東京2020大会前に加速、テレワークの新潮流

東京都も支援、導入2社の事例に学ぶ活用術

もし新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)が収束したら、以前と同じような働き方に戻りますか? 今この問いに答えられる人は少ないかもしれない。テレワークか出勤か、どちらを取るかは、個人にとっても企業にとっても悩ましい問題だ。多くの企業ではテレワークによる新しい働き方が浸透しつつあるが、まだまだ模索を続けている企業も少なくない。東京都では2021年6月に「二者択一? テレワークか出勤か ~働く上での新しい日常との付き合い方~」と題するオンラインセミナーを開催した。今回は、こちらのセミナーで論議された内容をもとに、テレワークと出勤を組み合わせた、新たな働き方のヒントについて探ってみた。

好例2社に学ぶ、テレワーク実施の秘訣とは?

コロナ禍で、必要に迫られた緊急の対策として始まったテレワーク。東京都から各支援を受けられ、また、東京2020大会の開催も近づいていることもあって、テレワークを加速させるには絶好の機運だ。しかし、本格導入に躊躇している企業は少なくない。理由はいろいろとあるだろう。社内運用の壁はもちろんのこと、対面で行う何げない会話のありがたみ、取引先とのアイスブレイクが商談につながるといった感覚があることも一因かもしれない。

しかし、そうした体験は、本当にテレワークでは不可能なのだろうか。テレワークを導入しながらも、従業員や取引先と“これまでどおりのコミュニケーション”を取り、事業を継続する方法はないか、そして、今後求められていく働き方のスタンダードとは何なのだろうか。今回の東京都のセミナーでは、それぞれ違う業界でテレワークを推進する2人のビジネスパーソンが語り合った。その1人である内田建設株式会社 代表取締役の内田眞氏は、テレワーク導入のきっかけについて次のように語る。

内田建設株式会社 代表取締役
内田眞

「実はテレワークについては、弊社では地震や災害に対するBCP(事業継続計画)対策の一環として2019年夏からすでに導入を検討していました。そのきっかけは、『はじめてテレワーク』という東京都の補助金を紹介されたことです。そこから実際にテレワークが本格運用できるようになったのは半年ほどあとの20年1月ごろ。それが偶然にも新型コロナの拡大期と重なり、結果的に早めの導入が奏功した形となりました」

同社は足立区に本社を置く建設会社で従業員は20名。主に水道、道路などのインフラ工事を担っている。東京都の案件も多い。建設業とテレワークは一見縁遠いようにも思えるが、建設業でも、十分テレワークを導入できることを示す好例が内田建設(株)だ。テレワークを導入するに当たっては、コロナ禍に対応した勤務形態の変更があった。例えば、出勤に際しては公共交通機関を利用せず、自家用車または社用車を使うことを推奨。現場では熱中症対策も考慮して、マウスガードやファン付き作業着を利用していた。また、他にも取引先とは、すべて電子手形の利用に切り替えを行った。建設会社ゆえに完全にテレワークに移行できたわけではないが、その推進に当たってはいくつかの工夫をし、実施することとなった。

「各従業員の事情に合わせ出勤日を2~3日に集約して、出社しなければどうしてもできない仕事をする日を設定、それ以外はテレワークを行う決断をしました。社内や取引先との会議もすべてリモート化し、出社した場合も、自分の業務が終われば、早めに帰宅できる態勢にしました」

ただ、当初はテレワークを従業員に浸透させるに当たり、課題もあったそうだ。

「従業員のITスキルにばらつきがあり、自分でセットアップできなかったり、電話で教えようにも難しかったりといったケースが散見されました。また社外取引先とのやり取りについても、やはりハンコが必要だ、請求書を持ってきてほしいといったこともありました。そういうところで、難しさを感じることもありましたが、例えば支払い日などに業務を集中させて、メリハリをつけたりすることで対応していきました。その結果、かえって業務が整理され、生産性も高まったと考えています。多くの従業員はテレワークに好意的で、テレワーク推進のために何をすべきか、社内でさまざまな意見が出たことも大きかったですね」

同社ではテレワークを「全員が働きやすい職場づくり」の一環として位置づけている。ちなみに同社には、女子三段跳びで活躍しているアスリートの森本麻里子さんも在籍している。そんなこともあり、内田氏は休暇を取得しやすくするための柔軟な就業時間の導入や健康促進などトータルな観点から、テレワークができる従業員を増やし、現場でも利用できる環境を整えていきたいと語る。

「テレワーク導入に際して、従業員の管理をどうすればいいのかと聞かれることもありますが、実際のところ8時間の勤務中ずっとパソコンの前に座らせるなんて無理な話です。私は、始業と終業の報告、そして必要なときにきちんと対応できる態勢であればいい。あとは本人の裁量に任せるという方針を採っています」

