「疲れにくい空気」ダイキン脳科学者研究の狙い 空気の価値「暖める・冷やす」以外に何がある?

昨今、換気の重要性やCO2濃度などが話題に上がるようになり、「空気の質」に大きな注目が集まっている。しかし実は、空気の可能性は「人間の生活環境を心地よくする(冷やす・暖める)」というだけではない。空気の要素を変えることによって、例えば「料理がおいしくなる空気」や「作業に集中できる空気」「疲れにくい空気」など、これまでなかったようなまったく新しい価値が生まれるのだという。空気の質にこだわることで、私たちの暮らしはどうアップデートされるのか。生活者に『新たな価値ある空気』を提供するべく長年研究し続けている、ダイキンの研究者2人に話を聞いた。※このページは、2021年9月30日に公開した内容に一部加筆、修正を加えました。

空気は人の疲労度、生産性、味覚まで左右する

約20キロ。この数字が何を意味するかご存じだろうか。実は、これは人間が1日で体に取り込む空気の量だ(※1)。水は約1.2キロ、食料は約1.3キロで、空気が水や食料をはるかにしのぐ。そう考えると、水や食べ物の質にこだわるのと同じように、空気の質も重要であることがわかるだろう。

実際、空気は私たちの体にさまざまな影響を与えている。例えば、空気中に漂うウイルスによって起こる感染症、カビ、花粉などの「アレルゲン」が引き起こすアレルギーがわかりやすい。しかしそれだけではなく、空気はあらゆる要素で「人の状態」を左右しているのだという。

「空気のあり方は、人の疲労度や作業の生産性、味の感じ方まで左右します」

ダイキン テクノロジー・イノベーションセンター IAQ技術グループ・グループリーダー
黒井 聖史(きよし)

そう語るのは、空調専業メーカー・ダイキンでIAQ技術グループのリーダーを務める黒井聖史(きよし)氏だ。IAQ技術グループのIAQとは「Indoor Air Quality」、つまり室内空気質のこと。今世界中で注目されている概念だ。

同グループでは、空気について「冷やす・暖める以外のすべて」を研究テーマとしている。例えば「集中する・リラックスする・眠る・食事をする」といった日常生活のあらゆる行為において、空気が人にどう影響を与えるかを測定し「付加価値の高い空気」を提供しようと研究を行っている。

その中心にいる黒井氏が目指すのは、私たちの生活に密着しているエアコンを、「空気を調整する」製品から「空気をつくる」製品へと進化させることだ。

「暑い・寒い室内、つまり『マイナスな環境』を、不快でない『ゼロの環境』に整えるのが、これまでのエアコンの価値でした。われわれが次に目指すべきところは、ゼロからプラスにすること。例えば『作業効率を上げる』『よりリラックスできる』などの付加価値を、空気を通して提供していきたいと考えています」

そのためには、具体的に何が必要なのか。黒井氏はこう指摘する。

「言ってみれば、空気は『私たちの心身を包むベール』です。しかし、空気は目に見えません。だからこそ科学的に分析し、数値化することで、空気を可視化したいと考えています。空気の可視化は、空気をつくり、環境をプラスにするうえでも大きな価値があるはず。私たちは、そうした空気の可能性を信じて日々研究しています」

疲労度や「味の感じ方」にまで影響を与える空気

「付加価値の高い空気」を提供するため、日々研究を行っているIAQ技術グループ。ここでは生物学の研究者や空気成分の研究者、AIを用いた高度な情報分析の専門家など、幅広い人材が活躍している。このエキスパート集団の中の一人が、脳科学者の堀翔太氏だ。

これまでの「冷やす・暖める」が中心の空調から、「人の日常生活のあらゆる行動に最適な空気や、サポートする空気」という新たな空気の価値を生み出すという段階に進むためには、脳科学者の参画は必然だといえるだろう。

もともと、京都大学大学院医学研究科で研究に従事していた堀氏。ダイキンに入社した経緯をこう話す。

ダイキン テクノロジー・イノベーションセンター IAQ技術グループ
堀 翔太

「当時、京都大学とダイキンが新たな価値創出に向けた包括提携を結んでおり、ダイキンが人の脳活動を測る技術開発にも取り組んでいることを知りました。エアコンメーカーのダイキンが、どうしてこの分野に手を出しているのか? と意外に感じるとともに、ダイキンの研究の幅の広さに強く興味を惹かれ、自分も貢献したいと感じたんです。

