「自治体負担0で水力発電」ダイキンが尽力の理由

空調専業の技術が「地方活性」に一役買う仕組み

空調専業メーカーとして世界トップクラスのシェアを誇るダイキン。もちろん、空調機器の性能に関連する研究には長年、並々ならぬ力を注いできた。ダイキンのDNAを受け継ぎ、2017年に設立された子会社が「DK-Power」だ。同社が手がけるのは、なんと「マイクロ水力発電」。なぜダイキンから発電事業が派生したのか。その背景に迫ると、空調と向き合い続けるダイキンの底力が見えてきた。

「省エネから創エネへ」。空調の技術を生かす

ダイキン発の社内ベンチャーであるDK-Power。その設立には、1人の研究者の「省エネだけではなくエネルギーを創出する“創エネ”を考えたい」という強い思いがあった。DK-Powerの取締役社長、松浦哲哉氏だ。

学生時代、熱や電気を伝える物体の研究をしていた松浦氏は、研究をビジネスに生かしたいとダイキンに入社。素材の開発担当などを経て、エネルギーの研究に携わるようになる。

DK-Power
取締役社長
松浦哲哉

「当社の省エネに向けた技術開発は以前から盛んでした。ただ、エアコンをはじめ空調機器はエネルギー消費が大きいもの。今後海外でもさらに空調機器が普及していけば、その分エネルギーの消費も増えるという事実は変わりません。

私も研究を進めていくにつれ、これからは『脱炭素』『再エネ』の時代がくると確信するように。ダイキンの技術をエネルギーの創出に振り向けられないだろうかという思いを抱くようになりました。創エネに尽力することは、環境負荷の高い空調機器を扱うグローバル企業としての責務だと考えています」

そこで松浦氏が目をつけたのが、“街中での水力発電”だった。ダムに代表される水力発電は、水が移動する際の落差が持つエネルギーを利用して水車を動かし、水車につながる発電機を回転させて電気を生むという仕組み。これを、水道など既存の生活インフラを活用して小規模で行えるようにすれば、街の至る所でエネルギーを生み出せるというわけだ。

「水力発電は、天候や気候にかかわらず、水が安定的に流れる限り可能なため、24時間安定的に発電できるんです。まずターゲットにしたのは水道施設でした。国内の水道施設数は、浄水場や配水池を含めると約2万7000カ所。これらの施設から住宅に水を届けるまでの過程には、水力発電のチャンスが山ほどあります。逆に言うと、これまではそのチャンスを活用できておらず、再生可能エネルギーをみすみす捨ててしまっていたわけです」

環境貢献に留まらないマイクロ水力発電の大きな可能性

小規模でできる水力発電を実現し、これまでただ捨てていたエネルギーを活用して電気を生み出したい。この目的に合致していたのが、発電容量100kW以下の「マイクロ水力発電」だった。

早速、ダイキンが空調機器の開発で培ってきたモータ・インバータ技術をマイクロ水力発電に応用するべく、松浦氏の所属する研究開発拠点(TIC:テクノロジー・イノベーションセンター)でチームが立ち上がった。もちろん、水力発電を可能にするシステムは一から作らなければならない。そこでまず、社内の既存技術を応用した発電機の開発に着手した。

モータは通常、電気を流すと回転する。逆にこれを外部の力を加えて回転させることで、電力を生み出すことができるという仕組みだ。

「マイクロ水力発電のための発電機やシステムは、すでに世に存在しています。しかし機械が高額になるため導入コストが高くなり、普及が滞っていました。その点ダイキンには、空調専業として空調機の快適性と省エネ性を支える柱として築き上げてきた、高性能のモータ・インバータ技術という武器があります。モータ・インバータの性能は、発電効率を大きく左右する要の技術。当社製品のクオリティーには胸を張れます。逆に発電機を動かす水車は、一般に販売されている汎用の製品を使用。これにより低コストの発電システムを半年で完成させました」

ダイキンが長年技術開発に尽力し、モータの効率を突き詰めてきたことが、発電効率の高さにもつながった。この発電システムは、環境省からも高評価を受け「CO2排出削減対策強化誘導型技術開発・実証事業」に採択。同時に実用化に向けて自治体での実証実験もスタートしている。

環境負荷の少ない再エネで、かつ安定電源と見なされている水力発電は、買い取り価格が比較的高く設定されている。また、景観を壊さないことから、太陽光発電パネルの設置が難しい地域にもなじむ。これらを総合するとマイクロ水力発電は、環境への貢献はもちろん、再生可能エネルギーの収益化という意味でも合理的といえる。

