競争力を左右する?「HRテクノロジー」最新事情 人事部門だけじゃない、企業経営の必須科目に

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企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)の取り組みを加速させる中、人事領域では近年、業務の効率化や適切な人材マネジメントの実現に向けて「HRテクノロジー」が注目されている。直近では、コロナ禍の影響による働き方の変化によってテクノロジーを活用するニーズが増したほか、企業における「人材」の重要性が高まってきていることで、HRテクノロジー導入の動きがいっそう拡大する兆しが見えてきた。人事領域だけでなく、もはや企業経営の重要テーマともなっているHRテクノロジーの最新事情に迫る。 

HRテクノロジー活用の機運高まるも、大企業では従来システムが足かせに

――人事業務にテクノロジーを活用する「HRテクノロジー」が世界的に大きな潮流になっています。日本でも関心を持つ企業が増えてきました。

慶應義塾大学
大学院経営管理研究科
特任教授
岩本 隆氏
東京大学工学部金属工学科卒業後、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)工学・応用科学研究科材料学・材料工学専攻で博士号(Ph.D.)を取得。日本モトローラ、日本ルーセント・テクノロジー、ノキア・ジャパン、ドリームインキュベータを経て、2012年より慶應義塾大学大学院経営管理研究科特任教授に就任。「産業プロデュース論」を専門領域として、新産業創出に関わる研究を行っている。(一社)ICT CONNECT 21理事、(一社)日本CHRO協会理事、(一社)日本パブリックアフェアーズ協会理事、(一社)SDGs Innovation HUB理事なども務める

岩本 「HRテクノロジー」という言葉自体は20年近く前からあります。もともとは米国で、プロスポーツ選手の育成や配置にタレントデータを用いたHRテクノロジーが使われてきました。

それがビジネスの世界にも広がるきっかけとなったのは、金融におけるフィンテックのように、さまざまな産業領域でビッグデータが活用されるようになったことです。それまでも人事の領域では給与計算や勤怠管理などはデータ化されていましたが、さらにタレントマネジメントと呼ばれるような、従業員一人ひとりのデータを収集・分析し人材の適正な育成や配置に生かそうという取り組みが進んできました。DX(デジタルトランスフォーメーション)の一環としてHRテクノロジーを活用する企業もあります。

――日本企業のHRテクノロジー活用は進んでいるのでしょうか。

岩本 実は、日本はHRテクノロジーに関して、非常にさまざまなスタートアップ企業が生まれ、活躍しています。HRテクノロジーを主力事業にして上場したスタートアップ企業も少なくありません。

日本の大企業の多くは、採用や労務管理などでそれぞれ専門の部署があり、レガシーなシステムを使い続けています。これらを横串にするシステムを構築しようとすればかなり大がかりになるため、なかなか意思決定ができないのです。しかし、スタートアップ企業の比較的廉価なクラウドサービスであれば、部課長クラスの決裁で導入できます。中小企業でも補助金などを活用して、容易に導入することができるでしょう。そうした背景からHRテクノロジーのスタートアップ企業が伸びているのです。

一方で、課題もあります。とくに日本の大企業はサイロ型の分断されたシステムになっていることが多く、データの収集や分析がうまくできません。各領域で横串を通したワンストップのHRテクノロジー活用が求められます。そうした意味で、国内ではテクノロジーの活用に積極的な大企業のほか、もともとレガシーなシステムを持っていない中小企業やスタートアップ企業から、導入が進んでいる状況にあります。

HRテクノロジー活用には経営者が積極的に関与すべき

――新型コロナウイルスの感染拡大により、テレワークが普及するなど多くの企業で働き方が変化しました。HRテクノロジーの活用手法にも変化はあったのでしょうか。

岩本 大きな変化の一つは、勤怠管理です。在宅勤務が増える中では、勤怠管理をクラウド化する必要があります。そのほか、タスクやプロジェクトの管理ができるワークフローツールなどを導入する企業も増えています。

注意すべきは、在宅勤務の増加などに伴い、いわゆる「燃え尽き症候群」に陥り離職する従業員が増えていることです。今では世界中で従業員エンゲージメントと業績に相関があるというエビデンスが明らかになっていますが、燃え尽き症候群が起きるようになったことで、従業員エンゲージメントと「ウェルビーイング(心身の幸福)」を両立する必要があるといわれています。

そうして最近、ウェルビーイングが注目されるようになり、HRテクノロジーを活用し、ウェルビーイングの変化の兆候を捉え、離職を未然に防ぐといった取り組みを始めている企業もあります。

――人事領域のデータに限っても、さまざまなものがあります。これからHRテクノロジーの活用に取り組む企業にとっては、どれをデータ化して収集・分析すべきか悩むところもありそうです。

岩本 国際標準化機構(ISO)は2018年、「ISO 30414」という人的資本の情報開示に関するガイドラインを定めました。開示するメトリック(測定基準)として、コスト、ダイバーシティー、リーダーシップ、組織風土など11領域58項目が示されています。米国では20年に、証券取引委員会が人的資本の情報開示を上場企業に義務づけるようになっています。

日本では義務化はされていませんが、人事領域における最低限の情報開示の指針として参考になるでしょう。他社と比較し、自社のどこに弱点があるかといったことも把握できるようになります。

最低限とはいっても、これに準拠しようとすれば、人事部門だけでなく経営管理や財務など、さまざまな部門との連携が必要です。ISOに限らず、HRテクノロジーはもはや「経営テック」とも捉えるべき、経営者自身が積極的に関与すべきテーマであるといえるでしょう。

――人事部門をはじめ、HRテクノロジーに関わるさまざまな部門は、その存在意義が問われることになりそうです。

岩本 労働力人口が減少する中、どの部門でもコア業務への特化が求められるようになります。例えば人事部門であれば、ルーティン業務をAIやロボットに任せ、人事戦略の策定や実行などを行うのが役割になります。経営者にとっても、HRテクノロジーは企業経営や競争力向上に欠かせないものになるでしょう。