空気は長い時間、人に対して作用できるのが強みです。空気が人に与える影響を測定し、人の生活や行動、心地よさをより向上させるような、価値のある空気を提案したいと考えています」

では、堀氏が考える「空気の可能性」とは具体的にどんなものなのか。具体例を2つ挙げてもらった。

「まずは『疲れない空気』です。理化学研究所と共同研究を行い、多種多様な温湿度下での人の疲労度を計測することで、『疲れにくい空気空間』を数値で明らかにしました。その結果、室温28℃でも湿度を55%以下に保てば快適性が向上し、湿度が40%以下なら疲労も軽減できる(※2)ことがわかりました」

つまり真夏の暑い室内でも、調湿機能の付いたエアコンなどを活用すれば、快適で疲れにくい空間が実現できるのだ。湿度のコントロールができなくても、室温を26℃まで下げることで、快適性の向上や疲労の軽減が見込めるという。

また「料理がおいしくなる空気」も実現可能だという。一例として、メイン料理を食べるタイミングで温度を上げ、デザートのタイミングでは温度を下げるといった環境制御を行うことで、料理をよりおいしく感じられるというものだ。ダイキンは以前あるイベントで、室内の温度をコントロールし、来場者が空気環境の違いによるワインの味の変化を体験できる展示を行った(※3)

空気質にこだわることで、日常生活がより快適になるだけでなく、さまざまな経験がより豊かになることがわかる。

ダイキンが考えるヒューマン・コンディショニングの概念図

ウェルビーイングを実現する「空間」とは

人々の日常生活の行動や快適性を向上させる空気質。その可能性を広げるため、IAQ技術グループの研究者たちは日々「空気」を追究し続けている。前出の黒井氏は、空気にこれほどまで強いこだわりを持つようになった原体験があるという。

「私は小さい頃からアレルギー持ちで、ぜんそくやアトピー性皮膚炎に悩まされてきました。少しでもほこりっぽい空間にいると『あ、今夜ぜんそくがひどくなるな』と察知できるんです。こうした経験から、空気が体調を左右することを身をもって実感してきましたし、空気質の重要性に自然と気づき、人の生活を向上させる質の高い空気をつくりたいと考えるようになりました。自分自身の経験を基に、ぜんそくやアトピーを抑制できる環境をつくりたいと考えています」

近年、世界中でウェルビーイングという概念が注目されているが、同グループではいち早くそれをキーワードとして捉え、議論してきたという。そして、身体的な健康だけでない「社会的な健康や心の豊かさ、幸福」に寄与できる空気の価値づくりを目指している。そのビジョンについて、黒井氏はIAQ技術グループのリーダーとしてこう語る。

「室内環境は空気だけでなく、空間にある、ありとあらゆるものによって構成されています。だからこそ、空調だけでなく空間を構成するいろいろなものに目を向けることで、人にとってより価値のある空気と環境を提供できるはず。今後はさざまな企業との協創を通し、空間全体を考えていきたいと思っています」

さらに、黒井氏は空気を追究する意義をこう語った。

「人の幸せ、ウェルビーイングには、空気質が深く関わっています。幸福度を上げるためには、空気の追究が不可欠なんです」

空気によって人々の幸せを追求する。それが可能なのは、空調専業メーカーのダイキンだからこそ。その取り組みは、社会にとって今後ますます大きな意味を持つようになっていくことだろう。

>700人の技術者が切磋琢磨、これからは「協創」を開発の中心に

(※1) ダイキン調べによる

(※2) 2020年5月28日プレスリリース
快適で健康な空間づくりに向けた共同研究で室温28°Cでも湿度を下げれば疲労軽減に有効であることを実証
https://www.daikin.co.jp/press/2020/20200528/pdf/press_20200528.pdf

(※3) 2018年10月10日ニュースリリース「CEATEC JAPAN 2018」初出展のお知らせ 空気や空間の新たな価値を創造する20のアイデアを公開 https://www.daikin.co.jp/press/2018/20181010/pdf/press_20181010.pdf

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