課題山積み「日本の社会インフラ」は変われるか? NTTコムウェアが描く、未来のメンテナンス像
誰もがトラブルを体感、顕在化するインフラの課題
道路や鉄道、電気・ガス・水道、通信など、私たちの生活はさまざまな社会インフラによって支えられている。ところが近年は、多発する自然災害によって、こうしたインフラが破壊・分断されることが多くなった。また、インフラの老朽化に対してメンテナンスが追いつかず、それに起因する事故や故障のニュースも目立ってきた。国土交通省が運営するインフラメンテナンス国民会議など公的な取り組みも増えている。
NTTコムウェア ビジネスインキュベーション本部の田中利享氏は、社会インフラを取り巻く環境について次のように指摘する。
「10~20年ほど前から少子高齢化や地球温暖化等の社会課題が認識されてきましたが、その影響がここにきて社会インフラの問題として次々に顕在化してきました。コロナ禍も相まって、誰もが生活の中で実感を伴うリアルな問題となりました。社会インフラのサステナビリティやレジリエンスの向上が急務であると、ここ数年で共通認識となったのではないでしょうか」
もちろん、NTTグループのIT全体最適化を支援するNTTコムウェアにとっても、社会インフラが抱える課題はひとごとではない。
「NTTグループは、ケーブルや無線基地局をはじめ、通信事業関連の施設・設備を多数有しています。管理運営しているのはNTTグループ内の通信事業会社ですが、NTTコムウェアはNTTグループ各社のIT部門を支援する役割から、そうした業務を支えるソフトウェア開発を長年担っています。ですから、インフラ事業者が直面している課題は、すなわち当社が長年取り組んできた課題でもあるのです」
>メンテナンスから設備投資までトータルでサポートする「SmartMainTech」
メンテナンスはタイムベースからコンディションベースに
NTTコムウェアは、NTTグループ内でメンテナンス業務のデジタル化を進めるだけでなく、外部にもその技術やノウハウをプロダクト化して提供してきた。これまではプロダクトを単品として提供してきたが、2021年4月にそれらを束ねて、新事業ブランド「SmartMainTech」を立ち上げた。その狙いについて、田中氏はこう語る。
「以前は社会インフラに関わるさまざまな案件に対して、社内の各部門が個別に受託開発やプロダクト提供をしていました。しかし、対応していくうちに、各業界で類似しているニーズや、業界を超えた技術転用の可能性が見えてきました。社内でも社会課題のような大きな課題やニーズに的確に対応するには個別に展開するより集約したほうがいいという方針が定まり、プロダクトをまとめて体系化しました。1つのソリューションという形で提供するのは、当社としても新しい試みです」
「SmartMainTech」の優位性は、NTTコムウェアが培ってきたソフトウェア開発とデジタル技術の融合にある。中でも注目したい技術が、AIやデータサイエンス分野だ。道路や建物のひびを例に取ろう。今や、AIの画像認識でひびを見つけるのはそれほど難しいことではない。ただ、ひびの有無だけでは、そのひびにどう対応すべきかのアクションまで判断できない。実際の業務ではそこが大事なポイントだ。
そこで同社は、マルチモーダル(さまざまなデータソースを組み合わせる)や、マルチAI(複数の判定モデルを組み合わせる)の研究開発を加速。ひびの形状だけでなく、「色が白から黒に変化」「時間の経過とともに拡大」といったデータも組み合わせて、緊急度や深刻度を総合的に判断してアクションにつなげていく。
「マルチモーダル・マルチAIで、メンテナンス業務は定期的に点検・補修する“タイム・ベースド・メンテナンス”から、必要に応じて補修する“コンディション・ベースド・メンテナンス”へと変わっていくでしょう。コンディションに応じて対応できれば、不要なメンテナンス業務が減って、少ない人員でも効率的に業務を回していくことが可能になります」
データマネジメントで新たな価値を生み出す
「SmartMainTech」は、インフラの保守から設備投資までトータルでサポートするスマート・メンテナンス・ソリューションだ。これを導入することで、どのようなスマートワールドが実現されるのか。再生エネルギー分野の風力発電施設を例に解説しよう。
第1段階は、静的なデータ活用だ。もともと紙やバラバラのファイルで管理していた風車の情報や、その保守履歴などをデジタル台帳で一元管理することで業務の効率化を図る。
次の段階が、動的なデータ活用。例えばリアルタイムで風車の稼働状況をモニタリングして、細やかに変化を検出していく。さらに「周辺環境のモニタリングでは、飛来する渡り鳥をAIで識別して絶滅危惧種だったら、音を鳴らして風車から遠ざけるといった、環境との調和への対応も可能です」(田中氏)。
第3段階が、各設備から取得したデータの統合と活用である。広域で風車の稼働実態がわかれば、その地域の将来の発電量をシミュレーションしたり、新たに風車を設置する場合の立地選定に生かしたりすることができる。データ活用を進めることが、単にメンテナンス業務を効率化するだけでなく、インフラ事業における戦略レベルの意思決定にも貢献できるようになるというわけだ。
社会インフラを「点だけではなく面でも」最適化する
「SmartMainTech」がターゲットとしているのは、「通信」「エネルギー」「街づくり」の3分野だ。NTTグループは、通信設備のみならず、設備運営に必要な電源設備や建物まで保有・管理している。そのためこの3分野はどれも、同社のノウハウを存分に生かしやすい分野なのである。「SmartMainTech」では、2025年度までに累積100億円の売り上げを見込んでいる。
ただ、この3分野はあくまでも入り口にすぎない。NTTコムウェアが目指しているのは、社会インフラ全体の課題解決だ。田中氏は同社のビジョンについて、こう明かす。
「社会インフラ業界は、電気なら電気、道路なら道路というように細かく専門化・高度化が進展しています。しかし、電柱には通信と電気のケーブルが一緒に架かっているし、歩行者は道路と橋梁、踏切を当然区別せずに歩いていきます。社会インフラはすべてつながって相互依存しているのです。
だから、大切なのは、インフラを社会生活や経済活動の目線に立って、点だけではなく面でも考えて全体最適化すること。幸いNTTグループには、巨大な顧客管理システムや統合した設備管理システムなどを担ってきたデータマネジメントの知見があります。それを生かして、企業を跨いでさまざまな社会インフラのデータを共有・統合させて活用すれば、一企業の一事業にとどまらない、真の最適化が実現できるはずです」
データ基盤の上で動くソフトウェアの開発は、まさにNTTコムウェアが得意とする領域だ。ただし、同社のプロダクトだけで社会インフラのすべてをカバーできるわけではない。グループ内外の多様なプレーヤーを巻き込みつつ、社会インフラの価値を高めていくことが必要となる。実際に特定の設備に強みを持つIT企業などから連携・協創の話も少なくないとのことだ。ノウハウを基に壊れゆく社会インフラをただ更新するのではなく、未来に向けた刷新に取り組み、プレーヤーの連携ハブとしても名乗りを上げた、同社の今後に注目だ。