経理業務が「データドリブン」へ移行する納得理由 経理データを「人が処理する」時代はもう終わる
法改正が経費精算・請求のプロセスを変える
――2020年10月の電帳法改正によって、法人カードなどキャッシュレス決済の場合は、紙の領収書の代わりにデジタル明細が使えるようになりました。それから約1年、企業にはどのような変化が起きていますか。
横山(クレディセゾン) 紙の領収書の提出や提出者、承認者の確認印が不要となったのは大きな変化です。当社では、コーポレートカードと経費精算システム「SAP Concur」をデータ連携させ、リモートワークで経費精算が完了し、ペーパーレス環境が実現しています。
大阿久(UCカード) 実際、経費精算システムを導入している企業は、電帳法改正に非常に関心を寄せています。経費精算業務の自動化が大きな潮流となっていくことは間違いないでしょう。
石垣(三菱UFJニコス) 電帳法は来年(2022年)1月にも改正施行されますが、そうした流れをさらに後押しすることになると思います。現在、領収書や請求書などの帳票をデジタル保存するには、「税務署の事前承認」「3営業日以内のタイムスタンプ付与」といった厳しい要件をクリアする必要がありましたが、来年の改正ではこれらが撤廃・緩和され、かなりの数の企業がデジタル保存に移行すると思われるからです。
高次元な管理を実現する「バーチャルカード」
――大幅な規制緩和で、経費精算の自動化がスタンダードになりそうですが、運用上の課題や注意点はありますでしょうか。
横山 社内ルールの見直しを含め、業務プロセスの改善を同時に行うことが重要です。せっかくデジタルデータで処理が終わるようにしたのに、従来どおり申請時に紙の領収書の添付や確認印を求める企業もあります。弊社も「紙の提出不要」とルール変更をしたことで社員の認知度があがりましたが、単にシステムを入れるだけで終わらせないことが重要です。
大阿久 お客様からの問い合わせで増えているのが、消費税の軽減税率制度への対応です。いくつかの商品を購入した場合、決済データとしてはひとまとめでも、10%と8%が混在しているケースがあります。また、「何に使ったのか」「誰と何人で接待したのか」といった情報はデジタル明細にないため、補足申請や経理部門での突合作業が必要となり、経費精算業務への大きな負荷となっています。
石垣 同様に、法人カードと経費精算システムの自動連携を検討する企業が懸念するのは不正利用です。前回の対談でもスラバさんがおっしゃっていましたが、利用金額や回数をコントロールする制御機能を付与し、データを一元管理する仕組みが求められるのではないでしょうか。
スラバ(Mastercard) 本質的なところから経費精算プロセスを効率化するには、入力・申請・承認の手間をなくすだけでなく、社員がどこでどのように経費を使っているか、カードのデータをデイリー単位で管理する必要があります。そのため、みなさまがご指摘のように、基本決済データである日付・金額・加盟店だけでは不十分です。
そこで、Mastercardが展開する「バーチャルカード」(※1)は、品目や発注番号、請求書番号など利用企業独自の情報を拡張データとして付与できるようにしました。購買活動の照合や会計処理が大幅に効率化するうえ、発注から決済まで個別にトラッキングできるので、ガバナンス強化にもつながります。また、ERPや経費精算システムと連携できる「スマート・データ」(※3)をご利用いただくと、データを標準化して集約できますので、経費の支出状況や利用傾向の把握、予算管理や財務報告も容易になります。
※1 バーチャルカード:パーチェシングカード(※2)を親番号として購買取引ごとに発行される使い切りのカード番号で支払いができる決済サービス。利用できる回数や期間、金額上限といった条件を企業が自由に設定可能(条件に反する取引は自動で拒否される)。番号漏洩やカード紛失のリスクも抑えられる。三菱UFJニコスの「三菱UFJカード バーチャル」もその1つ。
※2 パーチェシングカード:仕入れやシステム利用料などの間接費用の支払いを始めとするBtoB取引での決済に便利なカード。決済対象を特定できるため企業活動に必要な支払いを一本化でき、取引先との請求書・振り込み業務が集約される。カードレスで、カード番号・有効期限・セキュリティーコードのみ会社名義や部署名義で発行される。
※3 スマート・データ:Mastercardの全法人カードプログラムに対応した経費管理統合アプリケーション。既存の基幹経理システムやERPへのデータ出力・統合が可能であり、追加のシステム構築は基本的に不要。
データによる購買管理がコスト最適化を実現
――法人カードと経費精算システムを連携させることで、経理業務の効率化・省力化を促すだけでなくデータ活用の可能性を広げることがわかります。経理・財務部門の「できること」も広がっていくのでしょうか。
石垣 まず、従来の決済データだけでなく、トラッキング可能な拡張データを活用することによって、経費の透明性が高められます。透明性の高いデータを積み上げていけば、より適切なコストマネジメントも可能になります。そうしたデータの収集や分析を進めていくことで、いわゆる「攻めの経理」を展開しやすくなるのではないでしょうか。
