と経験が、アスリートを技術的にも精神的にも支えるはずだ。

ニチバン 執行役員
ヘルスケア営業統括部長
村石和武

ニチバンは、これらの3つの視座からも貢献してきたと言っても過言ではない。その第一歩が踏み出されたのは、国産のテーピングテープを発売した1981年のことだった。そもそもテーピングは、諸説あるものの、今から約150年前にアメリカ南北戦争で負傷した兵士の患部を梱包用テープで固定したことが起源といわれる。その後スポーツに応用され、ケガの応急処置、予防、再発防止に重要な役割を果たす技術となった。ニチバン 執行役員/ヘルスケア営業統括部長・村石和武氏はこう話す。

「日本でも1970年代からテーピングテープが少しずつ広まり始めましたが、当時はまだ海外から輸入したスポーツテープ製品ばかりでした。そこでセロハンテープや絆創膏などテープ技術の蓄積があった当社が、スポーツテープ事業に乗り出したのです。技術的な課題にチャレンジし、試行錯誤を重ね、発売から数年間で集中的に技術水準を高めました」(村石氏)

1984年にはブランド名やパッケージデザインも一新し、今に続くニチバンのテーピングテープブランド「バトルウィン」がスタートする。

1981年当時のスポーツテープ(コットンタイプ)。ニチバンのスポーツテーピングの歴史はここから始まった

「発売当初は、スポーツテーピングがまだ広くは浸透していない時代です。一方でテーピングを機能させるには、正しい巻き方・使い方がとても重要になります。そこで当社社員が国体やインターハイなどの会場に出向いて選手やコーチに直接、テーピングサービスを行う活動を展開していきました。また、テーピング講習会も全国各地で開催しました」(村石氏)

薬局への展開が大きなターニングポイントに

スポーツテーピング普及の「草の根活動」の象徴といえる存在が、"バトルウィンカー"だ。

「バトルウィンのロゴが入ったテーピングサービス用のバン(車)のことで、ドアがウィング状に上に開き、簡易ブースとなります。そこに選手やコーチを集め、テーピングテープの配布や使い方の講習を行いました。初めの頃、選手たちは、アイスクリーム屋と間違えて集まったなんていう笑い話もあります。当社側としても、こうした活動を通して現場から聞かれる声はとても貴重で、それを製品の開発・改善につなげていきました」(村石氏)

大会会場などでテーピングサービスの機会を提供。ノウハウの普及にも努めてきた

以降もニチバンは、テーピングの普及活動を脈々と続け、スポーツの現場だけでなくWebサイトでも、テーピング技術などの情報提供を積極的に行っていった。大会におけるテーピングサービスは現在も続けられている(新型コロナウイルス感染状況の影響により2020年以降は一時休止、2021年度よりリモート併用で再開予定)。

もう1つ、テーピング普及へのターニングポイントとなったのは、販売経路の変化も挙げられる。

「それまでスポーツテープはスポーツ専門店で売られていましたが、当社は元々、絆創膏などのメディカル商品を扱っており、薬局・薬店様への販売ルートがありましたので、それを生かし当社製品も新たに置いていただきました。

その後、薬局・薬店様の多くがドラッグストアという業態に変わっていったこともあり、スポーツテープはより広い層のお客様に手にとってもらいやすくなりました」(村石氏)

地道な普及活動と品質改良、さらには販売戦略が実り、今ではトップアスリートから一般ユーザーまで、テーピングは身近な存在として広く利用されるようになった。

ニチバンの活動に通底するのが、「パートナー」というあり方だ。スポンサー活動のようにダイレクトな宣伝にはなりにくいものの、アスリートや競技団体のパートナーとして主体的に関わることで、時間をかけて習慣や文化を根付かせることにつながる。それが結果的に、自社にも大きな利益をもたらす。ユーザー・協会・企業が"三方良し"となるため、サスティナブルでもある。

ニチバンは、この「パートナー」活動の進化型といえる取り組みを、新たに始めている。それがJFA(日本サッカー協会)と協働で展開する、次世代のアスレティックトレーナーの育成を目指すプロジェクト「SOCCER MEDICAL CAMP(SMC)」だ。

次世代トレーナー育成プロジェクトが目指すもの

ニチバンは2016年に、JFAがサッカーの普及を目的に進める「JFA Youth & Development Programme(JYD)」のオフィシャルパートナーとなり、ケガの予防・応急処置を啓発する映像の制作、テーピングやケアに関する保護者向けセミナーの開催などを行ってきた。

そして2019年、次世代のアスレティックトレーナーの育成を目的に始めたのが、SMCだ。プロジェクトでは、第1期として全7回のセミナープログラムを開催。アスレティックトレーナーを志す選抜された受講者を対象に、サッカーメディカルに関する講義が行われた。

新型コロナウイルス感染症拡大の影響により2020年の開催は見送られたが、2021年9月から11月まで第2期が開催され、オンラインを中心とした全8回のセミナーが行われた。講師陣には、サッカー日本代表のアスレティックトレーナー・ドクターをはじめ、日本サッカー界のメディカル領域で活躍するそうそうたる講師陣が名を連ねている。

今年開催した第2回はオンラインを中心にリアルとのハイブリッドで開催した

「講義では、技術や知識はもちろんのこと、コミュニケーション力や人間性といった部分にも重きが置かれています。ありがたいことに受講者や関係者の方々からは、高い評価をいただけています」(村石氏)

このプロジェクトでは、商品やメーカー名を宣伝する場がほとんどない。はたしてニチバンには、どんなメリットがあるのか。

「1つは選手を支える多彩なプロフェッショナルの方々から聞くお話が、メーカーとして大きな財産になり、それをものづくりにつなげられる点です。そして何より大きいのは、メディカル分野の人材育成です。今回の受講者が実際にトレーナーとなり、現場でメディカルの本質を伝える。教わった人がそれを仲間に伝える。そして、新たにトレーナーを志す人が出てくるのです。

そうしてサッカーメディカルの土壌が豊かになれば、テーピングテープ製品の需要もより高まります。さらには、サッカー環境がより整うことで、競技者の裾野もいっそう広がるという長期的な好サイクルを目指しています。実はすでに1期の受講生の一人がJFAのトレーナーに採用されており、サイクルが進み始めています」(村石氏)

JFAと組むこの新しい「パートナー」活動が、10年後・20年後にどんな実りをもたらすのか。これからの日本のサッカーの活躍、そしてアスレティックトレーナーが生み出す価値に、期待せずにはいられない。

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