オリエンタルホテルズ&リゾーツが挑む次の一手 新たなホテル戦略「コ・クリエーション」とは?

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ホテルマネージメントジャパンが、今年新たに立ち上げたホテルチェーンブランド「オリエンタルホテルズ&リゾーツ」の展開を本格化させている。かつて神戸旧居留地にあった名門「オリエンタルホテル」の存在価値と精神を受け継ぐべく、全国に広がる16拠点の「オリエンタル」および独立系ブランドの再構築とチェーンオペレーションの統一を進めることで戦略的な取り組みを打ち出している。その具体的な戦略とは何か。同社代表取締役の荒木潤一氏に話を伺った。

緊縮運営から、強みを生かす中長期戦略への転換

ホテルマネージメントジャパンは、オリエンタルホテルを中心としたホテルチェーンブランド「オリエンタルホテルズ&リゾーツ」ほか、「ヒルトン」「ホリデイ・イン」など全国で22拠点、6730室の多種多様なホテル経営を行っている。同社ではホテル従業員のほとんどがグループ社員であるため、人事異動をはじめ、個人のキャリアが形成しやすく、多様なビジネス構造を持つホテル業界の中にあって、中長期的な視点で人材の育成や戦略を立てられることが大きな強みとなっている。

10月1日にリブランドオープンした「オリエンタルホテル 沖縄リゾート&スパ」

「コスト削減は、結果がすぐに出る重要な戦術ですが、魅力を創造する投資こそ、他社と差別化が可能なホテルビジネスの根幹だと考えています。ただ、これは簡単なことではありませんし、今はコロナ禍で非常に厳しい状況に直面していることも事実です。しかし、私たちは将来の競争優位性を維持していくためにも、長期的な視点に立って、オペレーションの効率化と独自性のあるホテルチェーンブランドを構築していくことで、本来のホテルの魅力や価値を改めてお客様に浸透させていきたいと考えているのです」

ホテルマネージメントジャパン
代表取締役
荒木潤一

そう語るホテルマネージメントジャパン代表取締役の荒木潤一氏は、新卒で流通大手に入社。その後ホテル業界に転じ、国内ホテルの総支配人など重職を歴任した後、2018年に同社運営本部長に就任。20年から現職を務めている。

「流通業界で培った消費者に貢献するという経験や考えを基に、ホテル業界で一貫してお客様に貢献することを目指してきました。今回、立ち上げた新たなホテルチェーンブランド『オリエンタルホテルズ&リゾーツ』でも、昔から国内外のお客様から親しまれてきた神戸の名門ホテルブランドの冠にふさわしい体制に再構築していきたいと考えています」

世界的拡大を続ける「レジャーニーズ」を捉える

だが、コロナ禍もありホテルを取り巻く環境は、実際厳しいことも事実だ。近年はホテルの存在意義自体を見つめ直す必要があるともいわれる。なぜなら、昔と比べ一般消費者の生活の質が大幅に向上、中途半端な高級化路線では差別化しにくいという側面がある一方で、低価格競争の中で泊まることを主な目的としたホテルチェーンも増えたことにより、二極化が進んでいるからだ。そうした中で、その突破口となるものは、別の視点にあると荒木氏は言う。

「コロナ禍以前のインバウンド現象にも見られるように、レジャーニーズは世界的に広がっていることを忘れてはなりません。日本の周辺には中国や東南アジアをはじめとした、莫大な潜在的インバウンド需要が広がっています。コロナ禍が収束すれば、確実に彼らのレジャーニーズは顕在化していくでしょう。さらにその需要は進化しています。有名な観光地を訪れたり、買い物をするだけではなく、その地の文化や暮らし、そこに根差す人を知りたい、接したい、そうしたニーズに応えていくためにも、私たちは、地域を巻き込んだ独自のディスティネーション、いわば、独自性のある滞在体験を提供する準備が必要だと考えます」

その中心的な役割を果たすべく誕生したのが、新ホテルチェーンブランド「オリエンタルホテルズ&リゾーツ」だ。「オリエンタルホテル」は、港町・神戸の旧居留地に1870年にできた日本最古級の西洋型ホテルだ。長らく、かの地で名門ホテルとしての歴史を刻んできたが、1995年の阪神・淡路大震災で倒壊。その後継として神戸のメリケンパークに生まれたのが、「神戸メリケンパークオリエンタルホテル」である。