自治体は費用負担なしで、マイクロ水力発電を導入し環境貢献できるビジネスモデル

一方、自治体水道局の業務は、水道インフラの安全を保持して、住民に安全な水を安定供給すること。発電という新事業への懸念を示すケースも少なくなかったという。

「自治体や水道局の負担を減らすため、設置工事や発電システムの運用・保守に関する初期コストはすべてDK-Powerが負担するというビジネスモデルを構築しました。つまり自治体は『場所と、水のエネルギーを貸すだけでOK』という状態。発電した電気を売電して、土地代や水の使用料を支払っています。

基本管理はデジタルで行っていて、何かトラブルが生じた際には遠隔で再起動できるシステムの開発にも取り組んでいます、こうした、絶対に水の供給を止めないための努力も、自治体から認められている理由の1つです。さらに、マイクロ水力発電システムの設備工事や保守は地元の企業に発注していますので、その意味でも地域貢献に寄与しています」

マイクロ水力発電を、地域経済活性化に

DK-Powerの設立以降、マイクロ水力発電は全国30カ所(契約済みのものを含めると46カ所)まで拡大。月間発電量は、50万kWh(2021年9月時点)に達した。これは、一般家庭約2000世帯の月間消費電力に相当する(※)。こうしたDK-Powerの活動は自治体からの評価も高く、環境の保全に資するとして、導入先の大阪府吹田市から表彰を受けた。

こうした取り組みを地道に実現してきたダイキンの底力について、松浦氏はこう語る。

「ダイキンはこれまで、空調の世界で必死に技術開発してきました。その源には『空調で、健康で文化的な生活を実現したい』というパーパスがあります。もちろん、省エネの技術開発にも力を入れてきました。長年、愚直に空調技術と向き合ってきたことが、マイクロ水力発電システムの開発につながったと思います」

現在はマイクロ水力発電のさらなる普及を目指し、松浦氏の古巣であるダイキンの研究施設・TICとタッグを組み、6名の技術者が発電システムの小型化に挑んでいるという。小型化が進めば、設備全体の規模を縮小できるため、導入対象がぐっと広がる。

「マイクロ水力発電から配電網を敷くことができれば、災害時の電力供給源としても使える可能性があります。今より、もっと暮らしへの安心感が高まるはず。また“使う電力”だけでなく“売る電力”として収益化することで、経済循環にも役立ちます。マイクロ水力発電で得た収益で新しいビジネスをつくり、地域経済を潤わせていきたい。私の目の黒いうちに実現できるかどうかわかりませんが、そんな未来を描いています」

次のステップとしては、マイクロ水力発電を起点とした地域経済循環を狙う

そう未来を語る松浦氏。続けて、こんな本音をのぞかせてくれた。

「地方から大都市への人口流出は止まらず、地域はどこも疲弊することしきり。こんな状態を続けることが本当にいいのか、疑問に思うんです。最近はテレワークが浸透し、地方移住や多拠点生活を始める人も出てきました。でも、地方にビジネスがなかったり経済が落ち込んでいたりすると、躊躇してしまう現実がある。私たちの事業が、この現状を変える一助になればと思っています」

ダイキンの技術力が電力の分野にまで広がり、地域経済の動力になる。マイクロ水力発電が、環境だけではなく日本社会のアップデートに役立つまで、そう遠くなさそうだ。

>マイクロ水力発電のビジネスモデルについて、詳細はこちら

※一般家庭の月間消費電力=260kWh/月と換算した場合

マイクロ水力発電 導入事例(大阪府豊中市)
 

地下ピット内に据え付けられている、2台のマイクロ水力発電機

大阪府豊中市の野畑配水場では、2021年7月からマイクロ水力発電所の稼働がスタートした。同市は環境対策に積極的で、20年には国から「SDGs未来都市」に選定されるなど、その活動が認められている。とりわけ上下水道局は、事業そのものがSDGsの理念と深く関わることもあり、以前から寺内配水場での小水力発電や柿ノ木・新田配水場での太陽光発電を行うなど、再生可能エネルギーを積極的に活用してきた。新たな配水場での再生可能エネルギーの活用を模索する中で、技術力の向上に伴って、より小規模な配水場などでもマイクロ水力発電を導入している他事業体の事例があることから、耐震工事が完了した野畑配水場への導入の可能性が高まった。

地上のパネルで、稼働状況の確認や調整をする

そこで、20年6月に事業者を公募。最優秀提案者として、DK-Powerの選定に至る。DK-Powerのマイクロ水力発電設備は静音設計に加え、非常にコンパクトで地下への設置により発電による騒音対策もでき、住宅地に立地する野畑配水場に最適だった。今後も市内の別施設での導入も含め、さらなる再生可能エネルギーの活用を検討している。低炭素社会や循環型社会の構築に向け、マイクロ水力発電に期待が寄せられている事例だ。

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