リアルタイム経営に必須、「デジタル改革」の肝 迅速な経営判断で商機を掴むために必要なこと

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ビジネス環境やマーケットの目まぐるしい変化を前に、スピーディーな経営判断を実現する「データドリブン経営」が注目されている。データを使ってビジネスアジリティーの向上やイノベーション創出を実現し、競争力を上げるという狙いだ。前回の記事広告では、データドリブン経営を効率的に回すための、デジタル基盤整備に必要なポイントなどについて探った。では、既存の基幹システムをどう変え、整備すればいいのか。今や常識とされているのがクラウドの活用だが、そこにはどんな壁があるのか。日本企業の実情と、その解決策について探った。

日本企業のシステム刷新が遅れている「3つの理由」

日本企業はDX、全社横断的なデータ活用が遅れがちだ。その原因に、デジタル基盤の複雑化・老朽化・ブラックボックス化があるという指摘が随所でなされている。

企業がこうした危機を乗り越え、新たなビジネスモデルを構築するためのソリューションが、「SAP S/4HANA」だ。ビジネスにまつわるデータをリアルタイムで一元管理し、企業資源の可視化を可能にする「SAP S/4HANA」は、多くのグローバル企業が採用しているERP(統合基幹業務システム)である。高速処理が可能となるメモリ上にデータを蓄積することで、部門や部署を超えて大量のデータをひも付け、価値あるデータへと集約できる。

しかし、日本企業はこうしたソリューションの導入によるシステム刷新に消極的だという。その理由について、PwCコンサルティングの平尾隆明氏はこう考察する。

PwCコンサルティング合同会社 パートナー
平尾 隆明

「理由は3つあります。1つ目は、以前ERPの導入で苦労した経験から、刷新を躊躇してしまっていること。一般的にERPを導入する際、自社独自の業務や業界の商習慣に合わせたカスタマイズ設定や、ERP以外のシステムとのインターフェースなどで追加開発をする必要があり、導入時に多大な工数が取られ、当初の目的であった肝心の業務標準化、効率化のための業務改善にまでつなげられず、メリットを十分に享受できなかった苦い経験を持つ企業も多くあります。

2つ目は、デジタル人材の不足です。単にERPを導入するだけでなく、業務改善まで踏み込む場合、その業務を担うデジタル人材の確保が必要になります。ただ、外からそのような人材を呼び込むにしても、デジタル人材自体が相当数不足しており、確保するにもコストが高くなります。そのため業務改善の検討がないがしろになり、優先度が下がってしまいます。

3つ目は、周辺の製品との連携について迷っているケースです。ERP導入時には、ほかのツールとのつなぎ方を検討し、自社が使っているITシステムの全体構造とセットで見直す必要があります。これも難易度が高く、ERP刷新の足かせになっています」

システム刷新の狙いは「データ集約」だけではない

さまざまな理由から、遅れがちなデジタル基盤の整備。しかし企業は、データの集約や分析を可能にするデジタル基盤を早急に選定しなければならない。単に在庫や売り上げを把握するだけではなく、蓄積されたデータを有効活用することにこそデータドリブン経営の価値があるからだ。

「グローバル企業なら、新しいマーケットへの参入時に、どの地域のマーケットでどの商品が売れているのか調べるはず。『SAP S/4HANA』で全社共通のデータ基盤をつくれば、部門を超えた情報を簡単に比較できます。また多角経営をしている企業であれば、一見結び付かないような事業同士の業績データを比較することで、何かしら関連性を見つけ、新規事業を生み出すことや無理・無駄・ムラの削減ができるでしょう」(平尾氏)

デジタル基盤の刷新によって、単にデータを活用しやすくするだけではなく、イノベーションの土台をつくったり、データドリブン経営の道筋を見いだしたりすることも可能だ。例えば経営判断に必要なデータをダッシュボード上で可視化し、関係者がリアルタイムで共有できるようにすれば、意思決定のスピードが格段に向上する。

「ほかにも、SAPの機能は多岐にわたっています。例えば、入力したデータを使ってレポートを作成する機能もありますが、レポートの内容や使い道は目的によって異なります。見栄えにこだわるあまり、必要以上に詳細な内容を網羅し、現場の負荷が増大しているケースもありますが、そもそも『本当に必要なレポートとはどんなものか』『どんな分析をすれば経営判断に役立つのか』といった観点も踏まえ、業務全体を見直さなければ、無駄な業務を削減し、業務改革やイノベーションを推し進めることは難しいでしょう」と、平尾氏は警鐘を鳴らす。

刷新するなら「クラウド×API連携」が肝

前述のとおり、ERPの刷新というと膨大なコストや時間がかかると考える経営者は多い。確かに以前は、ERPの導入においてゼロから一つひとつの要件を検討し、システム設定を実施し、かつ極端なアドオン開発をするのが通常だった。そのため一度構築した後には改修が難しく、アップデートにも多大なコストと時間を要していた。

しかし近年は、機能性やUI・UXに優れたアプリケーションソフトが多々登場していることから、API連携でERPの機能を拡張する手法がトレンドになっている。これによりコストを抑えられ、リリースまでのリードタイムも短縮できる。

「以前は、データ連携の頻度も日や月の単位でした。それをAPI連携に変えることで、リアルタイムで連携できるようになります。今はとにかくビジネスにスピードが求められる時代ですから、データ収集が1日遅れるだけでも商機を逸しかねません。それを踏まえて、API連携を進める企業が多くなってきています」(平尾氏)

こういった機会損失を防ぐためにも、リアルタイムにデータを1つのシステムに集約し、瞬時にアウトプットできるように整えておくことが重要だ。その際、システム基盤の構成として、クラウドを活用することは避けられない。昨今、「SAP S/4HANA」も含め、企業で利用される多くのシステムをクラウド上に移行するケースが多い。

「周辺サービスも含めて、トータルで構築しやすいのはクラウド型のシステムです。『SAP S/4HANA』にもオンプレミス型とクラウド型がありますが、クラウド型でも十分に高いセキュリティーを備えています。機密性をどれくらい担保するべきかは、自社のガバナンスと予算を照らし合わせて決めるといいでしょう。

また、システムの運用保守についても、クラウドなら自社のシステム部門が24時間365日監視する必要がなくなります。具体的には、従来のような障害発生時にデータセンターなどにて復旧作業をするといった必要もなく、リモートでモニターし、復旧はクラウド側で対応してくれるといったことが可能となり、運用要員の負荷が軽減されます」

「SAP S/4HANA」の導入は、自社のシステム部門が中心となって、外部のプロのデジタル人材を引き入れるケースが多く見られる。PwCコンサルティングは長年にわたり、大手企業のSAP導入を社外から支援してきた。業界のグローバルスタンダードをよく知るだけでなく、PwC Japanグループのメンバーファームとして、監査や税務を専門とする他のメンバーファームとの協業で幅広い分野をカバーできるノウハウを持ち、システム導入から業務改善まで全体を見据えた支援を得意とする。

「データは『あって当たり前』の時代です。まずは経営者が自社の現状を把握して、『システム刷新によって何を実現したいのか』という目的を明らかにし、視点を定めることが大事でしょう。PwCコンサルティングなら、その段階から伴走して、成功に導くことができます」(平尾氏)

PwCコンサルティングのようなプロと共に新しいデジタルアーキテクチャーを構築することで、自社の成長やイノベーション創出がより確かなものになるはずだ。

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