社会インフラ持続のカギを握る工事広報DXとは 阪神高速環状線大規模工事で広報が劇的に進化

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こちらは昨年実施した1 号環状線(南行)リニューアル工事完了後の様子
関西の大動脈である阪神高速道路が、2021年11月16日(火)午前4時から11月26日(金)午前6時までの10日間、終日通行止めを伴う大規模修繕工事「1号環状線リニューアル工事2021北行」を実施する。2020年11月に実施した南行区間に引き続き、2年計画の2年目となる今回の工事は、1号環状線北行区間の「湊町入口~梅田出口」が対象。ヒト・モノ・サービスのスムーズな流れを担う大動脈を、10日間にわたって止める理由は何か。そして、予想される多大な交通影響をどのように抑えるのか。そこには、今後重要となってくる社会インフラの持続可能性を高めていくためのヒントが隠されていた。

「リニューアル工事」で予防保全と道路サービスを拡充

1号環状線は、阪神高速道路の最重要路線の1つだ。10.3kmと総延長258.1kmに占める割合こそ少ないが、そこから放射状に延びる各路線を連絡する役割を担っている。歴史も阪神高速道路の中で最も古く、今から57年前の1964(昭和39)年6月に初めて開通したのが、今回のリニューアル工事区間の一部である土佐堀~湊町間。江戸時代には材木の集積地としてにぎわっていた西横堀の跡地だ。長きにわたって大阪の経済を支えてきた水路が、陸路に姿を変えたと考えれば、関西の大動脈として機能していることもうなずけよう。

大動脈であるということは、すなわち道路構造物に多大な負荷がかかっていることを意味する。阪神高速道路全体の交通量は1日約70万台だが、3割以上の約25万台が1号環状線を利用。しかも、大型車の割合が高いため道路構造物が相当な負荷を受けているのは明らかだ。50年以上にわたって蓄積された負荷は、徐々に現れ始めている。阪神高速の担当者は次のように話す。

鋪装の損傷部分

「目に見える舗装やジョイント部分の損傷にとどまらず、車の走行を支えているコンクリート床版(しょうばん)など、普段は見えない構造体でも詳細な点検時にひび割れなどの損傷が見つかることが出てきました。これらは現時点では極めてまれで、走行にも支障はありませんが、損傷が進む前に、予防保全措置を講じておかないと、取り替えなどの大規模な対応が必要な状態に陥る場合もあります」(阪神高速・担当者)

今回の工事ではコンクリート床版の上面に2重の防水措置を施す。これにより、ひび割れが発生しても雨水などの進入によるひび割れの進展を抑制させることができるという。

「損傷を発生させないように、また、損傷が発生しても進行させないようにするのが予防保全です。今、実施しておくことで、深刻な損傷への進展を抑制し、構造物の長寿命化につなげることができます」

一方、今回のリニューアル工事の内容は予防保全にとどまらない。道路サービス面でも、対象区間内の舗装を全面的に打ち換えることで、高い排水性と滑りにくさを実現して走行の快適性と安全性を向上させる。また、損傷が見つかった橋梁のジョイントは、高耐久で段差が生じにくいものに取り替えて沿道環境に悪影響を及ぼす振動を抑制する。さらに、案内標識のデザインやレイアウトを一新し、看板・路面表示の追加や出口車線への路面カラーの設置なども全面的に展開して、“わかりやすさ”を大幅にアップさせる。

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1号環状線リニューアル工事2021北行の実施概要

「昨年の南行区間のリニューアル工事の際も、10日間の終日通行止めにより同様の工事内容を実施しましたが、工事後に実施したお客さまへのアンケートでは『きれいになった』『走りやすくなった』『標識が大きくて見やすくなった』といった声を多数いただきました。今回も同等以上のサービス向上を図っていく予定です」