リアルとリモートの「ちょうどいい距離感」

一方、新たな働き方としてテレワークを推進する一般社団法人ビズ・ディスタンス協会理事の山本聡一氏は次のように語る。

一般社団法人ビズ・ディスタンス協会理事/freee株式会社 金融アライアンス事業部部長
山本聡一

「われわれは中小企業を対象にプロダクトを提供しているのですが、2020年4月、新型コロナの脅威が迫る中、リモートワークが進まない中小企業にアンケートを取りました。そうしたところ、リモートワークを本格導入できない、一番大きな理由として、取引先との書類整理・確認作業が挙げられたのです。中小企業がリモートワークに取り組もうとしても取引先である大企業との関係で出社せざるを得なくなる。リモートワークを推進するには、大企業も含めて取引先のリモートワークにも配慮するという概念が必要でした。こうした課題を解決すべく、Twitterなども活用し、弊社が取引のある大企業様も巻き込んで、みんなでリモートワークを推進していきましょうと活動を始めました」

そのように始めた活動で、当初85社だった賛同企業は143社まで増え、リモートワークが推進された実感が湧いたと語る山本氏。しかしリモートが進むにつれ、課題も見えてきた。

「じゃあリモートが100%良いかというと、リアルが良い場合もある。職種や、その人の置かれている環境にもよります。“リモートワークをやりましょう”から、“リアルとリモートのいい塩梅を探りましょう、いい距離感=ビズ・ディスタンスを見つけていきましょう”ということで設立されたのが一般社団法人ビズ・ディスタンス協会です」

そう語る山本氏は元経済産業省官僚。現在は統合型クラウドERPを扱うフィンテック企業のfreee(株)において金融アライアンス事業部部長として活躍している。仕事上、中小企業のテレワーク事情についても詳しい。今、リモートワークをうまく利用している企業の共通点については、このように述べている。

「会社に対する従業員の帰属意識をどう維持し醸成していくのか。そこを徹底的に行うことが必要不可欠です。例えば、1日30分従業員同士の雑談の時間を設けたり、オンラインで全社イベントを行う際にも全従業員に同じ食事やグッズを配布して、何事も全員で共有したりするなど、さまざまな工夫をする必要がありますね。今リモートワークをうまく利用している企業の多くは、そうしたリアルに近いコミュニケーションをオンラインでどう実現していくかに注力し、実績を積み重ねていると感じています」

そして、山本氏はリモートワーク推進の活動を行う中で、その難しさについても指摘している。

「担当者も経理処理のためにわざわざ取引先を呼び出すことはしたくないはずです。しかし、企業が大きくなればなるほど会社のルールが立ちはだかってくる。でも、会社のルールはすぐには変えられません。そのため、今は現場の工夫でどうにか乗り切っているのが現状なのです」

とはいえ、コロナ禍をきっかけとしてリモートワークが推進され1年以上経った今、電子署名の利用なども増え、金融機関や取引先とのやり取りもWEB会議を利用するケースが増えているという。

「今やバーチャルオフィスが登場するなどリモートワークを推進するためのITツールは大きく進化しています。例えば、職場が東京で、自宅は長野であっても、リモートワークで支障なく仕事ができるようになっているのです。今、リモートワーク推進のために大事なことはリアルでやるべきこととオンラインでやるべきことを分けることです。情報共有などはオンラインで、クリエーティブな仕事はリアルでというように業務にメリハリをつけ、バランスを取ることが重要だと考えています。ビズ・ディスタンス協会では、賛同企業の社員の働き方を『#わたしのビズ・ディスタンス』というハッシュタグで募り、紹介する『note』も展開していますので、ぜひ参考にしてみてほしいですね」

今後、テレワークはどう進化していく?

一方、内田氏も今後テレワークをより推進するために、いろいろな工夫を試してみたいという。「建設の最先端分野ではリモートで重機を操作できたり、作業着にセンサーを付けることで作業員の健康管理をリモートで検知できたりする時代となっています。中小企業は今、人手不足が大きな課題となっていますが、少ない人数でいかに効率よく仕事を回すことができるのか。これからリモートで現場管理することも検討すべきだと考えています」

さらに、こうしたテレワークの導入が進化することによって、人事評価の方法も変わっていくと山本氏はみている。

「今後は、時間ではなくて、成果で評価することがもっと広がっていくでしょう。ただ、もちろんプロセスを評価しなければならない仕事もあります。そのときは、例えば、お客様の満足度など複合的な視点から評価していくなど、新たな人事評価方法を導入することも検討していく必要があると思います」

テレワークか、出勤か?

「もし新型コロナが収束したら、以前と同じような働き方に戻りますか?」

まず内田氏がこう答えた。

「根本的に人間同士はリアルで交流するのがノーマルだと思っています。ただ、働き方を元に戻すかと聞かれれば、それはないと思います。これからもリアルとテレワークをうまく組み合わせて、新たな働き方を模索していきたいと思っています」

では、山本氏はどうだろうか。

「各社にアンケートを取るとリモートワークには限界があるという回答が多いのですが、従業員に聞くと、すべて出社はありえないと回答しています。リモートワークでやってみてうまくいった部分はこれからも継続的に活用していくべきだと思っています」

2人の論議から皆さんはどんな感想を持たれただろうか。現在、東京都ではテレワーク導入について、助成金をはじめとしたさまざまな支援を積極的に行っている。詳しくは、下記のURLを参照されたい。

テレワーク導入・実施に活用できる助成金等についてはここから

テレワーク・マスター企業支援事業はここから

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