メルカリ「本人確認」にマイナンバーカード活用 メルペイ取締役に聞く、いち早く始めた理由
数日かかっていた本人確認作業が数十秒で可能に
EC市場の発展に伴い、電子決済サービスも急成長している。一方で、本人確認の不十分による不正利用も発生し、社会問題となった。
フリマアプリ大手のメルカリ傘下でキャッシュレス決済サービスなどを提供するメルペイは、いち早く悪用防止策に取り組み、口座登録時や初回入金時にスマートフォン(スマホ)で顔写真を撮影するといった本人確認を必須とした。
だが、課題がないわけではない。メルペイ 取締役CTOの曾川景介氏は次のように話す。「一般的な『eKYC(electronic Know Your Customer)』と呼ばれるオンラインの本人確認方法では、運転免許証などの身分証を用意したうえで、顔写真などをスマホで撮影して送っていただきます。当社も同じ方法を採っていましたが、ユーザーには一定の手間がかかりますし、本人確認審査終了までに数時間から数日を要していました」。
さらに、最近では若い人の間で運転免許証を持たない人も増えている。もっと便利で確実な本人確認の方法はないかと模索していた曾川氏が注目したのが、マイナンバーカードの活用だった。
「マイナンバーカードは、内蔵されたICチップに公的な個人認証サービス(JPKI)の電子証明書が搭載されています。データの改ざんによるなりすましを防ぐことができることに加え、NFCと呼ばれるICカードリーダーを備えたスマホであれば、マイナンバーカードをかざし、暗証番号を入力するだけで本人確認ができます」
メルペイは2021年3月にマイナンバーカードを使った本人確認を開始した。「iOS」「アンドロイド」いずれも対応可能で、ICカード読み取り機能を備えたスマホがあれば、暗証番号を入力し、マイナンバーカードを近づけるだけでよい。
「写真撮影が不要になったことで、判定を含めて数十秒で本人確認作業が完了できるようになりました」と曾川氏はその効果を紹介する。ユーザーの利便性が向上するだけでなく、決済事業者としてのメルペイにとっても、コスト削減や不正防止などさまざまなメリットがあるだろう。
マイナンバーカードを活用した本人確認を開始してから半年余り。ユーザーの反応はどうだろうか。「当社では、運転免許証による本人確認の導入の際にも、ユーザーにヒアリングを入念に行いましたが、今回のマイナンバーカードでも同様です。不安に感じるユーザーもいましたが、導入後は『便利になった』と評価する声が多いですね。新しいものを積極的に活用することを大事にする会社でもあるので、今後もさまざまなサービスでマイナンバーカードを活用し、より安心で簡単な本人確認を実現していきたいと考えています」と曾川氏は語る。
社会インフラとしてのマイナンバーカードの広がりに期待
マイナンバーカードの交付が開始されたのは16年1月のこと。それから5年余りが経つ今、メルペイがマイナンバーカードの活用を決めたのにはどのような背景があったのか。
「1つの理由はやはり、普及率が向上してきたことです。そして、スマホを利用してICカードを読み取ることができるようになった影響は大きいですね」と曾川氏は語る。
同社が本人確認にマイナンバーカードを活用し始めた21年3月1日現在の普及率(人口に対する交付枚数率)は全国で26.3%になっていた。9月1日現在ではさらに37.6%にまで上昇している。
また、総務省は今年8月6日、マイナンバーカード取得者※1に最大5000円分のポイントを還元するマイナポイント事業について、ポイント還元を受けられる期間を当初の事業期間(21年9月末まで)から12月末まで3カ月延長すると発表した。
こういった追い風が普及率の向上に貢献しているといえるが、政府は22年度末までにほぼすべての国民が保有することを目標にしている。さらなる普及の拡大のためにはどのような取り組みが必要なのか。曾川氏は次のように持論を語る。
「運転免許証も国民全員が持っているわけではありません。逆に高齢者で返納している人もいます。一方でスマホ決済のように便利なサービスは、世代を超えて一気に広がる可能性を秘めています。民間も含め、さまざまなサービスがマイナンバーカードを用いてできるようになることで、『マイナンバーカードを持ちたい』と思う人も増えてくるでしょう」
政府はマイナンバーカードの健康保険証としての利用を進めているほか、運転免許証との一体化も検討している。住民票の写しや印鑑登録証明書などをコンビニで簡単に入手できることなどはすでに実現されている※2が、これまでにない新たなサービスも生まれそうだ。メルペイの取り組みは、これらを先取りしたものといえる。
曾川氏は「マイナンバーカードはこれからの時代のための、一種の新しい社会インフラです。多様な企業がこのインフラを活用したビジネスに参入することで、付加価値の高いサービスが生まれ、日本のビジネスを活性化させるでしょう。私たちもその一助になりたいと考えています」と語る。
その相乗効果としての、マイナンバーカードのさらなる普及にも期待がかかる。
※2 利用できるサービスは、各市区町村によって異なります