工事の影響を最小化するために終日通行止めを選択

予防保全を行いつつ、快適性と安全性の向上も目指すリニューアル工事が必要であることはわかるが、終日通行止めを10日間にわたって行う理由が気になるところだ。

「車線規制による工事であっても1号環状線の場合、他路線や一般道への影響は決して小さくありません。しかも工事の際にさまざまな制約のある車線規制では、かえってご迷惑をおかけする期間が延びてしまうことにもなり、沿道にお住まいの方や周辺交通へ及ぼす影響が大きくなってしまいます。そのうえ今回の工事範囲には分岐と合流が数多くあるため、車線規制を切り替えながらの工事だと、舗装が継ぎはぎだらけになったり、施工できない箇所も出てきてしまうなど、全面的に行うリニューアル工事の実施は極めて困難なのです」

つまり、終日通行止めにすることで、全面的な予防保全・修繕工事を短期間で集中的に終わらせることができ、利用者はもとより沿道住民などへの影響も最小化できるというわけだ。実は、阪神高速道路はこれまでも同様の考え方から、「車線規制工事よりも通行止め工事」を選択することが多かったという。1号環状線でも、これまで1988年、2001年・2002年、2020年に大規模な通行止め工事を実施。その実績から、利用者や沿道住民の理解度も高く、阪神高速が実施したアンケート調査でも、車線規制工事よりも短期間の通行止め工事が望ましいという声が多数集まっているという。しかし、阪神高速の担当者は影響をより少なくする方策を視野に入れている。

「ご理解いただけるのはありがたいことですが、たとえ期間を短くできても、通行止め工事が周辺の交通に大きな影響を及ぼすことは事実です。期間中は、通行止めに対し、なるべく多くの方に適切な対処をスムーズにとっていただけるよう、広報活動には特に力を入れています」

工事広報を劇的に進化させる阪神高速の広報DX

とりわけ、今回の通行止め区間である1号環状線は、大阪市内の中心に位置し、複数の路線と接続しているため、阪神高速道路の他の路線や大阪市内の一般道に大きな影響を与えることが予想される。多くの利用者が工事の影響を受ける当事者となるわけだが、その影響にどう対処すべきか当事者自身ではわからない場合が多いと予想されるため、広報が果たすべき役割は小さくない。

実際、車での移動や輸送が前提となっている利用者の多くにとって、通行止め期間中、ビジネスなどに支障が出ないよう、交通影響を踏まえて事前に適切な運行プランを立てることが肝要となるため、交通影響の予測をはじめとした情報に高いニーズがあるわけだが、カギを握るのはその伝え方であろう。

今回の工事では、阪神高速は、工事の区間・期間を中心に伝えるテレビCMなどマスメディアや、横断幕、ポスターなどを使った広報に加え、通行止め期間中の交通影響予測をもとに、利用者のニーズに対応できる仕組みを整えた。中でも力を入れているのが情報提供の「デジタル化」だという。まず、「デジタル化」によって1人ひとりが欲しい情報だけをオンデマンド形式でより詳細に取得できるようになる。加えて、渋滞をさけるための「ルート」「時間帯」「交通手段」などは、複数の選択肢が所要時間などで比較できる。さらに、他の案内サービスとのシームレスな連携も可能となり、より具体的かつスムーズな案内が実現する。もはや、工事広報は「工事のお知らせ」にとどまらず「より適切な移動に導くサービス」へと進化しているともいえる。

このように個別の情報ニーズに対し、適切な移動までをサポートする情報提供こそ、交通影響が読みづらい大規模道路工事の際にも車を利用せざるをえない企業やドライバーが欲していたものではないだろうか。この情報提供の変革は、いわば工事広報におけるDXともいえるかもしれない。

まず、工事期間中、ドライバーが知りたいのは、期間中の大まかな交通影響と、自身が車を利用する際の具体的な交通影響だと想像される。大まかな交通影響については、リニューアル工事のポスターやリーフレットなどで紹介。一目で全体像がイメージでき、自身の利用範囲が影響を受けるかどうかを把握することができるだろう。ただし、遅延が許されないような厳しいビジネス利用などでは、自身の利用に対する具体的な影響も知りたいはずだ。

