大手ゼネコン「13年前の技術」が再注目の理由

脱炭素から炭素を活用する「活炭素」時代へ

CO2-SUICOMを一部採用した住宅(Brillia ist 中野セントラルパーク)
地球温暖化が世界的な課題となり、日本政府は2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにするカーボンニュートラルの実現を宣言した。これを受けて各企業がCO2排出量の削減に向けたさまざまな取り組みを行う中、大手ゼネコンの鹿島建設が開発したコンクリート技術「CO2-SUICOM®」に注目が集まっている。作れば作るほどCO2を吸収するという植物のようなコンクリートの開発秘話に迫る。

今年5月、2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする目標を明記した改正地球温暖化対策推進法が成立し、脱炭素社会の実現に向けて、官民を挙げた取り組みがスタートすることとなった。

こうした動きに合わせ、大手ゼネコンの鹿島建設では、環境と経済が両立する持続可能な社会の実現を目指す「鹿島環境ビジョン:トリプルZero2050」を打ち出した※1

これは、持続可能な社会を「脱炭素」「資源循環」「自然共生」の3つの視点で捉え、50年までに達成すべき将来像を「Zero Carbon」「Zero Waste」「Zero Impact」と表現したものだ。自社排出CO2を30年度に50%削減し、50年度に100%削減するという数値目標を中期経営計画に明記した。

同社執行役員 土木技術部長の坂田昇氏は次のように語る。

鹿島建設 執行役員 土木管理本部 土木技術部長 坂田昇氏

「建設業に直接カウントされるCO2排出量はそれほど多くありませんが、セメントや鋼材をはじめ、建設資材の製造過程におけるCO2排出量が非常に多い。われわれには建設資材を使っている責任があるので、それらを含めたカーボンニュートラルを実現したいと考えています」

同社は、各種建材や施工方法など、さまざまな角度から環境負荷の低減に取り組み、中国電力、化学品メーカーのデンカ、プレキャストコンクリートメーカーのランデスと開発したのがCO2吸収型コンクリート「CO2-SUICOM(シーオーツースイコム)」(以下、スイコム)である。

従来のコンクリートは、セメントと水、骨材(砂利、砂)を混ぜ、硬化させて作るのだが、セメントの製造過程で大量のCO2が発生してしまうことが長年の課題となっていた。

スイコムは、コンクリートがCO2を吸収・固定することで、トータルの排出量ゼロ以下を実現。製造中に文字どおり、CO2を吸い込む。つまり、作れば作るほどCO2を低減する植物のようなコンクリートというわけだ。

作れば作るほどCO2が少なくなる「活炭素」コンクリート

スイコムは、セメントの代わりに高炉スラグや石炭火力発電時の副産物である石炭灰を用いて、使用するセメント量を削減している。また、CO2と反応して硬化する特殊な混和材「γーC2S」をセメントに置き換えて、コンクリートにCO2を吸い込ませることで、トータルの排出量ゼロ以下を実現。 

これに対し、同社らで開発した高炉スラグを大量に用いた環境配慮型コンクリートECM®(エネルギー・コスト・ミニマムコンクリート)の技術を応用して、さらなるセメント量の低減を図っている。

加えて、炭酸カルシウムをコンクリートに大量に用いる技術※2によって、高アルカリ廃水が原材料の炭酸カルシウム「エコタンカルTM※3」を大量にコンクリートに活用できる。

こうした技術を複合的に活用することで、一般的なコンクリートのCO2排出量が288㎏/㎥であるのに対し、約350㎏/㎥のCO2を削減できる。つまり、1㎥当たり約60㎏のCO2を大気中から削減・固定化できる試算となる。

「杉の木1本が1年間に吸収するCO2が約14㎏なのに対し、1㎥のスイコムを製造した場合のCO2削減量は約18㎏です。脱炭素はCO2をできるだけ出さないようにするという考え方ですが、スイコムでコンクリートを作れば作るほど大気中のCO2が少なくなる。脱炭素に取り組む企業は建設業界にもたくさんありますが、CO2を活用する、“活炭素”の取り組みを行っているのはわれわれだけです。業界全体を牽引できるよう、今後も積極的に取り組んでいきたいと考えています」(坂田氏)

CO2削減に向け「オールジャパンで革新的な技術を」

スイコムの開発の源流は20年ほど前にさかのぼる。同社では当時、コンクリートの耐久性を高める研究を行っており、その中で着目したのが、中国の遺跡で発掘された5000年前の、現代のコンクリートに似た構造物だった。

調査してみると、従来コンクリートに悪影響を与えるといわれていた炭酸化に、耐久性を向上させる効果があることがわかった。炭酸化で表面が緻密になり、水が内部に浸食しなくなるため、耐久性が維持されていたのだ。同社は、この調査結果を基に長寿命化コンクリート「EIEN®」を開発した。

一方で、CO2を吸収する特徴にも注目し、環境負荷低減コンクリートを開発するというアイデアが生まれた。その後、中国電力、デンカ、ランデスと協力し、2008年に開発されたのがスイコムだ。21年には東京ガスと、都市ガス機器利用時の排ガスを利用したコンクリート製造に共同で取り組むことに合意するなど、協力の輪は広がっている。

共に技術開発を進めてきた鹿島建設 技術研究所 土木材料グループ長 渡邉賢三氏(左)。“活炭素”をはじめとする鹿島の技術力は、次の世代へと脈々と受け継がれている

ただ、課題は少なくない。最大の問題はコスト面で、一般的なコンクリートと比べて3~5倍かかり、普及のネックとなっている。また、高濃度CO2環境下で固めるため、プレキャストコンクリートでの提供にとどまっている。

こうした課題の解決は、個々の企業がバラバラに取り組んでいては限界がある。

「国内だけでなく世界的に頻発している自然災害は、地球温暖化が原因とされていて、コンクリートをはじめ多くのCO2を排出してきた企業は、その削減に本気で取り組まなければなりません。われわれは、スイコムの技術を囲い込むつもりはなく、むしろ、さまざまな課題を解決してカーボンニュートラル達成に貢献するためには、オールジャパンで革新的な技術を開発していく必要があると考えています」(同)

脱炭素やカーボンニュートラルといった言葉が一般的になる前から、“活炭素”の技術を磨いてきた鹿島建設。気候変動問題が社会全体で取り組むべき喫緊の課題となる中で、業界を代表する企業の一つである同社が積極的に取り組んでいる意義は大きい。同社に続くのはどの企業なのか。業界全体の今後の動向が注目される。

※1 「鹿島環境ビジョン:トリプルZero2050」は、2013年5月に策定され、社会情勢に合わせて18年5月と21年4月にそれぞれ見直しを行った

※2 鹿島建設が30年前に開発し、現在は一般的に普及している

※3 日本コンクリート工業が開発した商品

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