水インフラ持続に挑む「水コンサルタント」の正体 次世代の働き方へ導く「ウェルビーイング経営」
苦戦する浸水対策に不可欠な黒子「水コンサル」
気象庁によると1時間当たりの降雨量50ミリメートルを超える回数は、1976年〜2020年で10年当たり29.2回増加※2し、度重なる大雨などで浸水災害は深刻化している。中でも雨水ポンプ整備などの対策が遅れている地域では、甚大な被害が発生。さらに、高度経済成長期に整備が進んだ日本の上下水道は老朽化が進み、維持・更新、機能強化の必要性が日々高まっている。
自治体では災害に対応したハザードマップや地域避難計画策定などのソフト対策と施設整備などのハード対策との両面への対応が急がれる。しかし、限られた予算で対応しなければならないだけでなく、上下水道の整備などは個別技術を組み合わせて対応するため高度な専門性が欠かせず、一筋縄ではいかない。
こうした自治体の悩みや課題を解決するために今、重要な役割を果たしているのが「水コンサルタント」だ。「全国上下水道コンサルタント協会」の主要企業として活動の場を広げるオリジナル設計代表取締役社長の菅伸彦氏は次のように語る。
「オリジナル設計では地域の浸水シミュレーションから被害予測とコストのバランスを見て総合的な浸水対策を行います。そのほか、大規模な雨水ポンプ場から、小規模なエリアの内水(排水路などからあふれる水)による浸水被害軽減用のポンプ施設までさまざまな施設の検討・設計・監理に従事しています」
そもそも「水コンサルタント」が生まれたのは、社会資本整備の必要性が高まった昭和30年代の高度成長期。工事の客観性を確保する観点から、政府が「設計・施工分離の原則」を明確にし、設計業務(調査、計画、設計)を行う専門的な建設コンサルタントの分野が確立。そこから派生したのが上下水道を専業とする「水コンサルタント」だ。
今では、老朽化した上下水道施設の維持・更新、浸水対策だけでなく、電力を大量消費する下水道施設での脱炭素化や下水汚泥のバイオマス発電利用、上下水道施設の資産や管理データのDX推進など、さまざまな課題解決を担う。そのため、土木・建築・機械・電気・衛生・環境・データサイエンスなど専門的かつ総合的な知識が求められる。
「水コンサルタント業務は、難関国家資格である技術士(プロフェッショナルエンジニア)が行います。複雑な検討項目を適切に処理・判断し、自治体の予算やサービスレベル、事業年数などに応じたプランの策定が求められます。受託後の設計業務であっても、自治体の都市計画・地形・地質・地下埋設物などを精査し、別プランの検討が必要となることもしばしば。どんな事態に直面しても顧客に向き合い、要求事項に真摯に応える姿勢が私たちの強みとなっています」(菅氏)
「ウェルビーイング」が導く、技術者連携の強み
結果として多くの自治体に評価されるオリジナル設計は、年間平均約800件を受注と高いリピート率を誇る。各専門技術者間の「ヨコ」の連携と社長や幹部から現場までの「タテ」の連携が充実した「組織力」が強さの源泉だ。
同社では「組織力」を強化すべく、「ウェルビーイング経営」にも取り組んでいる。水コンサルタントは、限られた期間内に各分野の技術者による高度な知的検討が求められる仕事であり、それぞれが心身の健康を保ちつつ能動的に振る舞う必要があるからだ。
「業界共通の課題として頭脳労働の負荷が高い傾向にあるので、職場のコミュニケーションを活性化させることで、従業員の心身の健康維持に取り組んでいます。また主体的に業務に当たるポジションの社員を増やすなど、個人の成長と健康管理にも気を配っています。今年3月には健康経営優良法人の認定を受け、名刺にも『Pursuit of well-being』と記して使用し始めました。5月からは社員向けにスマートフォンと連動したウェアラブル端末を導入、全社的に中長期的に生産性を落とすことなく働ける機運を高めたいと考えています」(菅氏)
地球温暖化が進み、さらに水害が増えることが予想される。そうした中で、2022年に創立60周年を迎えるオリジナル設計は、どのように地域に貢献していくか。菅氏は次のように抱負を語る。
「ウェルビーイング経営を推進していくとともに、高度で多岐にわたる技術を基に要件に応じて組み合わせるだけの単なるエンジニアではなく、地域の生活を見据えた設計とご提案ができるコンサルタントを目指します。そして“水コンサルティングファーム"へと進化していきたい。60周年を一つの節目として、これからも新たなチャレンジを続けていきたいと思っています」
対応が急がれる浸水対策はもちろんのこと、世界で数少ない「水道水が飲める」日本が、今後も安全でクリーンな「水」とともに生活していくうえで「水コンサルタント」が果たす役割は拡大していくだろう。