ライフネット生命のCX向上を目指した組織改革

「オンライン」を強みに保有契約数を伸ばす裏側

オンラインをメインに「生命保険」を取り扱う、ライフネット生命が2021年9月時点で保有契約数47万件を突破(前年比117.6%)。2008年の営業開始から保有契約数を伸ばし続けている。この結果は、規制が厳しい「金融・保険業」においてもオンラインでサービス享受したい、という顧客のニーズに応えたことの表れだろう。では、多くの企業がオンラインでのサービス展開に挑戦する中、競合との差別化や優位性を維持するためにはどうすればいいか。ライフネット生命の取り組みから探る。

失敗から学んだ、CXの重要性

「若い世代の保険料を半分にして、安心して子どもを産み育てられる世の中にしたい」という思いのもと創業し、オンライン生命保険として保険業界に新風を巻き起こしてきたライフネット生命。オンラインならではの手軽さと、インターネットを活用した、販売経費の抑制による「高い価格競争力」が強みだ。

そして2021年、保有契約数が47万件に上った同社だが、つねに絶好調で契約数を伸ばしていったわけではない。一時は、スマホの登場によって成長鈍化に陥った。

ライフネット生命 営業本部 CXデザイン部
関口 暁彦

17年に参画した関口暁彦氏によれば「開業した当初の2008年は、お客様のカスタマージャーニー・お客様のタッチポイントをすべてパソコンを前提に設計していました。その後、スマートフォンが皆様のお手元に急速に広がる中で、当社はスマートフォンへの対応に後れをとってしまっていたと認識しています」と言う。その後、Webサイトなどの設計を、スマートフォンを軸としたものへ見直しを行ったことで、成長の速度を取り戻した同社。

デバイスの変化のインパクトが大きいことから、さらなる成長の本質には「顧客体験(以下、CX)の重要性」があると学んだ。18年11月には「顧客体験の革新」を新たな経営方針として掲げている。

21年6月ガートナージャパンの調査によれば「日本におけるCXプロジェクトの状況(2018〜2020年)」について「必要だが未検討/進捗が遅い」や「必要なし」「知らない/分からない」と回答する企業が18年時点で89.6%。その後コロナ禍以降顧客行動が変容したにもかかわらず、国内では20年時点でも8割近くが「行動していない」という結果だ。

出典:Gartner, 2021年6月7日, プレスリリース「ガートナー、日本企業のカスタマー・エクスペリエンスへの取り組みに関する調査結果を発表」https://www.gartner.co.jp/ja/newsroom/press-releases/pr-20210607

オンライン市場でのサービス展開に挑戦する企業が増え、オンライン上でも消費者に適切な買い物体験を提供することこそ、競争優位になる。そうした観点から、CXを軽視する企業は生き残れないだろう。一方で「CXが大切なことはぼんやりとわかるが、具体的な課題やどのように取り組むべきかわからない」日本企業も多い中、なぜライフネット生命は顧客体験の革新を推し進められたのか。

新たな強みは「組織改革」から

「CXの革新の実現に向けて、オンラインでの顧客対応をパーソナライズしていくにはどうすればよいかを検討し、仮説の実行・検証を積み重ねながら、顧客基盤の再構築を行ってきました」(関口氏)

顧客の期待に応える「顧客体験の革新」に取り組むライフネット生命。顧客を理解し、顧客ごとに合った体験を提供していくための施策の中心には組織改革があった。

オンライン上のビジネスでは、さまざまな部署が関わり合って個別部署ごとに明確なKPIを立てられるようになったが、CXの課題は得てして単独部署が抱える課題ではなく、サイト上での顧客のアクションや購買の一連のプロセスにおける「ちょっとした使いづらさ」。CXの重要性に気づいても部署間のコミュニケーションが成立しづらく、実践に至らないケースもあるのではないだろうか。同社も、営業企画部内の一グループとして立ち上げられたCXデザイングループでは仮説に基づく施策の実行力に課題が残った。

「ストレスフリー」「エンゲージメント」をポイントとするさまざまな施策に取り組み続けている。前者は、顧客が初めてライフネット生命を認知するところから、保険契約が終了するまでの一連のカスタマージャーニーにおいて、いかにストレスを軽減できるか。後者は、ライフネット生命を選んでよかったと感じられることを目指す取り組みだ。これらをCXの重要性に気づくきっかけとなった「スマホ」対応の中で実現していく