“関係人口”で共創「コ・クリエーションホテル戦略」

そこで新たな戦略として生まれたのが「コ・クリエーションホテル戦略」である。「共創」を意味するこの戦略は、「地域に関連する人々と新しい価値を創る」ことを目指している。そして、その実現のために重要になってくるのが“関係人口”だ。荒木氏は続けた。

「私たちは、ホテル周辺の地域の定住者や、ほかのホテルだけでなく、その地域にルーツを持つ人、企業など関連する多様な人たち=“関係人口”を巻き込み、共に新たな地域の価値を創造していくことを考えています」

「ホテルは地域観光の玄関口としての役割を果たしていますが、私たちが有している場所や機能、人とのネットワークを地域の多くの方々と率先して共有し、提供していくことで、地域の魅力を創造していきたい。お客様が求めているものを地域とともに開発し、地域の魅力を創造していくことで、ホテル業を通じた社会貢献を成し遂げたいと考えています。それこそがホテル業の根幹だとも考えているのです」

例えば、地域に魅力的な観光資源があるのに生かされていない状況があれば、ホテル側から地元地域の自治体やマスコミ、関係先に働きかけて状況を改善していく。あるいは、地域で新しい商品開発をするのであれば、ホテルの人材や取引先を紹介し、協力していく。つまり、自らも地域の一員として、地域と一緒になってエリアの発展に貢献していくのだ。それと同時に、地域に根差した人材を擁するホテルオペレーターとしての強みを発揮していくことで、地域とともにホテルの魅力を向上させていくという狙いがある。

「オリエンタルホテルを中心として、ホテルや地域の誰もが仕事や体験に参画・貢献できるチャンスがあり、従業員と地域がお互いにアイデアを出し、貢献し合い、人生の糧となる本物の価値を生み出せる。そんなホテルチェーンブランドにしたいと私は考えているのです」

ホテルだから可能に。地域と共に成長し貢献すること

すでに、プロジェクトは結実しつつある。その第1弾といえるのが、オリエンタルホテルズ&リゾーツが取り組む「神朝プロジェクト」だ。神朝プロジェクトは、「迎える朝が楽しみな体験」を、ホテルを中心に地域共同で考えるプロジェクトだ。神戸メリケンパークオリエンタルホテルでは、このホテルでしかできない「きれいな朝日が眺められる」「天気のいいバルコニーで朝ヨガができる」「最高の朝食がある」といった体験を基に「日本一楽しめる朝」を提供する。このプロジェクトでは、地元・神戸市西区にある流通科学大学の学生や、神戸メリケンパークオリエンタルホテルの従業員がアイデアを発案、彼らが中心となって、企画に興味を持つ地域住民や地元企業を巻き込んで共同プロジェクト化された。今後、神戸だけではなく、全国のホテルチェーンブランドで「神朝プロジェクト」を展開予定だ。2021年10月にリブランドオープンした「オリエンタルホテル 沖縄リゾート&スパ」でも、世界自然遺産登録が決定した「やんばるの森」を観光客とともに“守る体験”ができるプロジェクトを予定している。

神戸の流通科学大学の学生と、「神朝プロジェクト」打ち合わせの様子

同社ではこのほか、神戸メリケンパークオリエンタルホテル内に神戸の夜景をパノラマで楽しめ、一流の音楽とお酒を楽しめるバー「VIEW BAR」をオープンしたり、神戸を代表するライブハウス「チキンジョージ」とパートナーシップを組み、神戸で活躍するミュージシャンの音楽を提供したりするなど、ホテルの集客と地域貢献を同時にできる取り組みも行っている。

「VIEW BAR」のカット。夜景だけではなく、音楽にもお酒にもこだわった空間だ
神戸メリケンパークオリエンタルホテルの室内写真。スタイリッシュにまとめられている

こうした従来にない発想で新たなホテル集客戦略を繰り出すオリエンタルホテルズ&リゾーツ。荒木氏は今後の展開の方向性について、次のように語る。

「国内の都市間競争が増す中で、集客が望める観光資源の再構築は主要自治体にとっても急務となっています。例えば、ゴルフツーリズムなども、そうした資源になりうるでしょう。そうした中、私たちは、ホテルが関係する地域と、ホテルの機能や場所、ネットワークを提供していくことで、相互にウィンウィンの関係を築く仕組みを全国でつくっていきたい。それは同時に、地域に根差したホテル業に携わる、従業員のモチベーション向上にもつながっていくと思っています。私たちはこれからも積極的に地域と共に成長し、貢献していくことで、日本の観光産業の底上げの一翼を担うホテルオペレーターになっていきたいと考えています」

オリエンタルホテルズ&リゾーツの「神朝体験」とは?

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