企業は物流施設のプロフィットセンター化を

「委託物流費は安ければよい」のでは失格だ

コロナ禍による消費者行動の変化や3密回避の要請、ドライバー不足、多発する自然災害、グローバル調達品の不足など、物流が対応すべき課題やリスクがますます大きくなっている。明治大学専門職大学院グローバル・ビジネス研究科の橋本雅隆専任教授は「企業は経営戦略の中核に物流を据えて、構造的な改革をすべき」という。その要諦とは何か。

サプライチェーン・リスクを低減させる定石

――コロナ禍や多発する自然災害等により、「届かなくなる」リスクが高まっています。

明治大学
グローバル・ビジネス研究科(MBA)
橋本 雅隆 専任教授
早稲田大学理工学部工業経営学科卒業、明治大学大学院経営学研究科博士前期課程修了、博士(商学)。
旧三菱銀行、旧東京都商工指導所等を経て現職。専門は流通論、物流論、ロジスティクス論、サプライチェーン・マネジメント論 。著書に『自動車部品調達システムの中国・ASEAN 展開』(共著・中央経済社)ほか、論文多数

橋本 サプライチェーンのリスクに対応するためには、調達先を分散化する必要があります。1990年代から日本のメーカーは生産調達拠点のグローバル集約化を進め、輸送のパイプを太くして効率化と規模の利益を追求してきました。しかし、こうした生産調達拠点や輸送経路が何らかの障害でストップしてしまうと膨大な損失が発生します。こうしたリスク対応だけでなく、現在のように製品のニーズや需要の発生場所と需要量が目まぐるしく変化する時代は変化に柔軟に対応できるオンデマンド型のサプライチェーンにつくり替えなければなりません。そのためには、サプライチェーンの枠組みそのものを、再構築する必要があります。

――具体的にはどのように実践すればいいでしょうか。

橋本 ①標準化・共通化、②共有化(シェアリング)、③分散化・複線化、④可視化の4つがキーワードです。まず製品・部品、荷姿、情報を「標準化・共通化」することでムダな生産や効率の悪い作業を削減します。そうすれば、物流拠点や輸送能力、情報処理インフラを複数の企業で「共有化」できます。そうすることによって、リスク対応のための調達先や現地生産化、生産・物流拠点の「分散化」や輸送手段や経路の「複線化」を進めても、増加するコストを吸収し、利益を確保することができます。そして、この新たなロジスティクス・ネットワークのステータス(現在の状態)をつねに監視し、サプライチェーン上に間もなく起こる事象を事前に察知して、先手を打つための「可視化」を行うのです。

このように、リスク対応は通常のSCM(サプライチェーン・マネジメント)の考え方だけでは対応できないということです。企業が管理すべき事柄は通常、繰り返される業務だけでなく、災害時や緊急事態への対処などのBCP(事業継続計画)に関わる課題や特別なイベントへの対処もあります。その場合、サプライチェーンの仕組みそれ自体の構築や維持・保全を目的としたロジスティクスが必要になります。これをライフサイクル・サポートという枠組みで管理するのです。

企業と物流施設業者が一体となって物流改革を

――そのような抜本的な改革は物流担当セクションだけでは難しいですね。企業に求められることは何でしょうか。

橋本 物流を「経営戦略」に組み込むことです。最近、企業の中にSCM部の名称を冠した組織を設置する企業も増えています。しかし、物流担当者に聞くと、いまだに「運賃や保管料は安ければよい」という答えが返ってくることがあります。また経営トップ層に自社の物流コストを聞いてもわからないという企業も少なくない。「店着価格」など、買い手の事業所まで届けるのが売り手の責任とされ、物流コストは商品価格の中に含まれて明示されていないことも多い。これには日本の取引慣行の問題があるんです。とくに日本では買い手のパワーが強く、物流コストが高くなっても顧客に負担を求めにくい。物流コスト増の原因は顧客との取引条件から生じるムリやムダな作業にもある。例えば、物流情報の再入力など、商取引の情報と物流作業のための情報がつながっていないことやトラックのバース待ちなどです。このムダを避けるためには売り手と買い手間の取引条件の見直しや、企業と物流事業者の協働による物流業務の改善が不可欠になります。

物流コストを把握できても、「物流はコストセンター」と捉えている限り、コスト削減にはいずれ限界が来る。現在、日本や世界の優良企業は「物流はプロフィットセンター」と捉えて、思い切った投資をしています。例えば、小売業ではリアル店舗のショールーミングとEC事業をシームレスに統合するオムニチャネル化が進行しています。大型店舗のバックヤードとEC出荷のためのピッキングロボットを導入したMFC(マイクロ・フルフィルメント・センター)を統合化し、ここを新たな販売拠点とするなどの動きが出てきている。これは、企業の物流拠点を新たな事業戦略拠点として位置づけて投資をしているためで、まさに物流をプロフィットセンターとして捉えているからです。ほかにも、医薬品や生鮮品などの精密な温度管理を行える物流システムや危険物の取り扱い可能な物流システム、リサイクル・リユースビジネスの加工物流拠点など、さまざまなビジネスモデルに物流拠点が組み込まれ始めているのです。

――企業と連携する物流施設事業者は今後どのような対応が求められるでしょうか。

橋本 空いた土地を入手し、倉庫を建てて売るという発想ではいけない。自らが物流オペレーションを担う意識、またはそうしたビジネスモデルを持つことが求められています。サプライチェーンを俯瞰したうえで企業の戦略シナリオと一体になって施設を造っていく、あるいは企業内部のオペレーションに入り込んでビジネスをサポートしていくことで、企業にとっても満足度の高い物流を実現できるでしょう。こうした取り組みを通して、物流こそが企業戦略における「プロフィットセンター」になると期待しています。

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