ミズノが取り組む、ものづくりの大変革

「バーチャルサンプル」がもたらした効果とは

サンプル作成のために多くの時間を要していた

スポーツ用品大手のミズノ。競泳、ゴルフ、野球などに強みを持ち、最近ではシューズも成長している。海外事業も拡大中だ。

同社グローバルフットウエアプロダクト本部デザイン課の中村敬氏は、大学卒業後シューズ製造企業勤務を経てミズノに入社。シューズデザイナー一筋で、現在は同社の競技系のスポーツシューズをメインにデザインに携わっている。

ミズノのフットウエア部門ではシューズデザイナーがアドビ社の「Adobe Substance 3D シリーズ(以下、Substance 3D)」を活用し、3D CGによるバーチャルサンプル(以下VS)を作成しているという。狙いはどこにあるのか。

「VSを活用するメリットは多いですが、大きなメリットの1つは商品開発のリードタイムを短縮できることです」と中村氏は話す。

ミズノ株式会社
フットウエアデザイナー
中村 敬

同社では従来、サンプル作成は主に海外の工場で行っていた。サンプリングするデザインが決定すると、デザイナーはそのデザインの構造やデザインのディテールを工場に伝えるために指示書を作成する。また、カラーバリエーションも同時期に作成し、それを工場に依頼すると工場から材料メーカーにサンプル材を発注する。例えばメッシュ素材であれば生地を編んだり染色したりというプロセスを経てサンプル材が作成される。

「サンプル材を作成するだけでも数週間単位の時間が必要でした。大きな問題は、サンプル制作にかかる時間が長くなってしまうことはデザイナーのデザインワーク、すなわち、ものを考えるのに費やせる時間を圧迫することになっていました」と中村氏は課題を語る。

サンプルをVSに置き換えることでリードタイムを短縮

課題の解決につながったのが、Substance 3Dを活用したVSの制作だった。「VSであれば、工場向けの詳細な指示書を作る必要はありません。その商品の担当デザイナーとVSの担当者がイメージを共有しながら、あうんの呼吸で作成を進めていくことができます」(中村氏)。

特筆すべきは、制作のために要する時間だ。「VSなら、モデリングからカラーバリエーションまで含めても1週間程度で作成できます。さらにVSが完成したら、その後は海外各国の関係者にメールでデータを送ればすぐに世界中でVSを確認することができます」

従来のように工場に指示書を出してサンプルを作成するのに比べて、大幅にリードタイムを短縮することが可能になったわけだ。また、通常のサンプルであれば、作成した後、海外の担当者に現物を輸送しなければならなかったが、それも不要になったという。

消費者のニーズは多様化している。そのニーズに対応し、タイミングを逸することなく商品を供給することが肝心だが、従来はそれが容易ではなかった。「VSなら、商品検討もより効率的になります。色や素材に関して海外の国や地域から要望があった際などに、これまでは工場に発注しサンプル材を作るといったサンプル作成のフローを繰り返さなくてはなりませんでした。Substance 3Dを活用したVSであれば、商品検討のその場ですぐに材料やカラーを入れ替えて見ることができます」。迅速な判断が、市場の変化が激しい時代には不可欠だが、それが可能になった。

物的なリソースの削減で、サステナブルな開発へ

「実際のサンプルをVSに置き換えることは、時間の削減だけでなく、物的なリソースの削減につながります」と中村氏は語る。

アパレルやシューズ業界は製造工程における環境への負荷が課題とされてきた。ミズノにおいても、各地域のニーズに対応するために多くのモデルやカラーバリエーションのサンプルを作成しなければならず、1つの競技カテゴリーの商品検討用サンプルだけでも100種類以上になることも珍しくなかったという。

「サンプルを1足作るのにも、いくつものサンプル材を用意しなければなりません。サンプル材の作成にはある程度のロットが必要で、ロスも多かったのです。このほか、素材を染める時、多くの水資源を使ってしまったり、各国の工場へ素材やサンプルを送付するなど輸送にかかわるCO2の排出も発生していました。よりサステナブルな開発が喫緊のテーマでもありました」

Substance 3Dを活用したVSに置き換えることにより、これらのサンプルの作成や輸送などをなくすことができたという。より環境負荷を低減した開発が実現したわけだ。

3DデータをARやVRに活用し効果的な販促を実施

「商品検討用に作成されたVSはその後の販促などにも有効に活用できます」と中村氏は語る。

ミズノでは、カタログ画像の一部はデザインチームが作成したVSのレンダリング画像が使用されているという。また、販促動画は専門の制作会社に依頼しているが、そのCGのベースにもデザインチームが作成したVSが使用されている。一からCGを作成すれば相応のコストがかかるが、VSであればそれを軽減できる。また、仕様変更があった場合でも、素早く修正できるのも大きな特長だ。

商品開発時の画像が、そのまま販促にも使える

「今後は、Web上で、3D閲覧が可能な形にして公開したり、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)を使った新しい消費者とのタッチポイントを生み出せるようなコンテンツへVSを活用していきたいと考えています」と中村氏は語る。

販促ツールとしてのVSの活用の可能性も大きいといえるが、そこでカギになるのがVSのクオリティだろう。いかにもCGといった作りではVSとは呼べない。

「自然なディテールがあってこそ、リアルなVSになります。例えば、シューズの場合、アッパーはメッシュや皮革、ソールは発泡素材といったように柔らかい素材が多く使われています。その点で、Substance 3Dなら、ステッチによる材料の潰れやシワなど、設計図には表現されていないディテールを簡単に加えることができます」。リアルなVSにより、消費者にリアルに限りなく近い購買体験を提供することができるのだ。

新しいクリエイティビティを生み出すデザインワークが実現

ところで、VS作成はCGの技術に長けた会社に外注したり、CGの専門家を雇って行うのが一般的だ。ミズノではなぜシューズデザイナーが自らVSを作成しているのか。

中村氏はその問いに「デザイナーがVS作成の技術を手にすることで、よりよいデザインや高いクリエイティビティを生み出せるようになると考えているからです」と答える。

Substance 3Dを利用することで、多様なマテリアルやカラーアイデアを即座に形にできるため、よりアグレッシブなデザインにチャレンジできるという。

「時に、自分では予想していなかったようなデザインや造形ができ上がることもあります。つまり、デザイナーの頭の中にはなかったような偶発的に出てくる新しい発見があるのもSubstance 3Dを使う大きなメリットです。新しいクリエイティビティを生み出すデザインワークが実現すると考えています」と中村氏は期待をする。

デザイナーだけでなく、製造に関わる担当者や品質管理者など、社内のさまざまな部門と一緒にSubstance 3Dで作成したデータを共通言語として対話ができるようになったのも大きな変革と言えるだろう。必要に応じて、作成したモデルを3Dプリンターで出力し、確認することもできる。

「Substance 3Dは、シューズのデザインだけでなく、さまざまな製品のデザインワークや開発プロセスに大きな変化を生み出すことのできるツール」と中村氏は評価する。

小売業やB2Cの企業はもとより、B2B企業、さらにはサービス業まで多様な企業で活用し、競争力向上を実現してほしい。

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