このような個別のニーズに応えるために、環状線リニューアル工事専用の経路検索サービス「う回ルート検索システム」を株式会社ナビタイムジャパンと共同開発して提供。他の経路検索サービスではできない工事期間中の通行止めの影響を考慮したルートや所要時間の事前検索に対応している。

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環状線リニューアル工事専用の経路検索サービス「う回ルート検索システム」を株式会社ナビタイムジャパンと共同開発

検索結果の所要時間は、平常時や他の時間帯とも比較することができるため、出発時刻を見直す際の目安にもなる。また、「電車か車か」と悩む利用者にとっては、「う回ルート検索システム」で、車と電車の双方の移動時間が比較できるため、より賢明な判断も可能になる。ちなみに、電車利用の所要時間表示からNAVITIMEの乗換検索にリンクしているため、電車利用の具体的な検討もスムーズだ。

それだけではない。「う回ルート検索システム」は、NAVITIMEのカーナビアプリ「ドライブサポーター」とも連携。「う回ルート検索システム」での検索条件がそのまま「ドライブサポーター」に引き継がれ、リアルタイムの交通状況を踏まえたナビゲーションが無料で受けられるというわけだ。目的地まで音声案内によるナビゲーションを利用すれば、通行止めによって普段と違うルートの通行を強いられていても、道に迷う心配もなくなり、突発的な交通渋滞が発生しても回避ルートを走行できる。このように、1人ひとりが利用時の交通影響を確認できるだけでなく、移動までをフォローする環境が整えられることで、交通影響が読めないことによる様々な課題も解決されていくことだろう。

「期間中の車移動に不安を感じられている方は、ぜひ『う回ルート検索システム』をご活用ください。事前にルートや所要時間の目安が把握できますので、激しい混雑が予想される期間中のご利用を計画される際に参考にしていただけます。事前のルート検索の結果から、出発時刻を適度に見直し、当日は、履歴検索で利用条件を呼び出して、そのままカーナビの音声案内に従って渋滞を避けて移動するといった活用がおすすめです。なお、お車のご利用時に、多くの方が渋滞を避けることができれば、結果として周辺の交通影響を緩和することにもつながるため、こうした取り組みにはとくに力を入れています」

実際、渋滞を避けるために必要な情報を的確に提供し、期間中は移動の支援も行うという今回の取り組みは、社会的な価値も大きく、今後、高速道路の健全性維持のために避けることができない大規模道路工事を実施していくうえでは必要なピースになっていくのかもしれない。阪神高速ならではのノウハウを生かした工夫と積極策が、どのような効果につながるか、注目したい。

ちなみに、2020年の南行区間のリニューアル工事でも一部実施したこれらの取り組みは、「日本モビリティ・マネジメント学会」が主催する 日本モビリティ・マネジメント会議でプロジェクト賞 を受賞するなど、今後の大規模な道路工事やイベント時等における交通マネジメントの規範になることが期待されるとして高く評価されている。

連続したイノベーションで時代を牽引する

合理性と先進性が際立つ阪神高速道路の取り組みは、社会インフラ持続の観点でも意義深い。なぜなら、国土交通省の試算によれば、2038年時点で建設後50年を経過した道路橋が72%に達するからだ。加速度的に人口減少が進むことも踏まえれば、メンテナンスの合理化と周辺への影響の低減を両立しつつ、道路ネットワークを持続的に機能させることが求められるだろう。

「阪神高速道路に限らず、社会インフラは老朽化が進むと、対応の規模や及ぼす影響も大きくならざるをえません。そうなると持続可能性の担保も難しくなります。先に申し上げたように、全面的な予防保全策を講じておくことで、構造物の長寿命化を図ることができます。しかし、そのためには、交通影響をできる限り抑えるための交通マネジメントの継続的な進化が欠かせません」

その取り組みは、全世界で取り組んでいるSDGsの目標達成への貢献にもつながるだろう。これまでの歴史の中で、名高い「中之島のS字橋」や「ビルを貫く道路」などで高速道路の建設技術にイノベーションを起こしてきた阪神高速道路だが、今後は予防保全や交通マネジメントの領域でもロールモデルとなっていくかもしれない。

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