ソフトを使いこなす企業とムダにする組織との差 デジタルツールを定着化する注目の新発想とは
「DXは『デジタルアダプション』で加速する ~企業価値を最大化させる新たなアプローチとは~」では、DXを推進する実践企業が、その取り組みを紹介しながら、デジタルアダプションの重要性について検討した。
主催:東洋経済新報社
協賛:Pendo.io Japan
特別講演
「日本のデジタル化の未来について」
日本のデジタル化の遅れを背景に誕生したデジタル庁について、平井卓也氏は「行政サービス・システムは継続性、正確性を重視してきたが、使い勝手や国民の満足度をどこまで考えてきたのか」という課題を提起。デジタル庁のバリュー「この国に暮らす一人ひとりのために 常に目的を問い あらゆる立場を超えて 成果への挑戦を続けます」を紹介。「従来のやり方の延長線上に国民が望むデジタル化はないと考え、民間企業のようなバリューの組織になる。企業の皆さんとも協力していきたい」と語った。
基調講演
デジタル化を根付かせる、経営改革としてのMMDXの取り組み
2021年、創業150周年を迎えた三菱マテリアルの亀山満氏は、経営改革の一環として取り組みを加速している同社のDXについて紹介した。同社は20年、策定した中期経営戦略で、事業構造改革、ものづくり改革、人事制度改革、CX(コーポレートトランスフォーメーション:最適なグループ経営形態の追求)、DX(デジタルトランスフォーメーション)の5つを掲げた。DXについては、20年4月にはDX推進本部を設置。コロナ禍における市場動向調査、各部門の課題のヒアリング、顧客インタビューなどを行い、21のDXテーマを設定。顧客価値向上のための顧客接点強化、製品・サービスを高付加価値化するための製販などのプロセスの連携、リアルタイムのデータを用いた経営の意思決定のスピードアップに重点を置いた取り組みに着手している。
デジタルを根付かせるポイントとして、目的の明確化、強いリーダーシップ、データ、人の力の4点を強調。目的の明確化において例えば加工事業部門では、工具を提供するだけにとどまらず、顧客のデータを収集して適した工具を選定するなど、顧客の生産性向上に資するトータルソリューションサービスを提供すると説明。目指す未来像の動画を作成し、現場や関係会社と具体的なイメージを共有する、各DXテーマは経営陣がオーナーシップを持って推進する、データ活用のために社員にスキル教育を実施する、若手社員が役員にデジタルを教えるリバースメンタリングなど上下間や部門間のコミュニケーションを活性化させる取り組みを紹介した。「デジタルを使いこなせるようにするデジタルアダプションは重要」と語った。
事例講演
リスクを管理から、「共有する業務内容」に変えるには?
ユーザー数7100万人・投稿作品累計1億超クリエイタープラットフォーム ピクシブの取り組み
イラスト、漫画、小説などの投稿プラットフォーム「pixiv」をはじめ、世界中のクリエイターに対して創作活動がより楽しくなる場をつくるためのさまざまなサービスを提供しているピクシブの加藤隆彦氏は、同社のDXの取り組みや、SaaS(クラウドサービス型ソフトウェア)を使いこなすためのSaaS、Pendo(ペンド)導入検討の背景について説明した。
pixivユーザーは世界約230カ国・地域に広がり、新規登録の海外比率は約7割を占める。「成長の源泉は、変化する人を知ることにある」と、2019年からは、BI(ビジネスインテリジェンス)ツールをはじめ、各種SaaSを導入してDXの取り組みを加速。BIツールを普及させるため、使い方のドキュメント整備やサポートを徹底した。「導入半年で約9割の社員が使いこなせるようになり、データを根拠にしたコミュニケーションが社内に定着した。当社のDXの成功例といえる」と語る。
しかし、すべての導入システムに手厚い研修をするのは困難で、システムが備える機能と、社員が利用できる機能との間のコンサンプションギャップを埋めるには「実際に冷蔵庫の中身を見るように、現場の真のニーズを把握し、使いこなしを補助するソリューションが必要」だという。導入を検討するPendoは、そのためのソリューションで、「システムを使いこなして省力化することで、世界に挑む戦略を考える時間を確保できるようにしたい」と語った。
協賛講演
~ユーザー体験を底上げする~
ソフトウェアを「使いこなす」ためのソフトウェアとは?
「使い方を覚えなければいけないデジタルツールが多すぎる」と感じる従業員は多い。デジタル化に伴い、使わなければならないソフトウェアも増える一方だ。そこで注目されている「ソフトウェアを使いこなすためのソフトウェア」を提供するPendo.io Japan(ペンド・ジャパン)の高山清光氏は、導入したシステムを「絵に描いた餅にしない」ため、従業員のソフトウェア体験向上を訴えた。
ソフトウェア体験の改善には、ユーザーの利用状況を分析、ガイドを提供して利用体験を改善、ユーザーからフィードバックを得る――というサイクルを回す。Pendoの行動分析は、ユーザーのすべての行動データを収集し、後から分析したい対象を指定できる遡及分析を行えるため、分析対象を事前に検討しなくてもすぐに導入できるのが特徴だ。ガイド機能は、オンボーディング用のツアーガイド形式、新機能や会社側が使ってほしい機能に誘導するポップアップ表示などがある。全員一律ではなく、行動分析結果から、各従業員にカスタマイズしたガイドを提供するので、ガイドが過剰になる懸念もない。フィードバックの収集も、システム上でタイムリーに調査を行うので、精度の高い回答が期待できる。
Pendoは、SaaSベンダーのユーザー体験向上にも使われていて、ITレビューでも分析と定着の両方で高い評価を得ている。高山氏は「これからも、ソフトウェアは次々と新機能が登場するだろう。従業員が使いこなせるようにすることが、企業の競争力を左右する」と語った。
パネルディスカッション
パネルディスカッションでは、講演者2人が、ペンドジャパン高山氏の司会で、日本企業のデジタル化の遅れの要因、デジタルアダプションがもたらす効果について議論した。
三菱マテリアルの亀山氏は、縦割り組織など日本企業の体質が、連携を推進するデジタル化を遅らせる要因の1つとした。「DXは経営改革であり、トップのリーダーシップが必要。同質性の高い組織は変化が起きにくく、社外に学ぶことも意識すべき」と述べた。デジタルアダプションの手法は、ソフトごとの重要性や使用頻度で異なるはずで、まずは利用状況を可視化する必要がある。「システムは構築、運用を注視しがちだが、使いこなすことも大事だと改めて感じた」とまとめた。
ピクシブの加藤氏は「デジタル化は不便さを感じることから始まる。既定路線に疑いを持たないことがデジタル化の遅れにつながるのではないか」と指摘。従業員がソフトの操作でつまずく箇所を把握して、手当てをするデジタルアダプションにより、問い合わせに回答する手間をなくし、デジタル化による省力化も進んで生産性も高まるはずと期待。SaaS導入は「社内だけでは完結しない。使いこなすには利用事例の紹介や、アップデートも重要」とベンダー側にもサポートを求めた。
最後に、高山氏が「デジタルアダプションは、まだ耳慣れない領域だが、われわれも知見を蓄積したい。ユーザーが使いこなせるまで、ベンダーが責任を持つ文化を創造し、皆さんのDXに貢献する」と結んだ。