ニーズ急拡大、「後払い」決済が支持される理由 「実物を見て、試してから支払いたい」に応える

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長引くコロナ禍で消費活動そのものがリアルからオンラインショップに置き換わりつつある。そうした中で「脱・現金」は勢いづき、決済方法も多様化している。オンラインショップではクレジットカード決済がなじみ深いが、いま後払い決済「BNPL(Buy Now Pay Later)」(※1)が拡大している。では「後払い」はどのような決済方法なのか、そこに将来性はあるのか。国内で約41%(※2)の「後払い」サービスシェアを占める、ネットプロテクションズに聞いた。
※1 BNPL:「今買って後で支払う」。商品を受け取った後にコンビニや銀行などで支払う決済方法。矢野経済研究所によれば2020年度は8820億円の市場規模の見込みだったが、24年度には1.8兆円を超えると予測
出所:株式会社矢野経済研究所「EC決済サービス市場に関する調査(2021年)」(2021年4月27日発表)
※2 自社調べ(矢野経済研究所の調査と自社実績から算出)

根強い「気に入ったら支払う」ニーズ

「 “実物を見てからモノを買う”というスムーズな後払いへの顕在的なニーズは、20年ほど前からありました」

消費者向けの後払いシステムにおいて国内で約41%のシェアを持つ、ネットプロテクションズの代表取締役社長・柴田紳氏は語る。同社は日本でBNPLのサービスとして「NP後払い」を2002年から展開。現在は年間取扱高3200億円、ユーザー数1580万人を超え、中でも30~50代の女性を中心に支持されている。とくにオンラインショッピングのシェアが増加している衣服やコスメ・雑貨などでは、「試してから支払いたい」というニーズが広がりを見せている。

ネットプロテクションズ代表取締役社長
柴田 紳
1998年に一橋大学卒業後、日商岩井(現・双日)に入社。 2001年にIT系投資会社であるITX社に転職し、ネットプロテクションズの買収に従事。 すぐに出向し、何もないところから、日本初のリスク保証型後払い決済「NP後払い」を創り上げる。 2017年、アントレプレナー・オブ・ザ・イヤー特別賞を受賞。日本後払い決済サービス協会会長

「販売事業者側から見れば、後払いサービスは、それまで雑貨やアパレルなどに多かったカタログ販売の際に必要な与信審査から、請求書発行、入金確認、督促・回収、貸し倒れ対応までの決済業務のすべてをアウトソースするものです。この一連のプロセスで最も重要なのは与信審査。その精度を、われわれは約20年にわたって磨き続けています」(柴田氏・以下同)

購入者の与信審査の精度を高めるため、3億件を超える過去の決済データを活用してディープラーニングやAI機能を強化し、開発にも積極的に投資してきた。与信審査の精度はもとより、与信スピードを向上させることによって即時の審査を可能にし、利用者の購買離脱の防止にもつなげている。「こうした仕組みは、一朝一夕に構築できるものではない」と柴田氏は自信をのぞかせる。

クレジットカードではカバーできない「NP後払い」の利点

そもそもオンラインショップにおける決済にクレジットカードを使っている人は多い。だが、アパレルや雑貨、コスメなど「少額」の買い物は、クレジットカードを使用しない層の利用が多く、現金での家計管理を好む人にとっても都度ごとに支払う後払いは利用金額が把握しやすい。そのため、これまでクレジットカードを登録してこなかった人々に支持されており、スムーズな買い物の実現が可能だ。 

ネットプロテクションズでは、少額の後払い決済を重視し、与信審査においても、クレジットカードの与信枠と比較して大幅に低く設定している。加盟店によって異なるが、「NP後払い」の基本的な上限金額は5万5000円。そのほか、消費者向け決済のサービスとして、翌月にまとめて支払いができる会員制決済「atone(アトネ)」、台湾向けに展開するスマホ後払い決済「AFTEE(アフティー)」、BtoB向け決済として「NP掛け払い」を展開。加盟店にとっても請求業務の負担とリスクが減り、複雑な商習慣にも柔軟に対応している。

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ユーザー、ショップ側のニーズに応える「後払い」のビジネスモデル

こうした工夫で加盟店に配慮した取引システムの構築と消費者目線のサービスを開発し、BNPL領域での確固たる地位を獲得した。主力サービスの「NP後払い」は導入実績6万9000店舗に上り、累計取引は2億8000万件を超える。

類を見ない組織運営が成長を後押し

ここまで国内BNPL市場を牽引できた原動力は何か。それは、イノベーションの創出を目指してつくられた組織に秘密がある。

「ネットプロテクションズは創業当時トップダウン型の組織でした。ところが、組織の拡大とともに細かいところまで目が行き届かず、部署間の対立が起きたことで限界を感じたんです。フラットなコミュニティーをベースにした組織をつくれないものかと思案し、その解として、社員に権限を委譲しておのおのの裁量でプロジェクトを推進する『ティール型組織』の原型を2005年につくりました」

学生時代に社会心理学を専攻していたことから組織づくりに関心があったという柴田氏。「とはいえ、この斬新な組織改革は、世の中にティール型組織の効用が知れ渡る前のことです。当時、類似の組織づくりを実践する企業は見つかりませんでした」。その先見性の高さもさることながら、成熟度が高い組織体制を実現していることにも驚かされる。

「プロジェクトベースで社員がフラットにコラボして仕事を動かしています。新卒で入社して2年目くらいからプロジェクトの中心として活躍しているケースもあるんです。社員が自由に活躍できる環境を整えて、イノベーションを歓迎しています。一方で“会社としてこうありたい”という価値観は座談会を実施するなど直接的な対話で共有する。それによって判断のずれが生じにくくなってきたんです」

ティール型を意識した組織づくりにより、マネジャーは存在しないフラットな役割分担をしている。自由な意見交換や部門間をまたぐコラボレーションにも好影響を与えるという

急成長の背景には、先駆的な組織構造がある。この組織を武器に、柴田氏は次のフィールドへの挑戦を見据えている。

「EC市場における消費者と事業者の双方にさらなる可能性を提供することはもちろん、これまで蓄積してきた利用者データを基に新たな事業の展開も検討しています。社会の役に立つビジネスをしたいという思いが根底にあるので、ノイズにならずに心地よさを感じる新しいビジネスモデルを創り出したいですね」

生活者にとって「後払い」システムの充実は、デジタル世界と現実世界とのギャップを埋める。ネットプロテクションズがそれを牽引し、さらには決済事業で培ったノウハウから可能性を広げて、今後も私たちの生活を刷新していくだろう。

ネットプロテクションズは開放感あふれるオフィス環境も魅力。社内の風土が新しいビジネスチャンスをものにしていくきっかけとなっているのだろう