人生100年時代に求められる医師の人間力とは コロナ禍で生じた医学部受験生の心理の変化

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2020年の日本人の平均寿命は女性が87.74歳、男性が81.64歳となり、ともに過去最高を更新した。高齢化が進む一方、労働人口は減少に転じており、医療や福祉の担い手の確保は今後の大きな課題になるだろう。人生100年時代に向けて、これからの医療や医師はどうあるべきか。また現場を支える人材をどのように育成すべきなのか。東京医科大学学長の林由起子氏と、医系専門予備校メディカルラボで東京統括校舎長を務める渡辺裕志氏に、医療教育について語り合ってもらった。

――人生100年時代に向けて、医療のあり方はどう変わるとお考えですか。

東京医科大学
学長
林由起子氏

 これまでの医療は、患者さんが病気になってから病院に来て、治療を受けてまた社会に戻っていくという流れでした。しかし、高齢化社会では、健康寿命の長さ――いかに健康で元気に長寿を全うするか――が社会的に重要となります。そうした時代においては、患者さんが病院に来るのを待つ医療だけでは不十分です。しっかりと予防し、早期に発見、診断、治療することに加え、福祉・介護の領域まで幅広く医療が関与することで、「健康でイキイキした生活」を支えられるものになっていくと思います。

一方、高齢者を支える側の人口は減少していきます。医療現場も生産性を高めるべきだという議論がありますが、医療は一人ひとりのニーズに寄り添って提供されなければなりません。そう考えると、生産性という言葉はなじまず、人生100年時代の社会を支えるには、十分な数の医師や医療従事者が必要となるでしょう。

メディカルラボ
東京統括校舎長
渡辺裕志氏

渡辺 林先生のお話をうかがって、確かに、これまでは病気になったときだけ病院に行く「点」の医療が中心でしたが、今後は福祉まで含めた「線」としての医療が重要であると感じます。例えば、老人福祉施設などの介護の現場では、医療に携わる人との連携する動きが益々重要であると考えています。新型コロナウイルス感染症にしても、医師だけではなく、保健所や行政機関が連携して対応していることを目の当たりにしました。

健康寿命を考えても、医療と福祉の連携がより重要になります。先に挙げた老人福祉施設では、看護師ができることには法的に限界がありますが、医師と看護師、福祉に従事する方の連携をより強くしていく必要があるのではないでしょうか。

医師が向き合うのは「病気」ではなく「人」

――医療現場でもICTやAIの活用が広がっています。今後、医師として求められる資質やスキルも変化していくのでしょうか。これからの理想の医師像について教えてください。

 AIを活用した画像診断で病気をより正確に診断したり、遠隔診療で過疎地域に医療を届けやすくするなど、デジタル技術の進展によって新しくできることが増えてきました。また、サイエンスの分野でも、細胞を使った医療など新しい治療法が出てきています。医師はこうした新しい技術について、情報を正しく理解したうえで柔軟に活用していく必要があるでしょう。

ただ、新しい技術やサイエンスを活用しつつも、医療は人と人のつながりが大切です。データや画像は見るけれど、患者さんを診ないという態度ではだめなのです。医師に欠かせないのは、生命の尊厳や、人を大切にするといった倫理観と人を診る力です。倫理観や診る力は、医療の勉強だけをしていても身に付きません。さまざまな人と接して、幅広い知性を身に付けることが大切です。

渡辺 メディカルラボでは、医師になってから、5年後10年後に自分がどのような医師になって活躍しているかを生徒に書いてもらうことがあります。すると、一部の生徒は「ひたすら研究がしたい」「経済的に豊かになりたい」といった、人を診ない医師像を描くことがあります。逆に言うと、多くの生徒は、医学部に入る前から患者さんと向き合うことをきちんと意識できている。これはすごいことです。

 医学部に入るためには、「医師になりたい」という強い思いが欠かせません。そして、医療職は人の命に直接関わる責任の重い職業。ときには、生死にかかわるギリギリの判断をしなければならないこともあります。そうしたシビアな場面は、「患者さんと一緒に病と闘うぞ」という強い気持ちがないと乗り越えられません。東京医科大学は「患者とともに歩む医療人を育てる」をミッションに掲げていますが、まさに患者さんに寄り添う強い思いのある人に、医師を目指してほしいですね。

渡辺 実はコロナ禍で医療現場の大変な様子が繰り返し報道されたことで、医師を志望する生徒が減るのではないかと心配していました。ところが、実際は志望者が増えました。それだけではありません。それまで志望動機が漠然としていた生徒も、メディアの報道を通じて医療現場が身近になったせいか、「こういう医師になりたい」という具体的に将来の医師像を持てるようになってきた。とてもいい傾向だと思います。

くじけそうなときは「何のために医師になるのか」に立ち返る

――患者さんと向かい合う医師を育てるには、どのような教育が必要ですか。

 東京医科大学では、入学後すぐに早期臨床体験実習を行うなど、1年生から臨床の現場に触れてもらう機会を設けています。人間力を高めるという点では、「自己と他者」「社会の中の医療」「医療倫理」の3つをテーマにした「人間学」のプログラムを提供しています。これまでもそれぞれ対応する科目授業はありましたが、低学年から通年で学べる統合的なプログラムに組み替えたことで、「能動的に考える力」を育てています。

そして、自主性を重んじる教育も本学の特徴です。医療現場では自分で考え、判断して、行動することが大切です。そうした力を養うため、低学年から自分が興味のある研究室に所属して自主研究に取り組むことができるなど学生の「おもしろそう」「やってみたい」という気持ちを尊重するプログラムを用意しています。

また、単科大学なのでキャンパスは広くありませんが、その分学生と教員の距離が近く、自然とコミュニケーションが生まれ、人間力が育まれる環境があるともいえます。

渡辺 私たちメディカルラボは生徒一人ひとりに合わせた個別の受験戦略を準備し、1対1の授業を通じて合格のサポートをしています。その意味では、与えられた課題をこなすことで成績が伸び合格できるようなメソッドを提供しているのです。もちろん、与えられた課題をこなすだけでも大変です。

実際、生徒から「勉強がつらい」と相談を受けることもよくあります。そのときは、「あなたは、どうなりたいのか」と問いかけて一緒に考えるようにしています。医師になる、あるいは受験勉強をするというのは、あくまでも手段です。何のために医師を目指しているのかという想いを確認してあげると、また目標に向かって頑張っていけます。

私たちができるのは、ここまで。林先生が指摘されたように医師は自分で考える力が必要で、答えのある勉強から答えのない問題へのシフトチェンジは大学に入ってからになります。実際、大学での勉強はこれまでとは違うと生徒も感じており、自主性を大事にするとともに、判断のベースになる人間教育に力を入れている東京医科大学さんの人気は高いです。

 試験さえ合格させればいいという姿勢ではなく、医師を目指す動機や将来の医師像にまで踏み込んできめ細かく指導されているのは、大学としても本当にありがたいですね。医師という仕事はとても責任の重い仕事です。だからこそ、やりがいがあり、責任を全うするために生涯勉強し続けなくてはなりません。自ら学びを続けられるように医師になった後もフォローを続けながら、次代を担う医療人を育てていきたいと思います。

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