NRIの肝煎り「DX3.0」と日本社会の未来

社会課題の解決へ、具体策はもう始まっている

デジタルにより既存の業務プロセスの生産性を高めたり、デジタルだからこそ可能な新しいビジネスモデルを生み出していく――。多くの企業がこうした狙いの下でDXに取り組んでいるが、目指すべきゴールはまだ先にある。社会課題の解決に向けた「DX3.0」だ。企業は、なぜ社会課題に取り組むべきなのか。そして、どのようなやり方で進めるべきなのか。すでに顧客と一緒に新しい挑戦を始めている野村総合研究所に、その現状と未来について聞いた。

実に約95%の企業がDXに乗り遅れている現状

もはやDXに背を向けている企業は少数派だろう。働き方改革やコロナ禍への対応もあり、多くの企業がデジタル活用なしには業務を続けられない状況になっている。しかし、その進捗には濃淡がある。経済産業省「DXレポート2(中間取りまとめ)」(2020年12月28日発表)によると、DX推進指標の自己診断に取り組み、結果を提出した企業の中でも、約95%の企業はDXにまったく取り組んでいないか、取り組み始めた段階にとどまっている。

野村総合研究所 専務執行役員
DX担当
システムコンサルティング事業本部 副本部長
NRIデジタル 取締役会長・CEO
増谷 洋

なぜDXが進まないのか。NRI(野村総合研究所)専務執行役員DX担当の増谷洋氏は、「組織、人材、スピード。企業にはこの3つの壁が立ちはだかっている」と指摘する。

人材の壁は、高いデジタルスキルや経験を持った人材がいないこと。スピードの壁は、計画ありきのウォーターフォール型から、仮説を立てて走りながら修正していくアジャイル型にシフトできていないことを指す。そして、最も高くそびえるのは組織の壁だ。

「DXの要諦は、『D=デジタル』より『X=トランスフォーメーション』の部分にあります。業務プロセスを単にデジタルに置き換えるだけでなく、ビジネスモデルを一から変えていくことこそがDXです。しかし、こうした変革は部署間をまたぐため、現場に丸投げでは組織の壁にぶつかって頓挫しやすい。組織の壁を乗り越えるには、経営レベルで戦略を立てて、トップが強く関与して進めることが大切です」

DXを進めるには、経営層がデジタルを経営の課題として捉え、ビジネスや組織の変革も含めてビジョンを描く必要がある。それができてこそ、DXが自社の成長エンジンになっていくのだ。

シンクタンクとシステム開発会社2つのルーツを持つ強み

現場目線でITを活用するだけでなく、経営やビジネスモデルを俯瞰的にわかっていないと、DXは進まない。その点で頼もしいパートナーがNRIだ。

NRIは、1965年に日本初の本格的な民間総合シンクタンクとして誕生した「野村総合研究所」と、その翌年に設立された「野村コンピュータシステム」が、88年に合併して誕生した。

最大の特長は、ルーツとなった両社の強み――シンクタンクの提言力やコンサルティング力と、システム開発会社の技術力――を組み合わせた「コンソリューション」(コンサルティング×ITソリューション)というビジネスモデルだ。単に受注開発するだけのシステム開発会社では、ビジネスモデルや業務プロセスの変革を伴うDXは提案できない。かといって提案するだけのコンサルティング会社では、どんな立派なビジョンも絵に描いた餅で終わりかねない。経営の課題に寄り添って未来の絵を描くと同時に、実装に向けて一緒に汗をかく。そこにNRIの強みがある。増谷氏は、合併当時をこう振り返る。

「私は合併翌年の入社。当時の私はシンクタンクとシステム開発会社の合併について新鮮さと可能性は感じていましたが、トップは『狙いは30年後にわかる。コンサルとコンピューターは将来、切っても切り離せない関係になっている』と力強く説明していました。30年経って、いま実際に世の中はそうなっている。鳥肌の立つ思いです」

共同事業やジョイントベンチャーで他社との共創も推進

NRIの強みはほかにもある。顧客との並走力だ。もともとシステム開発・運用の受託者として長期的・継続的な顧客との関係構築は得意だが、近年はJALとの共同事業「どこかにマイル」や、DMG森精機との「テクニウム」、野村ホールディングスとの「BOOSTRY」などのジョイントベンチャー(JV:合弁企業)設立といった、受託者ではなく事業を共創するパートナーとなる動きを積極化している。