「そこで有志のメンバーで、CXを専門とするタスクフォースを立ち上げ『実行力』に重きを置いて部署を越えて横断的に取り組みました。そういった活動が認められて組織は再編。CXデザイングループとタスクフォースが1つの『CXデザイン部』となったんです。

これまでは、CXはCX推進部署の話であり、他部署からすると自業務との関連性を感じづらかったと思いますが、組織変更によって、各部署の業務がひも付くようになりました。結果として、CXデザイン部が組織全体のCX課題に対して横断的に推進していく役割を担えるようになったため、各担当の役割分担も明確にできるようになり、より顧客価値・事業価値を伸ばしやすい体制になったと感じています」(関口氏)

ライフネット生命流のCX革新は、体制づくりに成功の秘訣があったといえる。だが、次の課題となるのは具体的な課題に対する仮説と検証の精度だろう。関口氏と同じCXデザイン部所属の宮川彩乃氏は、CX革新のポイントについて次のように説明する。

ライフネット生命 営業本部 CXデザイン部
宮川 彩乃

「対面にあってオンラインに足りないものは、『お客様の状況や感情をくみ取るすべ』です。対面では、営業がお客様の悩みや不安に寄り添いながら、パーソナライズした接客を実現できます。また、お客様の言動から潜在ニーズを理解できる可能性も高いです。オンラインにおいても、ストレスフリーとエンゲージメントによって実現する必要がありました」(宮川氏)

当時抱えていた具体的な課題の1つには「個人情報入力にかかるストレス」などがあった。このような課題も横串となるCXデザイン部の取り組みで、よりスムーズなUI、UXに改善できたという。

「マイページへのログイン画面は入力事項が多いうえに漢字やカナだけでなく数字入力の切り替えが必要で、些細といえば些細ですが、お客様のストレスになっていたんです。一方で、基幹システムとひも付く領域のデータ入力ページのため手を入れることが難しかった。しかし、CXデザイン部は顧客の行動をきめ細かく調査観察し、分析から検討、実践までのプロセスを構築することができました」(宮川氏)

横串でCXに取り組む裏には「感情データ」の存在も

こうした取り組みの中で「きめ細かい顧客データ」が「実行力」を支えてきた。

「表面的なデータだけでは読み取れない深層をつかまなければお客様は虚像でしかありません。よりリアルな存在として捉える必要があったんです。細かくデータを集められればオンラインでも対面と同等以上にパーソナライズした接客を実現できると考え、お客様の深層を把握できるデータの可視化に注力することにしました」(宮川氏)

そこで、高度なリアルタイム解析技術を搭載した「KARTE(カルテ)」を活用。行動データをリアルタイムに「見える化」し、顧客の行動やそこから想像される感情を理解できる。そのうえ対面と違ってデータを読み取ることで一人ひとりの顧客のファクトを基にしてメンバーと多角的に議論できるので精度の高い仮説や施策を講じられるようになった。

「仮説を立てるとき、どうしても主観に傾きがちですが、KARTEを活用することで、それぞれが顧客の視点でありながらも別角度で仮説を立てることができるんです」(宮川氏)

オンライン販売を武器に、対面と同等、それ以上に「一人ひとりに寄り添った接客」をウェブサイト上で実現する。これからもCX向上を追求していくライフネット生命の将来について、関口氏はこう力を込めた。

「ウェブ接客のパーソナライズには終わりがありません。一律的なアプローチから、こまやかに一人ひとりのニーズや心境をくみ取ってアプローチできるように強化していきたいです。その積み重ねがサービスをアップデートする原動力になり、対面の接客によって得られる価値もオンラインで提供することができるようになると考えています」

ライフネット生命のCX革新は、これからデジタル中心社会にシフトしていくうえで参考になる。「部署ごとに異なるKPIで課題点が明確にならない」ことや「購入プロセスが多様化すると同時に分断されたまま」という企業は、CXを組織や顧客の感情データから検討することで成長機会を得ることもできるだろう。

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