アドビ社長「ワクワクの源は、学校教育にある」 子どもの創造力、育てるカギは「小4~中3」の間
アドビが目指す「心、おどる、デジタル」を実現する4つの柱
デジタルが私たちの生活から切り離せないものになって久しい。とくにSNSやeコマースを通じたビジネスでは、目を引く写真や質の高い動画といったデジタルコンテンツが顧客を振り向かせるカギになっている。アドビの調査によれば、企業の採用担当者の7割以上が、求職者の「クリエイティブツールのスキルを重視する」と回答(※1)。子どもの将来の夢として動画クリエイターが人気を博していることも、デジタルを駆使して発揮される創造性が大きな価値を持つ現代を象徴している。
そんな中、アドビが発表した新ビジョンが「心、おどる、デジタル」だ。アドビの代表取締役社長、神谷知信氏はこう語る。
「VRやAIなどの登場によって進化するデジタル技術と、そこに生命を吹き込む創造性の力という両軸で、心おどる、ワクワクする世界づくりをアドビがリードするという思いを込めています」
このビジョンの中心となるのは、20種以上のツールからなる「Creative Cloud」、PDF文書ツール「Acrobat」を含む「Document Cloud」、顧客体験管理を支援する「Experience Cloud」という3つのクラウドサービスの融合だ。
これらを通して、アドビは4つの要素を追求していく。まずはDigitalize(デジタル化)。「Document Cloud」は、業務プロセス全体をペーパーレス化する。リモートワークで進んだ紙文書の電子化にとどまらない、業務のデジタル化・効率化を推し進める。
2つ目はDelight(ワクワクさせる)。「Experience Cloud」によってデータを基に、顧客一人ひとりに合わせたコンテンツを適切なタイミング、チャネルで届けることが可能になる。それにより顧客体験の質が高まり、企業への信頼を獲得することができる。制作ツールに強みを持つアドビらしく、コンテンツとデータが融合したマーケティングを推進する。
3つ目がAmaze(期待を超える)。多彩なツールがそろう「Creative Cloud」は、プロをはじめとする幅広いクリエイターに使われる高い性能を持つ一方、クリエイティブの初心者も手軽に使えるユーザーフレンドリーな製品だ。誰もが自分なりの創造性を発揮できる環境づくりに貢献する。
そして4つ目がFoster(次世代を育てる)。アドビは「Creative Cloud」の全ツールが使えるライセンスを、小・中・高校生向けに1ユーザー当たり年間550円(消費税込み)から提供。創造性とデジタルリテラシーに富んだ次世代人材こそが「心おどる未来」を支えていくという発想に基づいた取り組みだ。ほかにもクリエイター支援のファンドを立ち上げるなどの施策で、教育現場を支援する。
神谷氏は、テクノロジーはもちろん営業力や顧客支援組織力の向上、パートナー企業との連携などを通じて「デジタルでワクワクする社会をつくりたい。それに向けたクリエイティブ・デジタルトランスフォーメーションを、アドビが牽引していく」と意気込む。
教育現場の「クリエイティビティ育成」をアシスト
そうした中、神谷氏が「社会全体の、創造性の源泉」とみているのが教育現場だ。
「日本のグローバル競争力を高めるため、そして一部の反復的なタスクがAIに代替される近い未来に備えるため、子どもたちの創造性を育む学校教育はますます重要になります。もちろん当社のビジョン実現に向けても、デジタル活用力と創造性を兼ね備えた次世代人材の育成が不可欠だと考えています」(神谷氏)
デジタル活用力の高まりに合わせ、学校教育の現場も変わってきた。政府が推進するGIGAスクール構想で、「児童・生徒1人に端末1台」の環境がほぼ実現。プログラミング教育も必修化された。
事実、アドビの「日本の高校生の創造力に関する意識調査」によれば、創造力に自信を持つのも自信を失うのも、「小学校4年生から中学3年生の間」が多い(※2)。すべての子どもたちに平等に機会を提供できる小・中学校で、創造力向上に取り組む意義は大きいとわかる。
アドビはビジュアルプレゼンテーションツール「Adobe Spark」を無償提供し、教員向けの導入研修を実施。また2010年には、教員同士が集いアドビ製品の活用事例を共有する場所をつくるべく、ポータルサイト「Adobe Education Exchange」をオープンしている。今や、世界で100万人以上の教育関係者が登録している一大コミュニティに成長した。
さらにアドビは、子どもたちに自分のクリエイティビティについて自信をつけてもらうため、他社と共同で次世代クリエイター育成プロジェクト「Kids Creator’s Studio」を2017、2018年度に実施。小学生がアドビ製品を駆使して制作したアプリやゲームは「想像していた以上にレベルの高い作品ばかり。自由な発想に基づいた、クリエイティビティの未来が期待される」と神谷氏を驚かせた。
誰でも「自由に創造力を発揮できる」社会をつくりたい
さらに大学レベルに対しては、リーズナブルな学生向けライセンスパックや、デジタルクリエイティブ講座を提供。この講座は複数の国立大学でも正式科目に採用され、利用が広がっている。「Experience Cloud」も米国を中心に、マーケティングスキルを学ぶ授業に導入されている。マーケティング業界を志す学生にとって、就職活動時のアピールポイントにもなるため、現在日本の大学も導入を検討中だという。
こうしたアドビの取り組みの根底にあるのは、「Creativity for All(すべての人に『つくる力』を)」という同社のミッションだ。
「すべての人が創造性を持ち、自由に発揮してほしい。この考えに基づいて、初心者からプロまで使えるアプリケーションづくりに注力してきました。もともとPC版だけで提供されていた画像編集アプリ『Photoshop』やイラスト制作アプリ『Illustrator』は、フル機能を使えるiPad版もリリースしています。もちろん、各機能や使い方についてのチュートリアルも用意。『Adobe Sensei(アドビセンセイ)』と呼ばれるAIアシスト機能も強化しています」(神谷氏)
今後の広がりとして、VRやAIといった最新技術が普及した未来に人をワクワクさせるには、新しいコンテンツや体験が求められる。すでに、アドビの素材データベース「Adobe Stock」の素材を組み合わせてイメージどおりの写真をつくりあげるバーチャルフォトサービスは、広く実用化されている。
「アドビはあくまでもツールベンダー。ツールを使ってクリエイティビティを発揮してもらうには、デジタルリテラシーと創造性にあふれた人材を育てなければなりません。これからもアドビのやり方で、より多くの人が創造力を発揮できる社会をつくりたい」と語る神谷氏。「デジタルが実現する心おどる世界」は、すぐそこまで来ている。
>デジタルリテラシーと創造性で、「心、おどる、デジタル」が実現する世界へ
※1「転職市場におけるクリエイティブツールスキルのニーズ」調査方法:インターネット調査 調査対象:中途採用担当者男女各200名 合計400名、求職・転職者 男女各100名 合計200名 調査期間:2021年4月16日(金)~18日(日)
※2「日本の高校生の創造力に関する意識調査」調査対象者 条件:日本の学校に通う高校生 サンプル数:1200サンプル(男女比均等) 調査手法:インターネット定量調査(テスティー アンケートモニター) 調査期間:2020年8月7日(金)~19日(水)