「JVの設立は、お客様と同じ船に乗り込むということ。私たちの持つ力すべてを船に持ち込み、一緒に事業を立ち上げ成長させることで、共に栄えていくことに強くコミットしたいと考えています」

外部と多様なパートナーシップを構築しているNRIだが、2016年にはNRI内部でも大きな動きがあった。デジタルビジネス専門の戦略子会社「NRIデジタル」の設立だ。

「コンサルタントやエンジニア、データサイエンティストなどのプロフェッショナルを集めて、ワンチームでスピーディーにコンソリューションを提供できる小回りの利く組織をつくりました。設立から5年経った今では400人を超える規模に成長しましたが、「事業テーマ×提供機能」のマトリックス組織で運営しており、テーマに応じてふさわしい人材をアサインしてチームをつくることが可能です」

NRIデジタルがユニークなのは、従来型のシステム開発人材とは異なる、異能人材を積極的に採用している点だ。スピード感のあるDX実現に貢献できるフルスタックエンジニアはもちろん、重視しているのは事業会社などで新規事業開発をリードした人材。

「異能人材をそろえることで、お客様の『人材の壁』も乗り越えられます。NRIデジタルで成功例を積み上げることで、NRI本体でも異能人材の活用がやりやすくなるでしょう」と増谷氏は期待を寄せる。

NRIデジタル
2016年8月設立。デジタルを活用して顧客企業の事業変革をスピーディーに実現するために、さまざまな専門性を持つDXプロフェッショナル人材を集約した組織。デジタルビジネスコンサルティング、デジタルITソリューション、デジタルアナリティクスの3つのサービスを提供し、デジタル化戦略の構想から、先端ITソリューションの選定・構築、事業の実行支援、プロジェクト全体の検証・改善に至るまで、顧客企業のDXをトータルに支援している。

社会課題はどれも1社だけでは解決できない

こうした強みを生かして、現在、NRIおよびNRIデジタルでは新しいコンセプトに挑戦している。社会のパラダイムを変革する「DX3.0」だ。例えばデジタルの力を使って、カーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーを実現したり、フードロスを減らすといった取り組みがこれに当たる。

これまでNRIは、既存の業務プロセスを変革する取り組みを「DX1.0」、デジタルで新たなビジネスモデルを構築するDXを「DX2.0」と位置づけてきた。冒頭に紹介したようにどちらもまだ途上の企業が多いが、なぜその先の「3.0」を打ち出したのか。

旧野村総合研究所の設立趣意書(1962年)

「旧野村総合研究所の設立の狙いは『産業経済の振興と一般社会への奉仕』でした。NRIグループの根底にはもともと、『社会課題の解決』という理念があるわけです。今掲げているNRIグループのミッションもこの流れを継いで、『新しい社会のパラダイムを洞察し、その実現を担う』というもの。

そして今、持続可能な社会をつくるために、大胆なパラダイムシフトが求められているのは明らかです。行政による法律・制度の整備と事業会社による経済活動がセットにならないと、変革は根付かないと考えています。私たちはデジタルの力を使ってそれを後押ししたい。そのためにはDX1.0、DX2.0のさらに先、『DX3.0』という発想が必要だと考えました」

すでに具体的な取り組みもスタートしている。今年7月にコマツ、NTTドコモ、ソニーセミコンダクタソリューションズ、NRIの4社共同で、新会社「EARTHBRAIN」を発足させた。これまでコマツが提供していたスマートコンストラクションを高度化させて、建設現場をデジタルで可視化し、安全性、生産性、環境性の向上を図っていく。増谷氏は「機械の稼働率を高めたり寿命を延ばしたりすることは、CO2削減や省資源化にも貢献する」と解説する。

このような取り組みが従来と異なる点がもう1つある。複数の企業が参画していることだ。

「社会課題の解決は、1社だけではできません。多くのプレーヤーを巻き込み、みんながメリットを得られる形でエコシステムをつくってこそ、社会にインパクトを与え、かつ持続的な仕組みになるんです。NRIも1社だけでは社会に変革を起こせない。ぜひ皆さんと一緒に『DX3.0』という未来に向けて、価値を共創していきたいですね」

業界をまたぐ取り組みでは、NRIが旗振り役を担いイニシアチブを取っていくこともあるだろう。社会課題の解決に向けた、NRIのリーダーシップに期待が寄せられる。

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