横山 デジタル化だけでなくデータ活用や経費マネジメントを見据えると、法人カードにはより詳細なデータ提供が求められます。実現できている例としてはETCカードでは利用区間などの詳細情報が利用企業に提供されており、コスト管理面でも有効に機能しています。今後、スラバさんが挙げたバーチャルカードなども活用して、クレジット会社が企業様に有益なデジタル情報をお届けすることで、「紙とハンコ」からの脱却につながり、業務効率の改善と経営の意思決定への寄与を両立できると確信しています。
スラバ 今までにないデータ活用法として、海外ではサプライヤー管理が進みつつあります。収集したデータを分析して無駄な購買をなくす、いわば「仕入れの最適化」です。例えば東京本社と大阪支社で同じ消耗品を別々のサプライヤーから仕入れるケースは珍しくありません。でも、同一法人で仕入れをしているのに、個別契約だからボリュームディスカウントが得られないわけです。経費データの一元管理ができれば、そうした無駄を減らし、原価低減を達成することにより、最終的に企業の利益向上につながります。
大阿久 日本でも戦略的なデータ活用のニーズが出てくるでしょうね。そう考えると、単にパーチェシングカードなどの決済ツールを提供することだけがカード会社の役割ではなくなるでしょう。サプライヤーとバイヤー双方にメリットをもたらすことを念頭において、データドリブンな経理業務に貢献できるソリューションの開発に取り組むことが必要となります。
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――法人カードの概要と利用メリットについてお聞かせください。
クレディセゾンでは、企業様の導入目的と用途にあわせ多彩な法人決済ソリューションを用意しており、クレジットカードでは5万社を超える法人様からお取引を頂戴しております。
役員、社員の方用の「コーポレートカード」、購買ご担当者用の「パーチェシングカード」や高速道路の利用に欠かせない「ETCカード」はもちろん、商品メニューも個人事業主から大企業様向けまで用途やニーズに合わせた多彩なソリューションをさせていただいています。
カードの発行・申請をはじめとした各種手続きのペーパーレス化を積極的に後押しできるオンラインレポーティングツールや、カード以外にも、企業様の請求から回収業務の完全自動化を実現する「SAISON INVOICE」などオリジナルのメニューも用意して企業様のDX推進をよりサポートしていきたいと考えています。
2021年5月には、業界初(同社調べ)となる申込から発行までをWEBで完結できる「セゾン・ビジネス プロ・カード」をデビューさせました。「最大1%キャッシュバック」や「支払サイト最大84日」などデジタル化対応に加え、企業様のニーズに対応したカードとして好評をいただいています。
――法人カードと経費精算システム「SAP Concur」を連携させるメリットは?
リモートワークだけで経費精算業務が完結する点です。2023年10月にはインボイス制度(※)がスタートし、さらに経理業務が煩雑になることが予想されますので、法制度の変更にも速やかに対応する「SAP Concur」と法人カードを導入するメリットはさらに際立つのではないでしょうか。(※インボイス制度:適格請求書等保存方式。消費税率や消費税額など所定の要件を満たした請求書の発行・保存が必要となる。)
――貴社の今後のビジョンを教えてください。
「日本の会社から紙とハンコを廃絶する」を命題とし、金融業者というよりも、企業様の視点に立ってあらゆる決済・支払ニーズに対応し、経費管理・支払業務プロセスの「業務効率化」「ガバナンス強化」「コスト最適化」を追求していきます。
また、「スピード」「利便性」「リーズナブル」な商品開発を命題として、カード以外の決済、金融、サービス商品の開発によって企業様の構造改革をお手伝いできればと考えています。
――「SAP Concur Fusion Exchange 2021」に向けての意気込みをお聞かせください。
クレディセゾンは、コンカーの「日本の間接費を改革する」という理念とクレジットカードとの親和性に共感し、2013年からともに日本のキャッシュレス社会実現に取り組んできました。DX、リモートワーク推進、電子帳簿保存法改正といった追い風の中、キャッシュレス、ペーパーレスを実現させ、企業の経営改革に貢献したいと思っております。
「SAP Concur Fusion Exchange 2021」では「新サービスで経理業務は次のステップへ 当社が実現する経費精算・請求業務のDX化」と題してそのための道筋を説明させていただきます。
「SAP CONCUR FUSION EXCHANGE 2021 JAPAN」 間接費領域のDX(デジタルトランスフォーメーション)で変わる企業戦略や革新的なワークスタイルについて、基調講演や事例セッションを通じ、ご参加の皆様と共に考えます。
「Rethink - アフターコロナを見据え、今一度、未来の為に考え直す-」をテーマに、1万人規模のオンラインイベントとして6日間開催予定です。詳しくはWEBサイトをご覧ください。