急成長ロイヤルカナン「独自経営モデル」の真骨頂 ペットのプロと目指す「犬と猫の真の健康」

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ペット関連産業は、コロナ禍で伸びた業界の1つ。犬や猫を取り上げたテレビ番組やWebメディアの企画も、日常的に目にすることができる。インターネットやSNSなどにもぺットに関する情報は氾濫しているものの、犬や猫の「真の健康」を実現するための正しい知識にはなかなかたどり着けていないのが現状だ。

「健康のための栄養バランス」という概念を生み出した

こうした状況の中、「犬と猫の真の健康」に取り組んでいるのがプレミアムペットフードと食事療法食を手がけているロイヤルカナンだ。同社に取材をすると、独自の経営哲学が見えてきた。

「すべては犬と猫のために(Dog & Cat First)」という一貫した理念の下、世界100カ国以上で事業展開しているロイヤルカナン。その歴史は、今から50年以上前にフランスの獣医師、ジャン カタリーによって切り開かれた。ロイヤルカナン ジャポン社長の山本俊之氏は、次のように説明する。

ロイヤルカナン ジャポン社長
山本 俊之

「彼の診療所には、何度治療しても皮膚病を再発させるジャーマンシェパードが多く通院していたことから、彼は『薬による対処療法ではなく体の中の栄養バランスを整えることが重要』と気づき、フードを開発したんです。これが多くのブリーダーやペットオーナーから支持を得ました」

当時の犬は人の食事の残り物を与えられ、栄養バランスが悪かったため、この発想は画期的なものだったという。その後も、獣医大学やブリーダーとの協働により、犬や猫の品種、年齢、身体のサイズ、ライフスタイル、健康状態などによって異なる栄養ニーズを満たす製品でイノベーションを次々に展開。目覚ましい成長を遂げてきた。

グローバルに展開するロイヤルカナンブランド

特徴的なのは、テレビCMなどのマス広告を使うことなく、専門チャネルを通して製品を販売してきたことだ。獣医師やペット専門店、ブリーダーなどのステークホルダーと長い年月をかけて協働し、「個々の犬と猫の栄養ニーズに合ったフードを提供する」環境をつくり上げてきた。

「当社のフードは250種類以上あるので、ペットオーナーにしてみれば『うちの子には何を選べばいいの?』と戸惑うかもしれません。そんなとき、獣医師やペット専門店、ブリーダーといったペットのプロフェッショナルの方々が、専門知識に基づき、愛犬・愛猫に合ったフードを薦めてくれたら、たいへん心強いですよね」

経営モデルの進化のきっかけとなった「互恵の経済学」

目覚ましい成長を遂げているロイヤルカナンだが、ある考え方を積極的に取り入れている。山本氏はこう明かす。「過剰な金融資本主義に警鐘が鳴らされて久しいですが、かつて起こった世界金融危機の直前に、弊社が属するMARS(マース)グループの経営陣の1人が投げかけた『当社にとって適正な利益とは何か』との問いが、経営モデルを再考するきっかけとなりました」。

その後、MARSグループとオックスフォード大学ビジネススクールが共同で開発したのが「互恵の経済学(Economics of Mutuality)」という考え方だ。

「自社の利益のみを追求するのではなく、ステークホルダーとの持続的な関係にも配慮し、相互に利益が得られる、つまり『互恵』の解決策を考えていこうという経営モデルです」

当然、ステークホルダーはペット関連のみにとどまらない。さまざまな社会課題や地球環境の持続性も考慮する必要がある。SDGsが国連サミットで採択されたのが2015年であったことを考えると、同社の先進性がわかる。しかも、目標を掲げるだけにとどまらず、具体的なビジネスモデルに落とし込む点で、より実践的だといえよう。

興味深いのは、「互恵」を起点とすると、ビジネスの取り組み方もおのずと変わってくるところだ。近年ブームになりつつあるパーパス経営と同様に、自社の存在意義を中心にビジネスモデルを構築するようになるからである。

「『1頭でも多くの犬と猫に、ロイヤルカナンのフードを食べてもらう』を起点にすると、市場シェアをどのように獲得するかといった自社の利益を中心にしたビジネスモデルになってしまいます。一方『互恵の経済学』は、『犬と猫の真の健康』を起点としますから、自社だけでは決して実現できません。よって、その実現を目指すことが自社と自社を取り巻くステークホルダー相互の利益につながるようにビジネスモデルを構築していくことになるわけです」

「犬と猫の真の健康」の実現を目指すエコシステム

この「互恵の経済学」の考え方はすでに、ロイヤルカナンが取り組み続けてきたペットのプロフェッショナルとの協働を進化させている。まず注目すべきは、ペットの健康診断の受診促進だ。犬や猫は人の4倍以上の速さで年を取るため、「早期発見・早期治療」が重要だが、健康診断の受診率は必ずしも高いとはいえない(犬 44%・猫 34%)。「犬と猫の真の健康」を実現するうえで、これがハードルになっている。

ロイヤルカナンは、これまでもペットの予防医療の啓発・普及活動を展開する獣医師団体「Team HOPE」を支援してきた。また、猫オーナーは愛猫のストレスを考え、病院に連れて行きたがらない傾向が見られるため、猫に優しい動物病院のグローバル認証制度「キャット フレンドリー クリニック(CFC)」の普及もサポートしてきた。昨年からは、これらに加えて、年2回の健康診断の受診を啓発する自社のキャンペーンも始め、より積極的に愛犬・愛猫の健康診断の促進を推し進めている。

こうして健康診断の機会が増え、病気の早期発見・治療ができれば、獣医師、ペットオーナーの満足につながり、そして何より「犬と猫の真の健康」の実現に寄与する。

次に注目すべきは、ブリーダーへの支援だ。彼らは自身の経験に基づいて繁殖活動を行う傾向にあるが、一部では適切な繁殖管理・繁殖環境が整備されていないケースが見受けられる。各施設における犬と猫、そしてそこで生まれる新生児の「真の健康」を実現するうえで、繁殖管理・繁殖環境の整備が重要であることは言うまでもない。

ロイヤルカナンは、これまでもブリーダーに対して主要都市でセミナーを実施し、繁殖学、新生児学、衛生学といった専門知識を提供してきたが、昨年からはより多くのブリーダーがこうした知見にアクセスできるようポータルコミュニティサイト「ロイヤルカナン PRO CLUB」を立ち上げた。今までは物理的に会場まで足を運ばなければ得られなかった専門知識がオンラインでいつでも手に入れられるので、開始早々に1000人以上のブリーダーが登録するなど反響は大きい。

こうして繁殖管理・繁殖環境が適切に整備されれば、ブリーダーはもちろん、ペットオーナーの満足にもつながり、そして何より、新生児を含む、施設における「犬と猫の真の健康」の実現につながるわけだ。

愛犬・愛猫の健康がオーナーにとって最大の関心事であることは当然だ。「ただ、犬と猫は人の言葉を話せない。ともすれば病気を隠そうとする。だからこそ、ペットオーナーは『病気ではなさそう』で済ますのではなく、『犬と猫の真の健康』のために正しい知識を持ち、適切に行動してほしい」と山本氏は訴える。そして、「そのことを啓発するために、自社を含め、ペットを取り巻くステークホルダーの相互利益につながる環境を構築したい」と続ける。

確かに、そうした環境において愛犬・愛猫の健康寿命が延びれば、ペットオーナーのウェルビーイングを高めることにもつながるだろう。ペットを取り巻く互恵のエコシステムを構築することが、ペットと人のよりよい共生社会の実現に近づくために欠かせないプロセスなのだ。

>>犬と猫の「真の健康」はここから始まる

※出典:(一社)Team HOPE「ペットの健康管理に関する実態調査」(2021年2月12日発表)